第8話 「現状の確認とルール」
「ふたりとも、説明きかなくてもいいの?」
そう言われて振り向いた先には、誰もいなかった。
いや、それは間違いだった。木の上から、一人の少女が舞い降りる。
長い黒髪が舞い、白のブラウスに赤と黒のチェックのスカートをはためかせながら、彼女は見事なまでの着地を披露してみせた。
乱れた髪の毛をなおしながら、彼女はこちらを見て返事を待っている。
・・・・・・完全に忘れてた。
彼女に指摘されてようやく、ここで突然召喚したことについての説明をしていたことを思い出した。
とりあえず、失礼だと思いながらも、説明を聞いてみた。
「~それでは~みなさんの~かつやくを~きたいしております~。がんばって~くださ~い」
ちょうど説明が終ったところのようだ。
「いえ、聞いといた方がいいのはなんとなくわかってはいたんですけど、これまでの情報交換をしていたら、つい」
そう言って俺は、その場に腰を下ろした。
すると、妹、少女の順に座った。
「それはそれでいいと思うの。だけど、こういうときはちゃんと聞いておいた方が後々楽だと思うよ」
「そう言われるとそうですね。情報なんていつでも交換できますしね。今度からは、きちんと聞いておきます」
「そうした方がいいよ。ただ、いつでも情報を交換できると思ったら間違いだよ」
「そうなんですか」
「うん。でも、そんなことめったに起こらないから安心していいよ。でもね、だからと言って油断してちゃだめだよ。手に入れなきゃいけないときに手に入れられずに、命を落とすこともあるから」
確かに、そうかもしれない。
俺もさっきは、村娘を生贄にしている村だということさえ知らなければ、下りていくことはなかったろう。そして、命を落とす危険な目に会うことも、なかっただろう。
いや待て、さっきは運よくテレポートしたから良かった物の、それがなかったら確実に死んでいたところだったぞ。
そしてこの時俺は気付いていなかった。その言葉を発した時の彼女の目は、どこか遠くを見ていたことを。
「あーあ、だったらお姉ちゃんと一緒にちゃんと説明聞いてればよかった」
そんなときに、さっきまで一言も発さなかった妹か口を開いた。
「少しも聞いてなかたってことはないでしょ?」
「えっと、その、なんといいますか。まったk」
「ほとんど、きいてなかったよ」
「いや、そこはもうちょっと柔らかく言おうよ。こうたとえば『まったく聞いてなかった訳ではないんですけど、その、ほとんどといいますか、ほぼすべてといいますか』とか」
「それは結局言ってること変わってないと思うよ」
「いや、それでも」
「くすくす」
「「?」」
「いえ、とても仲のいい姉妹だなと」
「ありがとうございます」
「え、今姉妹って言いましたよね。絶対言いましたよね」
「私の弟とは、こんなに仲良くないから」
「へえ、兄弟がいるんですか」
「うん。今高1なんだけど」
スル―された。
ん、そういえばこの人どこで俺とこいつが妹だと知ったんだ?
それにこの人、どこかで・・・・・・。
「そういえば、どこのパーティの所属だった?」
「「パーティ?」」
パーティって、あの勇者ご一行的な意味のパーティか?
「あ、ルール聞いてなかたんだっけ。ごめんね」
「はい」
「じゃあ、今から簡単に説明するね」
そう言って彼女は、説明を始めた。
「まずこの世界には5つの国があって、ここはそのうち1つ中央王国『光と正義の国』の『原初の丘』っていうところなんだって。他に東西南北1つずつ国があるみたい。それで、他の4つの国々も魔獣被害などそれぞれの事情を抱えているらしくて、異世界から勇者をそれぞれの国に100人ずつ召喚することにしたらしいの」
百人ずつってかなり多くないか。
普通、一人か二人だろ。
「何のために、異世界から?それと、なんでそんな大人数?」
「えっと、たぶんだけど、自分の国民は減らさずに死んでもそこそこ問題ないような人材が大量にほしかったんじゃない」
「なるほど」
そういうことか。例えば、戦争が起きたとしても、国民の被害を少し軽減できるうえに、強力な部隊を作り、敵国に攻め込むつもりなのか。
「そして、4人ずつ25組のパーティになるように、私たちを割り振ったらしいの」
「パーティって自分たちで作りますよね?」
「そこなんだけど、なんでもこの世界には常に居続けるわけじゃないらしいの」
「え、ふつう召喚されたら、ずっとその世界にいますよね?」
「ふつうはね。ただ何でも、1回目のときに『死んだら元の世界に戻れる』って噂が流れたらしいの。実際はウソだったんだけど、それで召喚した人たちが半分近くまで減ったらしくて。それで、今回はそうならないために、その『封装』に送還魔法が仕込まれているらしいの」
「「送還魔法?」」
「そう、召喚した人を元の世界に戻す魔法」
普通、そこまで考えて召喚しないだろ。
まあ、確かに折角魔力を消費して呼び出したのに、帰りたいの一言で自殺されちゃ困るだろうからな。
でもこの魔法は、自分から来た時にしか使わないと思うの」
「どういうことですか?」
「えっと、基本的には全員一斉に呼び出されるらしいの。このときに、世界が止まる。召喚される直前、そうなっていたでしょ」
「はい」
確かに、あの時の世界は変だった。
そういえば、あの時一緒にいた阿倍はどこに行ったのだろうか。
「でもね、この世界に来るには、封装に召喚魔法も仕込んであって、それでくることもできるの。そして、その時に使って帰るのが送還魔法」
「へぇ」
「実際は違うんだけど、術式が似ているから」
「そうなんだ」
「うん。そして、いつでもこっちに来れるようにパーティは地区ごとに作っているんだって」
「あ、だから」
「封装の中に、アイテムが収納されているから、そのなかから、えっと、ギルドカードっていうのを取り出して。私は、中央の1番だったけど」
「あれ、パーティに名前ないんですか?」
「自分たちのパーティ名くらいは考えさせてやる的な考えじゃないの」
「そうかもね。じゃ、カード見せて」
「いいですけど、そんなの見てどうするんですか」
ここまで親切にしてくれたのに、敵だったらいやだから見せたくない。
「二人とも召喚された時から、ここにいたんでしょ?」
「はい、そうです」
「だったら安心して。ここにいるのは、中央に所属する人だけみたいだから」
そう言われて、俺は封装からそのカードを取り出そうと胸元にあるコインに触れた。
するとコインが、青白く輝き、その光が、俺を包みこんだ。
どうも、マチャピンです。
今回は、会話文が多くなりました。
いつぞやの後書きでキャラが増えたら、会話が多くなると言っていたのは、こういうことです。たぶん。
さて、ついにルールを説明しきりました。
ただ、まだまだ知らないルールなどもある訳ですけど。
1章はたぶん次で最後です。短いと思いますけど、そういう予定なので仕方のないことです。ただ、だれかの視点でちょっと書くかもしれません。阿部とか、阿部とか、阿倍の視点で。
毎度のごとく、誤字脱字がありましたら、ご報告いいただけると幸いです。