俺が開発したものでNTRに目覚めるな
せっかく剣と魔法の異世界に転生したというのに、前世のリズム感ゼロと今世の運動音痴が理由で自分の中から剣という選択肢が消えた。それなら魔法はと、ためしに魔法で戦ったときのグロがトラウマとなり生きているものに魔法を向けることができなくなった。
貴族の三男でいずれは家を出なければいけない俺は、途方に暮れた。
文官や商人という選択肢が無いわけではない。けれど、せっかく転生したのだからファンタジーな世界を楽しみたかった。
進路に悩んでいるときに、助けてくれたのは父親だ。
「うちの家系で武器が使えるやつはほとんどいないから気にするな」
「お前の魔法は威力が強すぎて素材が取れなくなるし、無理して討伐に行く必要はないぞ。なに? 支援魔法を他人に向けるのも怖いのか? それならアイテムに魔法を込めてみろ。それなら怖くないだろ」
そう言って俺に寄り添ってくれた父親の役に立ちたいと、乳児期から鍛えてしまった人外ギリギリの魔力を生かす方法を探しているときに魔道具に出会う。地獄のような世界が一気に天国になった。
そこから魔道具開発にのめり込み、前世で使っていた家電のような魔道具を次々と開発しているうちに王家の目にとまった。
我が国の王がまともな人だったことが幸いし、横やりもなく俺は13歳から魔道具研究所に所属することができた。幸いにも搾取されるようなこともなく、比較的自由に開発を許してもらう厚遇を得て研究に没頭。18歳になる頃には魔道具研究所で『家庭用魔道具開発部主席責任者』という責任ある立場まで上ることになった。
そして現在、俺は責任者としてお客様からのフィードバックを受ける立場にある。
「主任、その開発途中のやつとりあえず一旦やめましょう。返ってきた使用レポートの報告書を早く読んでください」
「いや待って、ちょっと待って。もう少し、あと少しで……ここの回路をつなげば……アッ」
極細の魔道ペンで引いていた線がブレて違う線と接触し、回路が爆発した。
「ごほっ、クッソ集中切れた! 話かけるなよ!」
「それ一回も成功してないやつじゃないですか。細かすぎるんですよ。完成しても他の人が作れないものは製品にできないでしょう」
「わかってるけどさぁ。ロマンってあるじゃん?」
「今はそれより仕事してください。この報告書早く読んでください。読み終わったらどの改良を誰に振るかの指示をお願いします」
「うぃーっす。元の使用レポートも一緒に置いといて、そっち読む」
「報告書だけで十分では?」
「前にそれやって自分の都合がいいように内容の切り貼りしてた馬鹿がいたから嫌だ」
「あぁ……」
助手という名目の従者が眉間を押さえる。こいつは父親が子供の頃につけてくれたやつで、護衛も兼ねている。家を出ているとはいえ、侯爵家三男という立場だと自分のことを全部自分でやるのはあまりよろしくないらしい。身の回りの世話をしてもらうために数人の従者がついてくれている。そのうちの一人は研究所の助手として開発のサポートをしてもらっている。頼りになるやつだ。
頼りになる助手からレポートを受け取りサクサクと目を通していく。
今回の使用レポートは映像保存の魔道具、要はカメラについてのレポートだ。
用途が広いカメラの試作品は、数を作ってあちこちに配り歩いた。
騎士団や貴族、裕福な商人に教会関係者。もちろん王家にもそれなりの数を納品した。
使う人や使い道によって欲しい機能があるだろうし、魔道具のデザインは女性のほうが見る目が厳しい。そういった点も意見が欲しいと言っておいたがさてどうなっているか。
いま届いているレポートにざっと目をやると、肯定的な意見と否定的な意見に分けてまとめてある。さすが頼りになる男。
否定的な意見を後から見ると精神的ダメージが残るから、先に見ておくことにする。
読んでいくと、魔道具の起動が遅いや大きくて重いため持って歩くのが面倒という意見が多い。一つの魔道具に録画と再生の機能をつけたせいでランドセルくらいの大きさになってしまったから仕方ない。映像再生のパネルが無ければ半分くらいまでサイズダウンできるんだけど、そうすると再生専用の魔道具が別途必要になるからそれの方が面倒になりそう。これは一度会議に上げて他の人からも意見をもらうか。
否定的意見の最後の一枚を読んで、俺は首をかしげた。これは、開発した魔道具への意見でいいのか……?
「うーん……なあ、レオこれさぁ」
問題のレポートをひらひらと振りながら助手を見る。
こちらの言いたいことを察したのか、助手のレオは渋面を作った。
「それ、俺には単なる醜聞の暴露にしか見えないんですけど」
「だよねぇ。俺たちにどうしろと」
内容を要約すると『自宅に置いてあった映像記録の魔道具が勝手に起動し、妻が間男と浮気している場面が録画されていた。どうしてくれる』となる。これ、俺たちの責任か?
勝手に起動とあるけど、この魔道具はそうならないように手順が複雑化していてそのせいで起動が遅くなっている。案の定、起動の手順が面倒という意見も多かった。ですよねー。
前に作った別の試作機では、簡単に撮影できるようにしたらあっという間に記録魔石がいっぱいになるうえ、センサーが過敏で誤写がやたらと多かった。いまの技術で作れる性能では記録できる時間が短く限りがあるため、わざと手順を複雑にして撮りたい場面だけ撮影してもらう狙いだったのだ。
「そもそも撮影魔道具はうっかり起動しないよう起動を複雑にしてあるし、これ奥さんか浮気相手がわざと見せるために撮影したとしか思えないんだけど」
「意味がわからないんですが、なんでそんなことする必要があるんですか主任」
「見せつけるため?」
「変態じゃないですか」
「それはそうなんだけど……いや、ちょっと待って」
俺は問題のレポートへもう一度目を通す。貴族的で遠回しな言葉使いを読み解き、内容を精査する。
「…………あれ、これもしや、喜んで……? いやまさか」
一枚の紙にびっしりと書き込まれた文章をじっくり読みこむ。時候のあいさつ、つかみの部分にある妻の自慢、本文には道具が何に使われたか強い言葉で書き連ね、終わりにやたらと力強い筆致で『もっと長い時間を撮影できるよう、改良を望みます』っておい。
「レオ、これさぁ、これ、とりあえず無視しようか」
「そうしましょう。奥方の浮気なんて、こちらはどうにもできませんし」
『もっと長い時間を撮影できるよう、改良を望みます』がやたらと力を込めて書いてあるせいで、浮気調査にでも使うのかと思っていた。
しかし、俺の中にある前世の記憶が一つの可能性を見出す。
このおっさん、新しい性癖の扉を開きやがったな、と。
そうじゃなければ『知らない妻の姿に興奮した』とか書かないじゃん?
俺はNTRビデオのためにこの魔道具を開発したわけじゃねーんだわ。犯罪の証拠とか、子供の成記録とか、めったに会えない親族や友人へ姿を見せるためとか、そういう用途を想定して開発したんだよ。
精神的に疲れた俺は、肯定的な使用レポートで心を癒すことにした。
その前に、問題のレポートを脇によける。
そして気がついてしまった。
匿名での返答可のレポートにご丁寧にフルネームの署名がある! しかもこの人、研究所のパトロンの一人じゃん! 来週のパーティーで絶対に会うひとじゃん!? 俺、どんな顔して会えばいいんだ!?
「…………レオ、あのさぁ。来週のパーティーって欠席してもいいやつ?」
「駄目なやつです。理由はわかりますけど、よっぽどのことがないと欠席は許されません」
「署名見ちゃったかぁ」
「嫌でも目に入りました」
「パーティーってことは奥方も……」
「言わないでください。俺と違ってロナルド様は直接ご挨拶しなきゃいけないんですよ。大丈夫ですか?」
「がんばるわぁ……」
「がんばってください」
「うぃっす」
俺は来週に迫る試練に、思わず遠い目をするのだった。
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