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全人類★1レビュー:クズ王子の捨て方

作者: キュラス
掲載日:2026/04/25

「エミリア・フォン・クロスフォード! 貴様のような陰湿で傲慢な女との婚約は、たった今この瞬間をもって破棄させてもらう!」


王立学園の卒業パーティーを祝う大広間。

豪奢なシャンデリアの下で、この国の第一王子であるユリウス殿下は、声高らかにそう宣言した。

彼の腕の中には、涙ぐんで身を縮める可憐な男爵令嬢、マリアの姿がある。


周囲を取り囲む貴族たちが、一斉にざわめき始めた。

「まぁ、クロスフォード公爵令嬢が婚約破棄ですって」

「マリア様への嫌がらせの数々、やはり本当だったのね」


向けられるのは、私を軽蔑する冷ややかな視線ばかり。

普通ならば、ここで泣き崩れるか、「私ではありません!」と見苦しく弁明する場面なのだろう。


しかし、私の視線は、ユリウス殿下の顔でも、マリアの勝ち誇ったような瞳でもなく――彼らの頭上の「虚空」に釘付けになっていた。


【 対象:ユリウス・フォン・グランツ 】

【 総合評価:★1.2 】

【 レビュー数:15,042件 】

《 ピックアップ・レビュー 》

『顔だけの男。中身は空っぽ』(★1)

『浮気性。新しいオモチャを見つけるとすぐに乗り換える』(★1)

『自己評価が高すぎる。投資対効果コスパ最悪。絶対におすすめしません』(★1)

『※要注意※ 怒るとすぐ物に当たるモラハラ気質あり』(★1)


(……うわぁ、見事なまでの低評価。レビュー欄が大炎上しているわね)


私は、扇で口元を隠しながら、心の中で盛大なため息をついた。


一ヶ月前。私は突然の高熱から目覚めた日を境に、他人の頭上に『全人類からのカスタマーレビュー』が見えるという謎の能力に目覚めた。

最初は熱に浮かされた幻覚かと思ったが、その精度は恐ろしいほど正確だった。侍女の裏切りも、横領を働いていた家令も、すべてこのレビュー星の数と口コミで一発で見抜くことができたのだ。


そして、私の婚約者であるユリウス殿下の評価は、この国でも底辺クラスの『★1.2』だった。

おまけに、彼が大事そうに抱きしめている男爵令嬢マリアの頭上には――。


【 対象:マリア・キャンベル 】

【 総合評価:★1.5 】

【 レビュー数:8,930件 】

《 ピックアップ・レビュー 》

『悲劇のヒロイン症候群。涙は99%嘘』(★1)

『他人の彼氏ばかり狙う泥棒猫。金払いの良い男を探しているだけ』(★1)

公爵令嬢エミリアの教科書を隠したのはこの女です』(★2 ※手口が鮮やかだったので星+1)


(……お似合いのポンコツカップルじゃないの)


私はすうっと息を吸い込み、スッと背筋を伸ばした。

レビュー機能が覚醒してからのこの一ヶ月、私はユリウス殿下という『不良債権』をどうやって損切りするかばかりを考えていたのだ。

向こうから婚約破棄を言い出してくれるなんて、まさに渡りに船である。


「ユリウス殿下。ただ今のご発言、間違いなく『婚約破棄』ということでよろしいですね?」

「あ、ああ! その通りだ! 貴様のように嫉妬に狂い、マリアを虐めるような悪女は、次期王妃にはふさわしくない!」

「承知いたしました。では、喜んでお受けいたしますわ」


私が美しいカーテシーと共にそう告げると、大広間が水を打ったように静まり返った。


「……は?」

「な、なに?」


ユリウス殿下もマリアも、目を丸くして固まっている。私が泣き喚いてすがりついてくるとでも思っていたのだろう。★1.2の思考回路は本当に単純だ。


「婚約が白紙に戻ったとのことですので、事務的な確認をさせていただきますわね。まず、殿下が現在着用されているその礼服ですが、我が公爵家のお抱え職人が仕立てた最高級のシルクです。速やかにご返却くださいませ」

「なっ……礼服だと?」

「ええ。それだけではありません。殿下が学園に寄付された新図書館の建設費、殿下の個人的な遊興費、さらには王宮の東棟の改修工事費に至るまで。これらはすべて『次期王妃となる私への誠意』として、クロスフォード家が無利子で立て替えていたものですわ」


大広間がざわつき始めた。

公爵家が王家の借金を肩代わりしているなど、暗黙の了解であっても公の場で口にされることではなかったからだ。


「婚約破棄が成立した以上、これらは単なる『借入金』となります。期日までの全額一括返済を求めさせていただきます。……ああ、もちろん、謂れのない冤罪に対する正当な慰謝料も別途ご請求申し上げますわ」

「き、貴様……っ! 王家に対する嫌がらせか!」

「嫌がらせ? おかしなことを仰いますね。借りたお金を返すのは、平民でも知っている当たり前のルールですわ。それとも、殿下は『愛があればお金なんて関係ない』とお考えで?」


私はわざとらしく首を傾げ、ユリウス殿下の腕の中にいるマリアを見つめた。


「マリア様も、真実の愛で結ばれたお二人なのですから、王家が破産して平民のように慎ましく暮らすことになっても、愛の力できっと乗り越えられますわよね?」


ビクッ、とマリアの肩が跳ねた。

彼女の頭上のレビューが更新される。

『新規レビュー:金がない王子なら用はない。早く次のターゲットを探さなきゃ(★1)』


(分かりやすすぎるわね。★1同士、せいぜい底辺で潰し合ってちょうだい)


「ふざけるなッ! どこまで俺をコケにすれば気が済むのだ、この悪女め!」


プライドをズタズタにされたユリウス殿下が、激昂して私に向かって手を振り上げた。

女性の顔を平手打ちしようとする、王族としてあるまじき行為。

私が避けるために一歩下がろうとした、まさにその時だった。


◇◇◇


「――そこまでにしておけ、愚弟」


振り下ろされるはずだったユリウス殿下の腕は、突如として横から現れた長身の男性によって、軽々と掴み止められていた。


「あ、兄上……っ!?」


ユリウス殿下が顔を青ざめさせ、怯えたような声を上げる。

現れたのは、夜の闇を溶かしたような漆黒の髪と、氷のように冷たい金色の瞳を持つ青年だった。

ルードヴィヒ・フォン・グランツ大公殿下。

現国王の兄でありながら、圧倒的な武力と冷徹な政治手腕から『北の死神』と恐れられる、この国の裏の最高権力者だ。


彼が現れた瞬間、広間の気温が数度下がったかのように錯覚するほどの威圧感。貴族たちは皆、息を呑んで道を空けた。


(ルードヴィヒ大公……。まさか、こんなところでお会いするなんて)


私は無意識に、彼の頭上を見上げた。

これほど恐れられている冷酷な死神公爵だ。ユリウス殿下以上に恐ろしい低評価レビューが並んでいるに違いない。


そう思った私の目に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。


【 対象:ルードヴィヒ・フォン・グランツ 】

【 総合評価:★5.0(MAX) 】

【 レビュー数:3件 】

《 ピックアップ・レビュー 》

『極度の不器用なだけ。本当は誰よりも優しく、領民思い』(★5)

『不言実行の鑑。捨て猫を拾ってこっそりミルクをあげているのを見ました』(★5)

『顔面国宝。彼に愛された女性は、一生涯、絶対的な忠誠と溺愛を約束される最高級の超優良物件』(★5)


(……は? ほ、星5.0!? しかもレビューの内容、優しすぎない!?)


私は思わず目を瞬いた。

1万件以上のレビューで★1.2を叩き出していたユリウス殿下とは対照的に、ルードヴィヒ大公のレビュー数はたったの『3件』。

しかし、そのすべてが圧倒的な大絶賛。まさに「知る人ぞ知る、伝説の隠れた名店(最高級物件)」ではないか。


「ルードヴィヒ大公閣下……」

「怪我はないか、エミリア嬢」


大公が私に向けて放った声は、極寒の吹雪のように冷たく、表情には一切の感情が浮かんでいない。周囲の貴族たちがその威圧感に震え上がるのも無理はない。

……しかし、私の目には、彼の頭上にひっそりと浮かび上がった『新規レビュー(※大公自身の心の声)』がリアルタイムで追加されるのが見えていた。


『新規レビュー追加(ルードヴィヒ本人より):エミリア嬢が美しすぎて直視できない。怪我がないか心配で心臓が破裂しそうだ。今日こそちゃんとエスコートするんだ俺……!(★5)』


(――っ!? ちょ、ちょっと待って!?)


私は扇の陰で、必死に吹き出しそうになるのを堪えた。

冷酷な死神公爵の正体は、まさかの限界ガチ恋不器用ヤンデレだったのだ。


「ユリウス。先ほどのエミリア嬢の主張は、一つ残らず正論だ。貴様が私的に使った公爵家からの借入金、王室予算から補填することなど絶対に許さん。貴様個人の資産を売却してでも返済しろ」

「なっ……! 兄上! たかが女の嫉妬で言いがかりをつけられているだけです! 俺はマリアと真実の愛を――」

「黙れ」


大公の鋭い一瞥に、ユリウス殿下はヒィッと情けない悲鳴を上げて黙り込んだ。


「自らの不始末のツケを女に払わせ、逆上して暴力を振るおうとする男のどこに愛があるというのだ。……近衛兵! この愚か者を直ちに謹慎させよ。隣にいる男爵令嬢も、虚偽申告の疑いで取り調べろ!」

「はっ!」


近衛兵たちが雪崩れ込んできて、喚き散らすユリウス殿下と、泣き崩れるマリアを両脇から抱え上げ、文字通り「ゴミ箱」へと連行していった。

彼らの頭上の★1.2の文字が、広間の外へと遠ざかっていくのを見送りながら、私は小さく息を吐いた。


「……見苦しいものを見せたな、エミリア嬢」


ルードヴィヒ大公が、ゆっくりと私に向き直る。

相変わらず表情筋は死滅しているが、頭上には『嫌われたらどうしよう。怖がらせてしまっただろうか(★1※自己評価)』という悲痛な文字が点滅している。


「いえ、お助けいただき、心より感謝申し上げますわ、大公閣下」


私が極上の笑みを浮かべてお礼を言うと、大公はビクッと肩を震わせ、スッと目を逸らした。

頭上には『笑顔が可愛すぎる。天使だ。全財産を貢ぎたい(★5)』という文字が乱舞している。


「……少し、よろしいか。君と今後の『取引』について話がしたい。バルコニーへ行こう」

「はい、喜んで」


私は、差し出された彼の手――少しだけ緊張で震えているその大きな手――を、迷わず取った。

ゴミのような不良物件を無事に処分できたのだ。これからは、この★5.0の超優良物件を、何があっても絶対に逃がさないと心に誓いながら。


夜風が心地よい、静かなバルコニー。

広間の喧騒から切り離された薄暗い空間で、ルードヴィヒ大公は私の手からそっと自身の大きな手を離した。

その顔は相変わらず氷の彫像のように無表情で、隙が全くない。


「……すまない。強引に連れ出してしまって」

「いいえ、ちょうど少し風に当たりたいと思っていたところでしたの。それに、あのままあそこに居座っても、見世物になるだけでしたから」


私が微笑むと、大公は「そうか」とだけ短く呟き、夜空を見上げた。


「エミリア嬢。先ほどの私の提案だが……君と『取引』をしたいというのは本心だ」

「取引、ですか?」

「ああ。君はあの愚弟から、公衆の面前でいわれのない婚約破棄を突きつけられた。いかに君が正しかろうと、社交界の醜聞の的になることは避けられないだろう。……そこでだ」


大公は冷たく鋭い金色の瞳で、私を真っ直ぐに見据えた。

まるで、軍議で冷徹な作戦を立案する指揮官のような、感情を排した声。


「私と、結婚してはくれないか」


唐突なプロポーズ。

だが、その言葉に甘い響きは一切ない。


「もちろん、これは政略的な契約だ。私は国境警備と領地経営のため、有能で血筋の良い妻を必要としている。君にとっても、私という盾があれば、国内で君を嘲笑する者は誰一人いなくなる。互いの利害が一致する、極めて合理的な提案だと思うが」


いかにも『死神公爵』らしい、冷徹で計算高い契約結婚の提案。

普通ならば「私のことを政治の道具としてしか見ていないのね」と落ち込むか、あるいは「背に腹は代えられない」と打算で受け入れる場面だろう。


――私の目さえ、正常であったならば。


【 新規レビュー追加(ルードヴィヒ本人より) 】

『嘘だ。政略なんて全部嘘だ。本当は十年前から君のことが好きで好きでたまらなかった。どうか頷いてくれ。君のためなら俺の命も財産もすべて捧げる(★5)』

『断られたらどうしよう。俺のような血塗られた男が君に触れるなんておこがましいのは分かっている。でも、あのクズから君を守るためにはこれしか方法が思いつかなかったんだ……!(★5)』

『月明かりに照らされたエミリア嬢が美しすぎて息が止まりそう。ダメだ、手汗をかいていないか? 嫌われたくない、嫌われたくない……っ(★5)』


(…………愛が、愛が重すぎるわっ!!)


私は扇で口元を覆い隠し、全身の震えを止めるのに必死だった。

表面上は「冷徹な政略結婚」を装っているくせに、頭上のレビューでは「十年前からの純愛」「全財産譲渡」「限界ガチ恋オタク」という激重感情を大暴露しているのだ。

しかも、自分のことを『血塗られた男』と卑下する自己評価の低さ。★5の最高物件が、なぜこんなにも不器用なのか。


「……エミリア嬢? やはり、私のような恐ろしい男の妻になるなど、承服できないか」


私の沈黙を「拒絶」と受け取ったのか、大公の金色の瞳が微かに揺れた。

頭上のレビューが『あああ嫌われた! 終わった! 明日首を括ろう!(★1 ※極度の自己嫌悪)』に切り替わったのを見て、私は慌てて口を開いた。


「とんでもございませんわ、大公閣下。……ただ、少し驚いてしまっただけです。私のような瑕疵のついた女を、閣下が求めてくださるなんて」

「瑕疵などない。君は完璧だ」


即答だった。

大公は一歩だけ私に歩み寄り、切羽詰まったような低い声で言った。


「君は何も悪くない。悪いのはすべて、君の価値を理解できなかったあの愚弟だ。……君は、誰よりも尊く、美しい。だから、自分を卑下するようなことだけは言わないでくれ」


その言葉には、彼の本当の「本音」が滲み出ていた。

頭上のレビューを見なくとも、彼がいかに私のことを大切に思ってくれているかが痛いほど伝わってくる。


(本当に……なんでこんな素晴らしい人が、今まで独り身だったのかしら。ユリウス殿下なんかより、よっぽど素敵な人なのに)


胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じた。

打算でも損切りでもない。私は純粋に、この不器用で一途な男性の傍にいたいと思った。


「……わかりましたわ、大公閣下。その合理的なご提案、喜んでお受けいたします」


私がにっこりと微笑んで答えると。


「……! そ、そうか。賢明な判断に感謝する。では、すぐに王家と公爵家に使いを出そう」


大公はピシッと背筋を伸ばし、冷静を装って頷いた。

だが、彼の頭上では。


『言った!? 今「お受けいたします」って言った!? やったあああああああああ!! エミリア嬢が俺の妻に! 俺の妻に!! 今日から国境沿いは三日三晩の祝宴だあああああ!!(★5 ※歓喜のあまりテンションが崩壊)』


(閣下、心がうるさいですわ!)


私は吹き出しそうになるのをこらえ、ただ優雅に「よろしくお願いいたしますわ、旦那様」と微笑み返すことしかできなかった。


◇◇◇


それから一週間後。

ユリウス殿下との婚約破棄騒動から怒涛の勢いで手続きが進み、私は王都から遠く離れた北の地、ルードヴィヒ大公の領地へと嫁いできた。


大公邸は『北の死神』という異名から想像されるような禍々しい城ではなく、質実剛健でありながらも手入れの行き届いた、美しい屋敷だった。


驚くべきは、この屋敷で働く使用人たちの頭上に浮かぶレビューだ。


【 対象:執事長 トマス 】

【 総合評価:★4.8 】

《 ピックアップ・レビュー 》

『旦那様(大公)への忠誠心は本物。少し小言が多いが仕事は完璧(★5)』


【 対象:メイド長 マーサ 】

【 総合評価:★4.9 】

《 ピックアップ・レビュー 》

『若くして母を亡くした旦那様を我が子のように思っている。新妻のエミリア様が来てくれて大喜び中(★5)』


(すごい……。王宮の使用人たちは★2とか★3ばかりだったのに。この屋敷、優良物件しかいないじゃないの)


使用人たちの質は、主人の質に比例する。

ルードヴィヒ大公が、いかに領民や部下から慕われ、公正に屋敷を治めているかが一目でわかった。


「エミリア様。旦那様が、執務室でお待ちです」


メイド長マーサの温かい案内に従い、私は屋敷の最奥にある執務室へと向かった。

重厚な扉をノックして中に入ると、書類の山と格闘していた大公が、弾かれたように顔を上げた。


「エミリア。……長旅の疲れは取れたか。部屋に不足はないだろうか」

「はい、ルードヴィヒ様。とても快適に過ごさせていただいておりますわ」


契約結婚とはいえ、夫婦となった以上は名前で呼ぶようにと彼から申し出があったのだ(その際、彼の頭上には『名前を呼ばれたい名前を呼ばれたい名前を呼ばれたい』とびっしり書き込まれていた)。


「そうか。それは良かった」

大公はコホンと一つ咳払いをして、立ち上がった。


「実は、君に渡したいものがあって呼んだ。……こちらへ」


促されて彼の机に近づくと、そこには美しいベルベットの箱が置かれていた。

パカッ、と開けられた箱の中には、私の瞳の色と同じ、吸い込まれるようなアメジストがあしらわれた豪奢なネックレスが鎮座していた。


「これは……」

「君への、ささやかな贈り物だ。王都の宝石商から適当に見繕わせたものだが……気に入らなければ、捨ててくれて構わない」


大公は視線を逸らし、極めて事務的な、冷淡とすら取れる口調でそう言った。

適当に見繕った。いかにも愛のない政略結婚の体裁を取り繕うような言葉だ。

だが。


『嘘です。三日三晩カタログを漁って、王都で一番腕のいい職人を叩き起こして特注で作らせました。君の瞳の色に一番近い石を探すのに死ぬほど苦労した。どうか捨てないでくださいお願いします(★5)』


(適当の「て」の字もありませんわよ、旦那様……っ!)


私は思わず、プルプルと肩を震わせた。

この人、なんでこんなに裏表が激しいのか。口では冷たいことを言いながら、頭の上のレビューでは全身全霊で「愛してくれ」と土下座しているようなものだ。


「……気に入らなかったか?」


私が黙っていると、大公の金色の瞳が不安げに揺れる。

頭上のレビューが『やっぱりセンスが悪かったか! 俺はなんて馬鹿なんだ!』と自責の念に染まり始めたのを見て、私は急いでネックレスの箱を胸に抱きしめた。


「とんでもありませんわ! とても美しい……。私のために、わざわざ選んでくださったのですね」

「っ……! あ、ああ。あくまで、大公妃としての体裁を保つためだがな」


私は一歩彼に近づき、上目遣いで彼を見つめた。


「ルードヴィヒ様。……私、不器用なので自分ではうまくつけられませんの。よろしければ、つけていただけませんか?」

「……!!」


大公の体が、目に見えてビクッと硬直した。


『えっ? 俺が? 俺のこの血塗られた穢れた手で、彼女の白魚のような首元に触れろと!? 死ぬ。緊張で呼吸が止まりそうだ。いやでもエミリア嬢のお願いを断るなんて万死に値する。どうする俺、落ち着け、深呼吸だ……!(★5 ※心拍数異常上昇中)』


彼のパニックぶりが手にとるように分かり、私は心の中で「ふふっ」と笑みをこぼした。

ユリウス殿下のような薄っぺらい男とは違う。この人は、私という人間を本当に大切に、壊れ物を扱うように尊んでくれている。


「……失礼する」


ルードヴィヒ様は、微かに震える手でネックレスを取り上げると、私の背後に回った。

首筋に、彼の大柄で温かい指先がそっと触れる。極度に緊張しているのが伝わってきて、私の胸までドキドキと早鐘を打ち始めた。


「……似合っている。とても」


耳元で囁かれた低い声。

振り返ると、彼の金色の瞳が、隠しきれない熱と愛情を孕んで私を見つめ下ろしていた。


【 新規レビュー追加 】

『世界一美しい。俺の奥さん、世界一可愛い。絶対に誰にも渡さない(★5)』


言葉にされない、けれど星の数ほど確かな愛情。

私はこの★5.0の旦那様を、一生かけて世界一幸せな男にしようと、アメジストの輝きにかけてひそかに誓ったのだった。

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