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星の令嬢は永遠のまどろみに愛される〜一日六時間しか起きられない病弱令嬢が、四人の男たちに囲われ、やがて永遠の眠りにつくまで〜  作者: 真白しろ


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第9話:目覚めと不敬罪、そして温室の出会い

(……ん、ふぁ……)

小鳥のさえずりと共に、重たいまぶたをゆっくりと開ける。

見慣れた天蓋。漂ってくる微かな百合の香り。どうやらここは、アストレイア邸の自室のようだ。

「……おはようございます、お姉様」

ベッドの傍らには、すでに学園の制服に着替えたテオが腕を組んで座っていた。その端正な顔は、どこか般若のように険しく、背後にはどす黒いオーラが見えるような気がする。

「おはよう、テオ。……あの、私」

寝ぼけた頭が急速に回転し、昨日の記憶が鮮明に蘇る。

重たいドレス。王立学園の特別サロン。美しいプラチナブロンドのエドワード王太子殿下。そして――抗えなかった猛烈な睡魔。

「わ、私っ、エドワード殿下の御前で眠ってしまったの!? しかも、殿下によりかかって……っ!?」

サァァッ、と自分の顔から血の気が引く音がした。

不敬罪! 間違いなく不敬罪よ! アストレイアの家名に泥を塗るどころか、首が飛んでもおかしくない大失態だわ!

「ええ、そうです。あろうことか、あの色ボケ殿下はお姉様を抱きしめたまま離そうとせず、僕が剣を抜いて切りかかる寸前までニヤニヤと笑っていました」

ギリッ、とテオが歯軋りをする。

待って、テオも王太子殿下に剣を向けようとしたの!? そっちの方が大問題じゃないの!

「ご、ごめんなさい……! 私、すぐに殿下に謝罪の書状をしたためないと……!」

「必要ありません。あの男には僕からたっぷりと『牽制』をしておきましたから。それよりお姉様、今日は絶対に僕の側から離れないでくださいね。学園には、無防備なお姉様を狙う不穏な輩が多すぎます」

テオは私の手をぎゅっと握りしめ、ヘーゼル色の瞳を暗く濁らせた。

(テオがなんだかひどく怒っているけれど、とにかく殿下には直接お詫びをしなければ……)

――しかし、その日の学園は、私の想像以上に騒がしかった。

「アストレイア侯爵令嬢! 少しお時間を!」

「昨日、サロンで特待生をお助けになったとか! ぜひ我が派閥に……」

昨日の出来事がすでに噂になっているらしく、廊下を歩くたびに声をかけられる。テオが猛犬のように冷たい視線で威嚇して追い払ってくれるけれど、ただでさえ少ない私の体力は、人混みと緊張でゴリゴリと削られていった。

(だめ……まだお昼休みだというのに、もう息が上がってきたわ……)

エドワード殿下に謝罪に行くどころか、立っているのもしんどい。

私はテオが「すぐに温かい飲み物をもらってきます、絶対に動かないでくださいよ!」と離れたわずかな隙に、人目を避けて、学園の裏手にある古い温室へと逃げ込んだ。

「……はぁ。ここは静かで、いい匂いがするわね」

色とりどりの花が咲き乱れる温室の隅。ふかふかの土と緑の香りに包まれて、私は持っていた鞄から、お昼用に持たされていた小さな焼き菓子を取り出した。

「みぃ」

足元にすり寄ってきたのは、迷子になったらしい小さな白い子猫だった。よく見ると、額に小さな角がある。ひょっとすると、学園の森に住んでいる幻獣の子供かもしれない。

「お腹が空いているの? ほら、お食べなさい」

ふにゃりと笑って焼き菓子を崩してやると、幻獣の子は私の膝の上に飛び乗り、美味しそうに食べ始めた。ぽかぽかとした温室の陽気と、心地よい花の香り。膝の上の小さな命が鳴らす、ゴロゴロという喉の音。

(ああ……だめ。まだ今日は、三時間しか起きていないのに……)

ストン、と温室のベンチに座り込んだ私のまぶたが、限界を告げてゆっくりと閉じていく。テオが戻ってくるまで、ほんの五分だけ。五分だけ目を閉じよう。

「……おいおい。こんな人目につかない場所で、無防備に寝落ちする令嬢がいるのかよ」

夢と現実の狭間で、ふと、面白がるような男の人の声が聞こえた。

薄れゆく視界に映ったのは、柔らかくウェーブのかかったエメラルドグリーンの髪を後ろで低く結んだ、中性的で妖艶な美少年。

制服のボタンは開けられ、首元には魔力を増幅させるチョーカーが光っている。銀縁の眼鏡の奥で、アンバー(琥珀色)の瞳が知的な光を宿して私を見下ろしていた。

(宮廷筆頭魔術師の……クロムウェル伯爵家の、シリル様……?)

天才魔術師と呼ばれる彼は、私の特異な魔力に引き寄せられたのか、私の隣にしゃがみ込み、私の顔をひどく興味深そうに覗き込んでいた。

「……おかしな魔力の流れだ。君、自分の『時間』が削られていることに気づいてないのか?」

彼のつぶやきに答えることはできず。

私は膝の上の幻獣を抱きしめたまま、またしても深い深い眠りの底へと落ちていった。

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