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星の令嬢は永遠のまどろみに愛される〜一日六時間しか起きられない病弱令嬢が、四人の男たちに囲われ、やがて永遠の眠りにつくまで〜  作者: 真白しろ


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第5話:華やかなる鳥籠と、美しき猛犬

午前八時。

小鳥のさえずりとともに目を覚ました瞬間から、私のカウントダウンは始まる。

今日、私がこの世界で起きていられるのは、午後二時までのたった六時間。

「お姉様、足元にお気をつけください。僕の手を」

王立学園の正門前。

アストレイア侯爵家の『星と天秤』の紋章が刻まれた豪奢な馬車が停まると、周囲の空気が一変した。

先に馬車を降りたテオが、恭しく私に手を差し出す。ミルクティーベージュの髪を春風に揺らす彼の姿は、まるで絵本から抜け出した王子様のように洗練されていて、周囲の令嬢たちから小さくため息が漏れるのが聞こえた。

「ありがとう、テオ」

彼の手を取り、馬車のタラップを降りる。

その瞬間、ざわめいていた正門前が、水を打ったように静まり返った。

『……あの方、アストレイア侯爵家のご令嬢?』

『なんという美しさだ。まるで、春の精霊のような……』

『けれど、ひどくお顔の色が白い。今にも倒れてしまいそうじゃないか』

周囲から聞こえてくるひそひそ声に、私は首を傾げた。

皆さん、随分と元気なのね。入学初日だから無理もないけれど、そんなに見つめられると少し恥ずかしいわ。

「……お姉様、春風はまだ冷えます。これを」

テオがすかさず、私の肩にふかふかの特注のショールをふわりとかけた。

私の体温が少しでも奪われないようにという、彼なりの徹底した防寒対策だ。

「ふふ、ありがとう。でもテオ、少し大袈裟じゃないかしら? 今日はこんなに暖かいのに」

「いけません。お姉様の体は硝子ガラスよりも繊細なのですから。……それに」

テオはヘーゼル色の瞳をスッと細め、周囲を取り囲む生徒たち――特に、私を頬を染めて見つめている男子生徒たちに向かって、氷のように冷たい視線を一瞥した。

「羽虫どもが、無遠慮にお姉様を見つめているのが不愉快です」

「えっ? 羽虫?」

「いえ、こちらの話です。さあ、歩きましょう。僕が風除けになりますから、絶対に僕のそばから離れないでくださいね」

ニコリと、私にだけ向けられる完璧で甘い笑顔。

彼は私の斜め前を歩き、私にぶつかりそうになる不注意な生徒がいれば、その冷気すら感じる威圧感で道を開けさせていく。名門アストレイア家の威光と、テオから滲み出る「一歩でも近づいたら容赦しない」という猛犬のようなオーラに、誰も私たちに声をかけることすらできない。

(学園って、もっとこう……生徒同士で和気あいあいと挨拶を交わすものだと思っていたのだけれど)

モーゼの十戒のようにパッカーンと割れていく人の波の中を歩きながら、私は小さく息をついた。

無理をして歩いているせいか、まだ午前中だというのに、早くも体の奥底に鉛のような重だるさが溜まっていくのを感じる。

「……はぁ」

無意識にこぼれた小さなため息。

それだけで、テオは弾かれたように立ち止まり、私の顔を覗き込んできた。

「お姉様!? どうされましたか、お辛いですか? 眩暈ですか? すぐに医務室へ……いえ、今すぐ屋敷に馬車を戻させましょう。初日の式典など、お姉様の健康に比べれば塵芥ちりあくたに等しい!」

「だ、大丈夫よ、テオ。ほんの少し、息が上がってしまっただけだから」

大慌てで私を抱き上げようとするテオを、私は慌てて引き止めた。

彼にとって、私の六時間はあまりにも短く、尊すぎるのだ。私が瞬きを一つするだけで「眠ってしまったのでは」と青ざめる彼を落ち着かせるため、私はふにゃりと、とびきりの笑顔を作った。

「私はアストレイアの娘よ。式典にはちゃんと出席して、困っている人がいたら助けてあげられるような、立派な学生になりたいの。だから、見守っていてね」

私がそう言うと、テオは苦しげに眉を下げ、まるで祈るように私の両手を取って額を当てた。

「……お姉様のその気高さは、僕の誇りです。けれど、どうかご無理だけはなさいませんよう。午後二時の鐘が鳴る前に、必ず僕がお迎えにあがりますから」

こうして、過保護すぎる義弟の心配を一身に浴びながら、私の限られた『六時間』の学園生活が幕を開けた。

自分がこの後、その正義感ゆえに数々の騒動に巻き込まれ、王太子や騎士、天才魔術師たちの目を強烈に惹きつけてしまうことなど、ほんわかとした眠気の中で、私はまだこれっぽっちも気づいていなかったのである。

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