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月曜日の朝、私は緊張しながら出勤する。だめだめ、普段通りに、何もなかったかのような態度でいないとね。
「おはようございます!」
「彩君、おはよう。今日から一人で業務を行うことになっているが大丈夫か?」
朝礼後、上司の相田さんが心配して聞いてくれた。
「はい。勇気さんにしっかり教わったので大丈夫です!」
「彩さん、頑張ってね。何かあったらすぐに言って」
「は、はい! が、頑張ります!」
勇気さんは笑顔で私に声を掛けてくれる。
私はあの時のことを思い出して声が上ずってしまったのは仕方がない……。勇気さんは自分のデスクに戻り、仕事を始めている。
私は勇気さんから教えてもらった通りの手順で業務に取り組み始める。書類を相田さんに持っていき、次の指示を仰ぎながら仕事をこなしていく。
「彩君、お疲れ様。よく動けていたし、これなら仕事を任せても問題ないだろう」
「!! ありがとうございます。勇気さんの説明がとても丁寧で私でも覚えやすかったからです」
「そうか。やっぱりゆーきちゃんを君に付けてよかった。今日はこのまま退勤で構わない。ではまた明日」
「お疲れ様でした」
相田さんに褒められた!
これも勇気さんのおかげよね。
勇気さんのことが気になり、ちらりと勇気さんの方に視線を向けると、真剣な表情でパソコンと向き合っていた。邪魔しちゃ悪いよね。
「お疲れ様でした」
私は帰る準備をして鞄を抱えて挨拶をし、会社を出た。
あれから数日経つけれど、勇気さんとは何にもないんだよね。繁忙期なこともあってお互い朝に挨拶する時もあるし、朝から仕事に追われている時もある。
勇気さんと挨拶するのも一瞬で、私は寂しく感じる。だからって理由もないのに勇気さんにメールするのは迷惑なんじゃないかって考えちゃうし。
きっと、この気持ち、私は勇気さんに恋をしているんだ。
自分の気持ちを自覚してしまえば途端に苦しくなる。
勇気さんに会いたいな……。
あの時のメールを見返してみてはため息を吐く。
このまま何もないままなのかな。
勇気さんって彼女はいないって言ってたよね。
でも今は仕事が忙しいし、声を掛けたら迷惑かな。
悶々としながら毎日を過ごしていると、久々に休憩所で勇気さん一緒になった。
「彩さん、久しぶり。仕事は慣れた?」
「はい! 周りに迷惑をかけながらもなんとかなっています。勇気さんのおかげです」
「そっか。俺も仕事が忙しかったのもあって、彩さんに声を掛けられなくてさ。そろそろ忙しさにも慣れて落ち着いてきたころかな?」
「はい。今日は一時間くらい残業したら帰れそうです」
「俺もそれくらいで帰るし、たまには一緒に帰らないか?」
「いいんですか? じゃあ終わったら声を掛けますね」
「ああ、先に終わった方が声をかけよう」
私たちはそう言って一緒に帰る約束をした。
久々に勇気さんと一緒に帰る。約束の時間は残業を終えて十九時くらいかな。帰りに「どこかでご飯を一緒に食べよう」って誘ってみようかな。
でも、勇気さんはごはんどうするんだろう。まだ木曜日だから居酒屋でゆっくり飲むのはちょっと、ね。
色々と考えているうちに仕事も終わり、勇気さんに声を掛けた。
「勇気さん、仕事は終わりそうですか?」
「ああ、ちょうど今終わったところだ。彩さんももういいの?」
「ええ、私も区切りの良いところで終わらせたんで大丈夫です」
「じゃあ、帰ろうか」
私たちは二人で会社を出た。
久々に勇気さんと帰ることになって嬉しいけれど、ちょっと照れくさい。あれから二人きりで会っていなかったし。
気まずい気持ちも少しは残っているの。
「勇気さん、この後ごはん行きますか?」
「駅前にラーメン屋が出来たらしいんだけど、もう行った?」
「そうなんですか? 私、まだ行ってないです」
「じゃあ行ってみようか」
「いいですね! 久々のラーメンだ」
二人で電車に乗り、最寄り駅に着いた後、目的のラーメン屋に入った。
「醤油ラーメン二つ下さい」
「あいよ!」
カウンター越しにラーメンを注文するとすぐに出てきた。
その速さに驚いて私は勇気さんを見ると、勇気さんも同じ気持ちだったみたい。目が合ってお互い笑った。
私たちは食事を終え、店を出た。お腹は満足したけれど、もう少し勇気さんと話がしたい。そう思っていると。
「ちょっと喉が渇いたし、そこのコンビニで飲み物買って行かないか? この先に土手があるんだ。そこで少し話をしよっか」
「いいですね。私もちょうど喉が渇いていたんです」
私たちはラーメン屋の向かいにあるコンビニでチューハイを買い、お互いに会っていなかった間の話をしながら歩いた。
街灯からは少し遠くて暗いけれど、土手の階段に座って、空を眺めながらお互い缶を開ける。
勇気さんと触れ合うかどうかのこの距離感が嬉しい。
近づきたい、でも恥ずかしい。
高揚する気持ちを隠すように勇気さんと何気ない会話を始めた。
「こんなに暗いのに星は見えないですね」
「街の明かりがあるから仕方がない。もっと夜も遅くなれば見れる星も増えそうだ」
「勇気さん、この間は本当にすみませんでした」
私がパニックになって勝手に帰ってしまったことを謝罪する。
思い出すだけで恥ずかしかったけれど、勇気さんは笑顔のままだ。彼は怒るどころか反対に心配してくれていたみたい。
その時、勇気さんと目が合った。
トクリと心が跳ねる。
わずかな互いの無言が夜の静けさが二人を包む。
「彩さん、俺さ――」




