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「彩さん、上機嫌だな」
「そうれす! こうして勇気さんと一緒に歩いているとぉー嬉しくって」
勇気さんはふっと笑顔になった。
このまま勇気さんにいつまでも手を引かれて歩いていたい。そんなことを想っていると、アパートの前で止まった。
「ちょっと待ってて」
彼は鞄から鍵を取り出し、ガチャリと扉を開けて私を通してくれた。
リビングに通された私はソファに座らされた。勇気さんはというと、冷蔵庫を開けている。
「水しかないけど……」
酔っている私にわざわざ水を入れてくれたみたい。私は彼からコップを受け取り、がぶりと勢いよく飲んだ。
「大丈夫か?」
「ありがとうごらいます。私、すっごくそんけーしてるんれすよ。勇気さんのこと」
「尊敬? 俺、なんかしたっけ?」
お酒で気が大きくなった私は、自分の考えをすらすらと言葉に出してしまう。
「格好よくて、仕事に真摯に取り組む姿とか、説明も上手で……。とにかく全部なのれす! ゆーきさんとこうしてお話しているのも大好きで、ずーっとこうしてたいっ! でも来週から一人で書類をこなさなきゃいけないしっ。悲しいれすっ」
「……かなり酔っているな。彩さん、もう寝た方がいい」
「大丈夫れす! 私はまだ飲めます!」
彼は「はいはい」と言いながら私を抱えるようにしてベッドへと運ばれる。
密着した勇気さんの首元から優しい香りがする。
思わず私はぺろりと彼の首元を舐めた。
「こらっ。それ以上すると止められなくなる」
彼の低い声は私を心地よくさせる。ドキドキと胸が高鳴り、いたずらするようにふうと息を彼の首元に吹きかけた。
……そう、これはきっと酔っているせいだ。
自分でもどこか分かりながらも抑えられない。
憧れの勇気さん。
夢でもいい。
このままぎゅっとされたまま眠りたい。
私はゆっくりとベッドに置かれたけれど、勇気さんの身体は離れず、彼の重みを感じる。
「ふぁっ」
トクトクと心臓は早鐘を打ち、変な声が出てしまった。
「煽った彩が悪い」
勇気さんはそう言うと、私に口づけをした。
私たちは互いに言葉を交わすことなく、服を脱ぎ、熱が冷めるまで抱き合い、眠りについた。
夢現に人の温かさを感じ、その温かな感触を確かめるように手でぺたぺたと探ると……。
!?
えーーーーっ!?
驚きのあまり、ガバリと起きた私は彼に視線を向けた。
「ああ、おはよう。まだ少し早いけど……」
彼は眠そうに私をまた布団の中へ引き込もうとする。
「ふぁっ!?」
どうしてこうなったーーー!?
あわわっ……。
「と、とにかく帰らなきゃ……」
私はあまりの驚きにどうしていいか分からず、床に投げ散らかされた服をさっと着て混乱のまま部屋を出た。
「……?」
私は全速力で自宅に戻り、ようやく息を吐いた。
まさか、さっきのは夢、じゃない!?
昨日のことを思い出し、一人赤面する。
ふあぁぁぁっ!?
どうしよう?
どうしよう!?
やっちゃったよ。
いや、ちょっと待って!?
私、今、自分の家に戻ってきちゃった。
やり逃げしてきてしまったっっ!
自分の家に戻ってさっきまでの出来事を思い出し、挙動不審になっている。
と、とりあえず、やり逃げしたのは悪かった。
酔った勢いのまま勇気さんを煽ってしまった!
と、とりあえず、落ち着け自分。
まず、勇気さんに謝罪メールを出さないと……。
「『勇気さん、飲み過ぎてご迷惑をおかけしてすみませんでした。驚きすぎて何も言わず帰っちゃった』っと……」
アイコンと一緒に送信すると、ピロンと受信音が鳴り、すぐに返事がきた。
勇気さんは体調を気遣う内容と突然いなくなって驚いたって書いてた。
ほ、本当にごめんなさいぃぃぃ。
心の中ではD・O・G・E・Z・A!
明日からどんな顔をして会えばいいっていうの!?
きっと勇気さんはやべぇ奴だって思ったに違いない。えーん。お酒って怖いっ。馬鹿、馬鹿、馬鹿!私ってば正直に言い過ぎよ……。
反省してもう当分飲まないことを心に誓うわ。
幸いにも明日からは一人で業務に当たることになっている。勇気さんは自分の仕事があるので朝のスケジュール確認時に顔を合わせるだけだ。
大丈夫、よ、きっと……。
私は勇気さんとの一夜を思い出し、にやにやしたり、やらかしたんじゃないかと青い顔をしたりして一人百面相をしながら土日を過ごした。




