第37話:紅葉デートの余韻が残るはずが……………。
このお話は主人公目線で語り口のように綴っております。
今回は後半で要目線での語り口へと以降しております。
景色は綺麗だし空気も澄んでいて心地いいけどやっぱり長い時間滞在すると流石に寒くなってきた。お弁当を食べ終わり、ポットで持参したお茶が冷えた手と身体をほんのりと温めてくれた。
「ご馳走様!今日も美味しかったよ。奈々、ありがとう。」
要さんのこの笑顔で心が温まる…。頑張って早起きした甲斐があったわ。
「流石に冷えるし、このあとどうする?」
「そうですね、歩いていたら少しはマシかしら…。」
「そうだな、せっかくだし、もう少し歩いてみるか。」
そう言って要さんはお弁当バックを手に取って、もう片方の手は私に差し出してきた。私はサッとその手を繋ぐ。ここにいるのはどう見ても上司と部下ではなくて恋人に見えるだろう。私は要さんの手をギュッと握った。要さんは口角を上げて私をチラッと見た。ちょっぴり心が温かくなるのを覚えた瞬間だった。
やっぱり歩いているとさっきまでの寒さはマシになってきた。頬を撫でる冷たい風でさえ心地いいと感じるのだ。
私達は次にどこに行こうかとか話をしながら歩いた。
しばらくそうして歩いていたが、観光用に作られたその遊歩道はほどなくすると駐車場へと戻ったのだった。
「これは…寒いからもう帰りなさいってことかな?」
要さんがそう言う。
「ふふっ。そういうことかもしれませんね。」
私がそう答えると、要さんはニッと笑って二人で車に乗り込んだ。共通する話があるせいか、要さんとの会話は途切れることがなく、私も下手に緊張しなくて済んだ。
「要さん、今日も一日ありがとうございます。」
「いや、俺の方こそありがとう。また明日な。」
「はい。気を付けて帰ってくださいね。」
「ああ。」
そう言って要さんは私のおでこに軽くキスをした。私は咄嗟の事で驚いて顔が真っ赤になって思わずおでこを押さえて要さんを見た。要さんも顔が赤くなっている。
「じゃ…、じゃあ。」
そう言って車に乗り込んだ。私はドキドキしながらも要さんが赤くなっていた事でちょっと嬉しくなった。
「はい。」
要さんの乗った白のセダンが街の中へと消えて行くのを見送った。私は部屋に入るなり、さっきの事を思い出してはニマニマするのが抑えきれなかった。
要さんからの初めてのおでこへのキス…。ダメだ。今夜は眠れるかしら…。
一方、その頃の要は…
────さっきの俺の態度に奈々は嫌悪感を感じたりはしていないだろうか……………。
〝奈々があまりにも可愛いことを言うからつい…。ヤバッ。〟
と嬉しい気持ちの反面、正直かなり動揺している。
翌日、俺は会長室へと呼び出されていた。会長室は5階の役員専用エレベーターの近くにある。
俺は会長室をノックして部屋に入った。
「どうしたのですか?父さん…。いえ、会長。」
「あぁ要。実はお前に縁談が来ているんだ。」
「……………え?!」
俺は驚いた。奈々と付き合っている事を言っていなかったから、こういう事態が発生したんだと思って話していなかった事を後悔した。だが今はそれよりもキチンと断ろう。
「…無理です。俺には彼女がいますから。」
「あの秘書の子か?」
「………………。」
会長は鋭い。石川は何も言っていないのにいつの間に…。俺は父さんの前で黙った。
「まあいい。会社の提携の話が出ているんだ。見合いだけでもしてくれ。」
「それもお断りします。」
俺は冷めた声で断った。
「うちとしてはこの提携で新たな方面への進出も可能となるんだ。会社を拡大するには絶好のチャンスなんだぞ?」
「ーそれはそのために息子の気持ちをおざなりにしてもいいと?!」
「お前もわが社を背負う人間ならわかるはずだ。もっと可能性を拡大すべきだと。」
「………………。」
俺は父さんが言っていることが全くわからないわけではない。だが、そのためでも不誠実な行動をしたいとは思わないだけだ。
「……………何も結婚までしろと言ってるのではない。見合いをして何度か会って、それで断ればいい。」
「────それは先方に対して不誠実では?!その気がないのに引きずるだなんて…。」
「いや、先方からもそのように言われているんだ。」
「はぁ…、何とも変わったご令嬢ですね。」
「それじゃあ日時と場所だが……………。」
俺は仕方なく引き受けた。取り敢えず見合いだけ行って、その場で断ってこようと思ったのだ。もう日程が決まっているというのだ。会長直々の縁談だ。今更取り消しとはいかないだろう……………。
〝奈々……………。〟
俺は奈々に心配を掛けたくなくて黙っていることにした。
ご覧下さりありがとうございます。突然の会長からの呼び出しに応じた要はいきなり見合い話を出されました。立場上断れないと察した要は見合いだけして断ろうと思いますが…。




