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RVALON Ⅰ  作者: 竜;
When I Come Around

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04-02

 益子を包んでいった光で軽く奪われた視界が回復してくると、スパイクはゆらりとこちらに向かって来る人影に気付く。先程とは何かが違う雰囲......、いや、人が変わったとすら思える。

 咄嗟に攻撃態勢を取るが、


「それではまた、時の随に紛れた音色が聞こえる頃に」


 その声が頭の中に響き、目の前に立っている人物を見上げる。


「......、主しゃま!」




「ふふふふふ~ん♪主しゃまぁ。主しゃまぁ」


『あの、スパイクさん。何があったかわかりませんので、先程から臭い嗅いだり、執拗に体を擦り付けたりしている理由を聞かせていただけますか?』


「視界がぼやけていたとはいえ、主人に牙を剥くなどあってはならないのでしゅ。なので、今後は間違えないようにあたちの匂いを......」


『あまり強く付けすぎると玉藻さんに誤解されますよ?そういえば、その玉藻さんから無断でお昼をすっぽかしたお仕置きを選らんでおくようにと言付けが......』


「ひやぁ!ペンペンは嫌でしゅ!そういえばあたち、お昼から何も食べてないのでしゅ」


『もう、夕飯の時間になてしまいますね。そこまで時間を忘れるほどの何かが?』


「あ、そうでしゅ。主しゃま!実は主しゃまと同じようなマスクを被った人が。オシャレな帽子とシュっとした服と......、キンキラの時計持ってたでしゅ!」


『世の中、似たセンスをお持ちの方もいることでしょう。でも、先程の様子だと、その方はあまり友好的でなかったように見受けられますが」


 僅かに嗅ぎなれた主人の匂いに、寸でのところで攻撃を止めたスパイク。

 徐々に消えていく先ほどの男の記憶を何とか紡ぎ主へ伝える。


「え~っと、う~んっと......、変な人でちた。踊ったり、女の子の行く先を塞いだり」


『その、記憶から消えていくといった現象は、私の呪いと酷似していますね。局からお達しの出ている、敵対勢力の疑いのある方といった可能性も高いのですが、特に何かされたわけではないのですね?』


「えっとでしゅね、キンキラ時計を見てたと思ったら、さっきまで止めてた女の子をすんなり通ちてでしゅね。草木で作ったような扉がパァって光って、気づいたらあたちだけになってたのでしゅ」


 それを聞いた主は、じゃれているスパイクを正面に構え、念を押す様に問い正した。


『確認しますよスパイクさん。今現在、私たちの周囲にはその扉らしきものは見当たりません。ですが、その賑やかな男性と、それに追われていた女性は光と共に消えた。間違いないですね』


「はいでしゅ」


 すぐさま主はスパイクを丁度良く切られている切り株の上に置く。胸の内ポケットから札を一枚取り出し、玉藻へと伝心する。


 ......、


「はぁ~い!いつも主様のお傍に。電話一本、出前迅速!ご用命はいつでも愛の特急便、超良妻玉藻ちゃんですぅ♪」


『スパイクさんと無事合流できたのですが、なにやらトラブルに出会っていたらしく、......その、大変申し訳ないのですが、そちらの後始末といいますか、確認だけでもしておかないといけなくなりましたので......』


「......、遅くなりますの?」


『私も、今聞いただけですのでなんとも......。ただ、状況次第では......』


「ちょっとそこの爬虫類にお話が。......スパイクさん?玉藻ちゃんの作ったご飯食べたくないなら、ガスホース咥えて自己発火ののち、爆ぜていただいても構いませんよ?今晩の食卓はドラゴンの柘榴風で飾らせていただきましょう。良いですか?晩御飯の時間に遅れたり、主様と玉藻ちゃんの夜の時間を阻むうなことがあったら......、わかりますよね♪......主様ぁ~。で・き・る・だ・け、お早いお帰りお待ちしてますねぇ♪」


 伝心を終えた主は、心ここにあらずの目を点にして、一点を見つめているスパイクを強めにゆすり声を掛ける。


『......スパイクさん、放心してる場合じゃありませんよ。今日は局長に言われて、家族サービスしようと、不死屋のケーキ買ってきたのですから。玉藻さんも保冷剤も待ったなし……。端的に申しますと切羽詰ってます。それもかなり」


「怒った玉藻しゃん恐い......」


『お仕置きも嫌ですよね?』


「ペンペンも、嫌い嫌いも恐い......」


『みんなでケーキ食べたいですよね?』


「......がんばりましゅ!」


 主は鞄から金属製のシガレットケースのような物を取り出し、その中からガラスを内包した筒を一本手にする。それを自らの胸へ突き刺し、次に上着の内ポケットから出した札を二枚重ねでスパイクの額に貼り付ける。


 一枚目の札が弾けるように燃て消えると、目を見開いたスパイクが激しく唸りを上げ、体を電気が取り巻き、バチバチと音を立てる。続いて、開いた口からゆっくりと流れ出るように、青白い炎が全身を包み込む。空に顔を向けながら短く唸り声を上げると、主との間には、歪んだ空気が小さく渦を巻きながら、千切れた草や小石を吸い込み始める。


『時空を歪めて開口、同時に時間軸を特定。はい、そこで次元を固定してください、集中集中。私が入れる大きさであれば問題ありません。口の面取りは不要です。侵入後の微調整は私の方で行います。他の事に気は回さないで、最短距離を繋いでください......』


 やがて現れた、自身の身長の半分ほどのどす黒い穴に片足を入れると、主は止まることなくその中へ飲み込まれるように入って行く。

 その最中も片腕を伸ばし、先ほど自身の胸に突き刺した物と同じ、ライフルの弾丸のような物をスパイクに渡す。


『......起きたら戻り用の穴の準備を。ブースト状態では詠唱はいりませんが、大雑把になりますのでブレスは使用しないでください。ポイントを押さえつつ、慎重かつ大胆にお願いします。状況に備えて、アンプルを咥えて準備していてください」


 ぽっかりと開けられた空間は、急いで間違いを修正するかのように収束して消えた。


 本来足りていない力を前借りした状態のスパイクは意識を失い倒れこんだ。

 去り際に主が言っていたアンプルだが、一定の時間がくれば額に貼ったもう一枚の札が目覚ましの役目を果たす。

 しかし、まともに体を動かせない時は強い点滴のような効果のある、アンプルと呼ばれる銀の筒を噛み砕き、強制的に気付けをして先ほどの手順に移るためである。


 ちなみに、主が自身に打ち込んだ物とは種類が異なり、様々な使用方法があるアンプル。偶然と奇跡が重なり誕生したこともあり、ある程度までの効果は確認できているのだが、まだまだ謎の多いアイテムなのである。



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