04-01
「......、ちゃ~ん。……益子ちゃ~ん」
呼ばれている?そう......、自分の名前だ。
でも......、友達も両親もみんな、ちゃんなんて付けない。
昔好きだった近所のお兄ちゃん?......、違う。......、女の人の声もする。......、ゆっくりとして......、柔らかい......。優しい......、懐かしい......、。そう、大好きだった......。
瞬きをした。そんな感覚だった。
益子の前に広がるのは、緑豊な夏の熱に萌える草原。
ソーダ水のような青空がどこまでも続き、地平線でセパレートされる草原。
瞬きをした。目の前には、小川ができていた。
瞬きをした。横を見ると、川の先は池になっていた。
瞬きをした。池には、色とりどりの蓮の蕾が浮かんでいた。
近くまで行ってみよう。
益子は池に着くと蓮の花を見た。
それが合図かのように、蕾は一斉に光りだし、幾層にも重なる花びらが、ふわりふわりと開いていく。
夢を見ているようだ。
楽しくなり、池の中の蓮を見て歩いていると、開いていない蕾が二つ。
それは他の蓮とは違い、所々茶色く変色していたり、虫に食われていたりと、お世辞にも綺麗とはいえなかった。
しかし、
「益子ちゃ~ん......、益子ちゃ~ん……」
その中からだ。自分の名前を呼ぶ声がする。
近づくと、その蕾は益子から離れていく。
「......!......!?」
益子は自分の声がでていないことに気がついた。
突然不安になり、あたりを見回すと、先程までの鮮やかな世界は黒い雲に覆われ、目が開けられないほどの風が吹き荒れた。
益子は恐くなり、隠れる場所のない広野で蹲った。
自分の頬を涙が伝うのを感じて、目を開けると、その垂れた雫は眩く輝き、一滴の音が頭の中に響くと、自分を中心にそれは広がり、流れるようない一瞬の内に池ができあがった。先程の色とりどりの蓮の花が周りを囲んでいる。
そして、前からはあの廃れた蕾が二つ。漂うように近づいてくる。
声は聞こえない。
ゆっくりと手を伸ばす。
今度は離れていかなかった。
益子が触れると、蕾はそこから石化した。
まるで、早送りを見ているかのように苔が育って行き、一筋のヒビが入ると、池の底に沈んで行ってしまう。
慌てて池に飛び込み、手足をばたつかせて潜る。懸命に蕾の後を追うが、加速的に距離はひらいて行く。
やがて息が苦しくなる。益子が水面に顔を出すと、そこはショッピングモールのフードコート。
益子はソファーに大きくもたれるように座っていた。




