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それなりに明るい夜道であっても、その一行に出会った者は一瞬立ち止まってしまうか、少なからず奇妙な違和感を抱くのではないだろうか?
まず180cm程の身長を持つ男性。ジャケットを着ているというのもあるが、大袈裟な筋肉質ではなく、しかしかっちりとした肩幅。
この男、どこの国の物かは定かでない軍用のガスマスクを装着している。
加えて銀の装飾をあしらった黒いレザーハットと、着ているジャケットは臙脂色をしたこれも革製のものである。
下は暗めのGパンに紐止めの革のブーツと、おおよそ今が夏という観点から見れば首を傾げる恰好である。
次に隣を歩く女性だが、こちらも男性に比べれば、背はやや控えめではあるものの、それでも高めのヒールを履いた本日の身長は170cmを僅かに超え、それでいてすらりとしたスタイルに抗うかの如く主張する二丘。さらに普段は指に一切の抵抗を許さぬ滑らかな手触りの髪だが、本日は軽いパーマーを施し、柔らかなウエーブが着ている洋風テイストを取り入れた改造和服との駆け引きでモダンながら垢ぬけた印象をあたえる。
言葉で表すにはあまりにも極端だが、男女関係なく魅了するほどの絶世の美女であるがメイクと立ち振る舞いの関係か、今は明るく幼く気取らない、それこそ「可愛い」の一言が何より当てはまるだろう。
さらには二人の周りを嬉しさからか、我がもの顔で飛び回る存在。鳥ではなく竜、ドラゴンの子供である。
陽炎が染まってゆくような薄紅色の鱗とつぶらな大きな瞳。飛行や浮力という理屈からすれば実に興味深いサイズとフォルムの翼をはためかせている様子は、まだ汚れを知らず無邪気そのものだ。
そして最後は男性の肩に座っている小柄な存在。直立で示せば60cmほどの人型、人形である。
それはロボットのようなぎこちなさはなく、自然に喋り、好き勝手に動く様はもはや小さな人と言って相違ないだろう。
先ほどの女性とは対照的に起伏はそれほど激しくないが、かと言って貧相な印象はない。
髪は腰辺りまで伸びたストレートブロンドボブ、本来肩にかける紐が交差した、変わったスポーティなイメージのキャミソールにデニムのショートパンツと肩を借りている男性同様、いくつかの銀細工を身に纏っている。顔は幼さが薄っすらと見え隠れするが、全体的に整い、こちらも曖昧な表現をすれば「やんちゃ」と、分類されるだろうか。
表記のややこしさから、ここでは「名」としたその四名は食事へと目的の店に向かっている最中である。
断っておくと、冒頭の「出会った者は……」だがそれはあくまでも一行の存在に気づくことができた場合のことである。
「まったく主がお寝坊さんだからすっかり遅くなっちゃったんだな。妾のお肉さんが売り切れて無いか気が気でならないんだじょ」
「やはりぃ~出張の疲れが出てきたのでしょうかぁ。玉藻ちゃんがしっかりぎゅう~って、支えてあげますからゆっくり行きましょうねぇ~」
「起こしに行くちゅもりが、ついつい一緒に添い寝しちゃったでしゅ。使い魔として面目でしゅ~」
『出張のレポートを仕上げていて、少し横になったつもりでしたが、夢を見るくらいはしっかり寝てしまいましたね。愉快な言葉遣いの小柄な男性の視点かと思えば、対照的にモデルのような顔立ちの外国人男性になったり、しかしそれも何やら顔を鷲掴みにされて持ち上げられるといった奇妙な悪夢とも言えそうなものでしたが。
スパイクさんの体温で暑くて目が覚めなかったら、予約の時間に遅れるところでしたので怪我の功名というものですよ。
姫、ご心配なく。本日はコースで予約しましたので、お目当ての物がなくなることはありませんよ。
あ、玉藻さん、全体重掛けられてぶら下がられると些か、というより真面目に歩きにくいので手を繋ぐくらいで妥協していただけると助かります……』
にぎにぎしいやり取りをしている内に、気づけば目当ての店の前へ。そこには店の外観を見つめて、何やら考え事をしている身長は160cmの半ばと言ったところか、短髪の見た目は高校生くらいに見えるウエイター姿の少年が立っていた。
主一同の声に気づいたのか、少年は気づくと体ごと向けて挨拶をする。
「あ、えっと、いらっしゃいませ主主様御一行様……で良いんだっけ?ややこしいな」
「お~、子狐4号。来たんだじょ~」
「その呼び方もややこしいから名前で呼べよ。それに男では四男だけどタリメ姉がいるからオレは兄弟姉妹の中では五番目だぜ?」
「おコン晩わ~♪真面目な顔してどうしたんです、イクツぅ?」
「あ、頭首様、いらっしゃいませ。風が出てきたのでテラスのパラソルをたたんでいたのですが、その際に屋根の傷んでいる箇所を見つけまして。業者を呼ぶべきか、自分だけで何とか修復できるものなのかを考えていた次第です」
「相変わらず真面目さんですねぇ♪でもぉ、わかってるとは思いますがぁ、術などのご都合能力は外では禁止ですよぉ」
「心得ております。ですので修復に必要な道具や費用、時間などを差し引いて、どちらが良いのかと」
「能力禁止でちたら浮遊もダメでしゅのね。あたちで良ければお手伝いしましゅ」
『いえ、スパイクさんは基本私か玉藻さんの許可が無ければ外出と目立つ行為は禁止ですよ』
お役に立てますアピールをしようと翼を勢いよくはためかせていたスパイクだが、主の一言で残念そうな溜息とともに下を向いた。
『もう夜で暗いので陽が出ているときに改めて見直してはいかがでしょう。具体的な案が出るかもしれませんよ』
「はい、主主様。立ち話させて申し訳ありません。ご案内しますので中へどうぞ」
イクツが店の扉を開けると、入店を知らせる小さな金属製のベルが鳴り、中にいたバイト中のお子達が主一行を出迎えた。




