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RVALON Ⅰ  作者: 竜;
15才

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38/52

04

 ヴィザール・ストレンディール。

 性別は彼女とそのほかの世界を基準とするのであれば女性である。

 身長は150cmにわずかに届かない。

 正確な年齢は女性だからというわけではないが伏せるとして見た目は二十代前半。

 だが身長と顔立ちも相まってかもう少し幼く見える。

 しかしそれを気にする程度のコンプレックスは持っていないが仲間内で身長を引き合いに出されると『150くらいあるし』と微妙な背伸びはする。


 仕事?はいつから始めたかも覚えていないが『世界を変える』と、いった壮大な社訓のようなものを掲げている組織内で、現在は上司の補佐をしている。


 主な業務は今回のように出張先でのリサーチと資材の確保。基本給に加え、能力給とその他歩合や手当が付く。現在は社宅という名の都内の中クラスのマンションに住んでいるが、特にこういった福利厚生を利用しなくても、彼女の稼ぎであれば貯金もできる程度である。世界中に施設があるため組織の規模としてはかなり大きく待遇も悪くない。


 地域によっては危険な業務にもなりえるが持ち前の明るさ?と頑丈さで乗り切る性格なため、頭を使う業務は苦手としているが文字通り体当たりの姿勢を評価されている。

 その一方、心配される所も多々あるが上司からの信頼は厚い方である。


 基本自由な社風なため服装や髪型、言葉遣いも注意されないので彼女の直属の上司とはフランクに接している。

 体系としては細身ながら意外と主張はしているため、上司から「できればもう少し露出を控えたものにしては?」と、提案されるが最近覚えた人間社会における「ハラスメント」と、言う言葉を盾に水着のビギニに金属の装飾を施したような服を好んで着用している。


 性格は前向きで後悔や落ち込む時間の分手を動かすが信条であり、尚且つ活発であることから最近は趣味で格闘技を学んでいる。

 そんな彼女が現在置かれている状況だが、お目当ての資材を見つけ、回収しようとした矢先に突然の雹が……、


「そんな可愛いもんじゃないわよ~!どこの氷山砕いて落としてるのよ!」


 失礼、そう。一服終えてからリイベを狩るつもりであったがぼんやりと空を見上げていると晴れた夜空からは思いもよらない落下物が彼女を狙い撃ちにしているのである。


 氷塊の雨が止むと辺りには冷気が広がり、先ほどまで笑いのツボにはまっていたリイベを顔は笑ったまま時間を止めたかのように氷の塊を見つめていた。


「お~アンドリュー、こんなところで何してるんだな。ってか町の外にでちゃダメなんだじょ。店じまいする時は自販機もしまう国くらいには夜の女の一人歩きは危険なの」


 立ち込める靄の中から聞き覚えのある声、そして次第にそれが晴れると無数の銀の飾りを付けた黒いレザーハットと臙脂色の革ジャケット、暗めのデニムに茶色いブーツと、そして何より異様なのはどこかの特殊部隊が着けてそうなガスマスクを被った珍妙な存在とその肩に乗っている小さな姿が月明かりに照らされていた。


「あなた達……」


「お、なんだビックリしてギックリ腰なの?若いうちに腰やっちゃうとこの先苦労するんだな。湿気とくしゃみに怯える日々が続くんだじょ」


 姫の言葉に氷の塊を見ていた主はリイベの方へ向き直り、片膝をつくと目線をリイベの顔まで持ってくる。そしてジャケットの内ポケットから出した札のようなものに何やら書くとそれを彼女の両足へと張り付ける。


 不思議な柔らかい光から伝わる温かさと同時に、リイベは自分の足に感覚が戻って行くのを感じた。

 主は立ち上がると再び氷の方を向くと様子を伺っている。


「……動く……わね……ここは素直にお礼を言う場面よね?」


「その聞き方は素直に感謝を述べないパターンなんだな。反抗期なの?」


「そうじゃないけどさ、色々あり過ぎて疲れちゃってるのよ。それに緊張感なくて悪いけどお腹も空いてるのに気づいちゃったし」


「腹ペコアンドリューなんだな。しょうがないから妾のお菓子分けてあげるの」


 そう言って姫はベルトから下げているバッグからは本来出てくるはずのない物理法則を無視した大きさと数のお菓子を幾つかリイベに向かって放った。


「これってヴィザリィが持ってたのと同じやつじゃないの?」


「あぁ、宿に寄った時に食堂に置いてあったから持って来たんだじょ」


「これ食べて町の人達はおかしくなったし、頭痛くなるくらい甘いから私は食べられないわよ」


「人の親切を素直に受け取れないわがままなお年頃なんだな。お残しすると次の日のおやつは没収となんだじょ」


 姫は怪訝な目でこちらを見ているリイベを横目に、気にする素振りも見せずに包みを一つ開けると、自分の顔の半分くらいあるチョコレートに目を輝かせ、何とも嬉しそうに大きな口を開けてかぶりついた。


「んほっほぉ、これは甘いんだな♪」


「よく食べられるわね。ねぇ、あなたも街の人達みたいに凶暴っていうか野生に戻ったりしないわよね?」


 リイベの質問が聞こえてないのか、姫はにこにこしながら食べ続けていると主が指で軽く姫の肩をつつき何やら声をかけている。


「ん、仕方ないんだな」


 姫は食べかけを主の肩に置き、そこから飛び降りる形でリイベの足元で着地すると彼女が手に持っている包みの一つに手を伸ばす。その手が抵抗なく透けるように包みを貫通し、何かを掴むと握っている手を引き出した。


「アンドリュー、これで食べて大丈夫だじょ。たぶん」


「信用に欠ける言い方と、なんとも食べ物を勧める行動じゃないわね。今の手品かなにか?……あれ、美味しい」


 疑いながらも先ほどと変わらなければ吐き出せば良いと一口齧ってみたが、程よい甘さの久しく食べてなかったが自分が知っている本来の味に驚いた。


 姫は自慢げに胸を張ると他の包みにも同様の仕草をした後、腰のバッグから瓶を取り出す。

 その中に取り出したものを入れると小石が瓶にあたり、軽快に弾けるような音を立てたそれは昆虫のタマムシのように角度によって色が変わるガラスの粒のようであった。


「主~、だいぶ染まっちゃってるけど洗えば使えるの?……ん。じゃあ持って帰るんだな」


 リイベには聞こえないが姫の問いに主が答えたようである。

 しかし彼女にはそれが何かまったく理解できない。

 見た目はガラスのようだが、何かの材料なのだろうか。彼女がそれを聞こうとした時、軋むような音が聞こえる。主が壁になっていてはっきりとは見えないが、目の前の氷が眩く光り、爆発のような衝撃のあと、遅れてそれの弾ける音がリイベの耳に届いた。


「ったくもぉ!余裕かましすぎたわ。そういえば見当たらないと思ってはいたけど、いきなり随分なご挨拶じゃない?ってかさ、正義の味方が不意打ちなんて有りなわけ?」


 自らの得物を地面に突き刺し、何事も無かったかのように佇むヴィザリィ。それを見た主はジャケットの左ポケットから金属製のシガーケースのような物を取り出し、その中から銀色の筒、弾丸に似た形状をしたその中心部には更に透明な筒が内包されている。中には赤い宝石のような物で満たされているが、一つだけ色の違う何かの欠片のようなものが入っていた。終始無言で摘まんだそれを親指で弾く。


 不思議に思い目で追っていたヴィザリィは、頭上高くまで飛んで行き、やがて重力に従いながら落ちてくるそれが元の位置まで来ると、大きく仰け反っている主の姿が目に映る。


 主は反動をつけて体を起こすと、自身の胸の位置くらいに落ちてきた筒を振り抜くように殴りつける。


 そして、終始目を離さなかったヴィザリィは一瞬の閃光で視界が真っ白になり、その後の轟音と共に物凄い熱の塊の直撃を受け、四十メートルほど飛ばされていった。


 落下で小さなクレーターを作り、自身の身に何が起きたかを理解するより早く、苦痛に満ちた声が口を突いて出た。


「かはっ!……これって……シャレになってないわよ……って待って待って待って待って、嘘でしょ!?」


 土埃の向こう、ぼやけた視界で捉えたのは夜空に浮かぶ絵に描いたような稲妻を纏ったどす黒い雲の大群である。


 考える暇はなく、なんとか態勢を立て直してクレーターから飛び出すと間一髪、彼女のいた場所に黄色い閃光が直撃し、耳を劈く爆発音のあと、その場を中心に天に向かって勢いよく渦巻く竜巻が昇って行った。


「殺す気……よね。容赦も慈悲も一切感じられないわ……アンタねぇ!」


 自分の立っていた場所を起点に、素早く振り向いた彼女の手には先ほど地面に突き刺した得物が握られており、その間合いまで迫っていた主を恰好の位置で捉えた。


「交渉の余地ってもんは無いわけ!」


 しかしそれは主に触れる僅かに手前で弾かれ、得物は彼女の手を離れると後方へと飛んで行った。


 忌々しさと明らかな苛立ちで、瞬時に間合いを詰めていた主へと繰り出した拳はキャッチャーが構えたミットへ綺麗にボールが納まるように、用意されていた札を殴っていた。


 見た目はただの紙の札だが、自分の拳はそこでピタリと勢いを殺された。そればかりかヴィザリィは自身の体が動かせないことに気付く。


「何者よ……って聞くまでも無いわね。管理局のお役人さん、名前ぐらい名乗らないのは一社会人としてマナーに欠けると思わない?」


 そう言われた主は片方の手で胸の内ポケットを探ると「勧告」と、大きく書かれ、その下にびっしりと細かい文字が羅列されている一枚の書類をヴィザリィの目の前に提示した。


「アンタ達が勝手に決めたルールに従う義務があると思う?ほら、国が違うとその決まり守らなくていいってやつ……治外法権だっけ?アタシらはそういっためんどくさい制約に縛られない身分なんだけど」


「テロリストに何言っても無駄なんだな。先手必勝、圧倒的火力でサーチ&デストロイなんだじょ」


 どこからともなく声がしたかと思えば、姫が主の肩からひょっこりと顔を出した。


「近くに海も無いのに随分涼しい恰好なんだな。名前なんていうの?」


「人に名前を……まぁいいわ。このガスマスクの人は名乗るより先に殺しにかかって来てんだから。ヴィザール・ストレンディール、ヴィザリィでいいわよ。一応アンタらと同じ世界の住人で管理局からしたら……いやあの世界からしたらテロリスト扱いされてるところの従業員で~す」


 元より体が動かないので足掻きようがなく、無駄な抵抗せず素直に答えたる。


「おぉ犯罪者にしては素直なんだな。妾は姫、名前が姫なんだじょこっちの不愛想なのは主、こっちも名前が主って言うの」


「別にアタシらは犯罪とは思ってない、わけでもないけどこっちはこっちでアンタらのやり方が気に食わないから自分らなりのやり方をしてるだけよ。そのために多少の犠牲は付き物でしょ?それに犠牲の数で言えばアンタらの方が桁違いなわけだし」


「妾、管理局の人間じゃないから詳しいことは知らないんだな。主、たぶん無駄だけど一応交渉くらいはした方が良いんじゃないの?この流れで始末しちゃうとイメージ良くないんだな」


 姫に言われた主は少し顔を上に向け、数秒思案すると書類をしまう。代わりにもう一枚札を取り出した。特にアクションは無いが、その札は柔らかく発光した。


『こんばんは、今し方こちらの姫からご紹介いただきました。口ぶりから推測させていただいた上でお話させていただきますと、ご存じ、管理局の者で名前を「主」と申します。一応勧告書の提示義務は果たしましたが、字が読めない方のために口頭でのご説明も差し上げておりますが如何なさいましょうか?』


 主が軽く頭を下げ、再び胸の内ポケットから勧告書を出しかけるとそれを遮るようにヴィザリィが口を開く。


「結構よ。これでもアンタらの言語はわかるし、アタシ自身管理局の人間と会うのは初めてじゃないから……共通言語だっけ?フィルターみたいなものかかってるから他国の人間でも読めるようになってるのよね、この勧告書って。でもさっき言った通り仕事柄管理局の命令には従えないわよ」


 それを聞くとほとんど出しかけた書類をしまい、反対のポケットへと手を入れた主は先ほどの銀のケースから筒を一本取り出した。


「ちょ、ちょっと、それでまたアタシを攻撃する気?何かこう説得とか交渉するもんじゃないの?」


『ヴィザリィさんの主張と管理局の方針が真っ向から対立している上、どちらも譲歩する気が無いのであれば、こちらとしましても極力無駄は省きたいので職務に専念させていただこうかという考えではありますが、何かご提案等がございましたらお伺いさせていただきます』


 銀の筒を軽く握り、いつでも攻撃可能な体勢の主は淡々と業務的に話す。


「あ、ビキニ。今の状況は映画とかドラマで言うところの、銃口を向けて『命乞いくらいは聞いてやる』ってのと同じなんだな」


「……?え、ビキニってアタシのこと?」


「その恰好がビキニ以外の何に見えるんだな?露出狂とかププッピドゥとかでも良いけど言いにくいからビキニなんだじょ」


「なにかひたすら不名誉なあだ名付けらた気分だわ。アンタの言った場面に付け加えるなら、薄着のか弱い女性に銃突きつけて『何か言いたいことでもあるのかこのビキニ野郎』って言われてるのを想像したわ。あ~、女だからアマか。はたから見たらアンタら完ぺきチンピラとかマフィアじゃない」


「お、やったな主。妾たちアル・カポネなんだな♪」


 ヴィザリィの言い方に、自らを有名な親分と同格と表現されたと思って気を良くした姫は主の方を向いて嬉しそうにはしゃいでいる。


「……え~っと、ついでと言ってはなんだけど、時間に余裕があるならさっきから気になってるから聞いても良い?主……さんは管理局の人間で、やり方は別として仕事としてアタシと対峙してる、それはわかるんだけど、その肩に乗ってる姫さん……?当たり前のように話に入ってきてるけど、そもそもアンタは何者よ?」


 先ほどの攻撃でその威力は思い知らされているし、現在銃口を向けられているような状況とはいえ、緊張感のさぼり加減に便乗してヴィザリィは尋ねた。


「ん?姫って自己紹介したのにもう忘れたの?鳥頭なの?ビキニで鳥頭ならこれからはサンバって呼ぶんだな」


「いや、名前しか聞いて無いわよ。あとこれ以上恥ずかしいあだ名増やさないで」


 一時停止ボタンを押されたように体勢を崩さず、微動だにしていなかった主だが、片手の攻撃姿勢は崩さず、どうしたものかと軽く空を見上げた。


「主、このビキニは物覚えが悪いから何言っても無駄なんだな。ここは妾の恐ろしさを身をもってわからせてやるんだじょ」


 そう言うと姫は主の肩から跳び降り、主とヴィザリィの間に立ちはだかった。


「ほんとそのガスマスクもだけど失礼が過ぎるわよね。っと、なに?もしかしてアンタも強かったりするわけ?」


 片腕を勢いよく回し、意気揚々と鼻息荒くやる気満々な姫を見て、主の先制攻撃の件もあり、見かけでは迫力に欠けるが現在身動きを封じられているヴィザリィは逆にこの能天気なオーラに恐怖を感じた。


 パンっと姫が拳と掌を合わせるとヴィザリィは自身を拘束していたものから解放されたことに気づき、考えるより先に後方へと跳び退いて距離をとった。

 主の方は視線を姫へと移すが、特に止める気はないのか何も言わず相変わらずの体勢である。


「ふふん、覚悟するんだなビキニ、妾に失礼な口をきいた代償は大きいんだじょ。今一起伏に乏しいから需要に欠けるかもだけど、ポロリ要員としてウォータースライダーを滑るが良いの」


「とりあえずアタシのことバカにしてるわよね?怒っていいわよね!」


 ヴィザリィのセリフと共に、その手には本人の身の丈には到底合わない大きさの武器を、決して早くはない速度で駆けて向かって来る姫へ、大きく空を切るように振ると派手に地面を抉りそこから一本の竜巻が発生した。構わずそれに向かって来る姫を警戒したヴィザリィは再び距離を取るよう後ずさった。


 が、勢いよく竜巻に飲み込まれた姫は、軽い叫び声と共に遥か上空へと舞い上げられ、しばらくして主の元へと落下してきた。

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