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RVALON Ⅰ  作者: 竜;
15才

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02-03

「ふぅ、ランチタイムも終了。本日も満員完売御礼、またのお越しをお待ちしておりますってね♪」


 ランチタイムも過ぎ、いつものように見事にもぬけの殻となった食堂を見渡し、カウンターから離れた壁際にある一つのテーブルまで飲み物を持って行くリイベ。


 『予約席』と書いてあるプレートが置いてあるテーブルにコップを置くと椅子に座り、頬杖をついて文字通り一息ついた。


「今日も来なかったわね。何日目よ」


 待ち人、ではないがリイベが言っているのは主と姫の事である。

 最後に来たのは三日前だが曜日の間隔が等に抜けているに加え、毎日の昼間ではほぼルーティーンであったので昼食の注文表を確認しないとすぐには思い出せない。


「ま、別に来るのを期待しているわけでもないけど……ただこっちとあっちを知ってるのはあの人達だけだからさ、調味料の意見とか新しいアイデアとかくらいは聞けたらな~くらいには思ってるけどさ……」


 本来自分がここにいるべき人間ではないことを忘れているリイベはすっかり店の経営者として新メニューへの考えを巡らせている。


「こちらの真ん丸穴はお出しにならないのでして?」


 ヒラヒラとした羽で舞うように緩やかに飛んでいるフォロムは自身にしては大皿である器に本日のデザートのドーナッツを乗せて来た。


「えっと、お砂糖とチョコレートと木の実のジャムでして?フォロムはどれもお気に入りでして、え~っと……ジャムのを持って帰って良いでして?フォロム達には少し大きいのでして」


「あ~そっか、サイズも種類作らなきゃか。あれだったら少しずつ切って持って行ってもいいけど」


「いえ、この真ん丸穴が可愛いのでして、切ったら魅力がなくなるのでして」


「そこまでその形が気に入ったなら最初にドーナッツ作った人も喜ぶだろうね。あ、あとはあたしが片付けとくからもう上がって大丈夫よ」


「ではお言葉に甘えてと言うところでして。もう厨房の方は片付いているのでして、あと残っているのはこのお皿とリイベのコップだけでして。それではフォロムは戻ってみんなと真ん丸穴を食べるのでして」


「いつも手際が良くて助かるわよ。……ねえ、後でドーナッツ持って行ってあげようか?」


「フォロム達のお家にでして?」


「あたし一人で食べるには数があるし(夜食にとかにしてもいいけど)かと言って近所にお裾分けするほどは無いからあなたの所なら従業員だし角もたたないでしょ」


「それはみんな喜ぶのでして、でもそれならフォロム達が取りに来ても良いのでして」


「いいよ、あたしは運動不足に無駄な抵抗で歩きたいだけだしさ。図書館に行く時に持って行くよ」


「ありがとうでして♪それではフォロムは一足先に戦利品を持って行くのでして。明日もいつも通り来るのでして~」


 紙に包んだドーナッツを頭の上に掲げながらフォロムは出口へと跳んで行き、専用というわけではないが開いている小窓から外へと出て行った。


「あの人たちは……ま、この時間だし来ないよね」


 主達が来た時用にと考えたが、来るかわからず残しておいて夜中少しくたびれた物を自分の腹に納めるよりは、との考えだったのでフォロム達へ持っていく残りのドーナッツを包んでカウンターに置いた。


 コップを洗い、自室に戻ろうとすると今朝と同様に扉を叩く音がした。


「今日は律儀な客が多いわね、は~い。今行きま~す」


 自身も朝とさして変わらない対応で扉を開けると、これまたデジャビュのように今朝の子供がそこにいた。


「今度は何のお使いかな~?あと、朝のメモだけどどんな人から頼まれたか教えてくれると気構えができるというか……」


 子供は変わらずリイベの質問に答える気はないのか、嬉しそうに持っていたカゴから小分けにされている包みを幾つかリイベへと渡す。


「だから誰かからの物か……ってコレって?……っ!」


 一瞬、視界に古いセピア調の映画でも見ているかのようなノイズが混じり、目の前の狸に似た動物の顔をした子供が、思い出せないが自分が良く知っている男の子の姿に変わり、再び視界は乱れ、一度瞬きをすると元の狸顔の子供の姿に戻っていた。


 状況が呑み込めずに止まっているリイベを置いて、子供は笑いながら走って行ってしまった。

 すぐに我に返り、目で追った先の子供は宿の隣の家の戸を叩き、出てきた住人にリイベ同様小分けの包みを渡していた。


「何よ……今の……」


 理由がわからず困惑しているリイベが額を抑えると指先に水滴がつくのが見えた、汗だ。

 全身が汗を噴き出していることに気づき、開いている扉から舞い込んだ風で一気に熱が下がって行くのを感じる。

 そして先ほど見た映像の違和感はすぐさまその記憶と共に薄れて行った。


「……こっちではハロウインかなんかの時は子供がお菓子を配って回るのかしら?」


 手の上の包みに目を映すと、それは個別に包装されているミニサイズのキャラメル菓子であった。

 自分の世界の物だということはすぐに思い出せたがリイベが感じた違和感は頭が拒むように思い出せない。


「なんでこっちの世界にあたしの世界のお菓子があるのよ?いや、あたしが最初来た時に食べてたご飯だって元々はあたしの世界のものだったからお菓子があっても不思議じゃないんだけどさ」


 何かが引っかかるが包みを一つ取り、中身を取り出しても何の変哲も見受けられない。しかし少し齧ってみると、


「んん~……!甘ぁ……ええ~、こんなに甘かったっけ?……あ~ダメダメ、水みず~……」


 厨房に戻り、再び登板となったコップに水を入れるといっそ樽から直接飲んだ方が良いのでは?と思うほどの飲みっぷりで中身を空にした。


「元の世界のお砂糖ってこんなに甘かったっけ?久しぶり過ぎてある意味悪魔的だわ」


 再びコップの半分程まで水を注ぎ、厨房に入ってきた時にカウンターに置いた無数のお菓子の包みを見る。


「今のあたしには雪山で遭難した時くらいにしか食べる気が起きないかも。こっちの人って確実に自然と共存って感じだけど、甘いものはうんと濃い口なのかな?それともあたしがオーガニックに浸かり過ぎちゃってるだけとか。あ~まだ口の中甘い気がする」


 残っていた水で口を数回に分けて漱ぎ、部屋へ戻り着替えをして十五分程で食堂へ戻ってきたリイベはドーナッツをカゴに入れ、代わりに空いたその皿にお菓子の包みを移した。


「ま、あの人たちが甘党であればどうぞって感じで」


 お菓子の甘さに他の違和感をすっかり消されたリイベは、図書館への用事とフォロムの所への配達のため宿を後にした。

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