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RVALON Ⅰ  作者: 竜;
15才

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32/52

01


 バス停には三人いた。

 見た目は15才くらいでギターケースに座っている女の子。

 ビードロのジャケットを着た浮浪者のような男。

 もう一人は黒いシルエットにしか見えない、何も特定する要因がないがおそらくこれは自分だろうと思った。

 それを引いた位置からの視点、これも自分のものなのだろうか。


 彼女は頬杖をついてクリーム色のバスが来るのを待っている。

 バスの行き先を聞いたが、話す気はないのかこちらを見ずに目を閉じて何かリズムを刻む様に指で膝をトントンと軽く叩いている。


 隣にいた浮浪者のような男が綺麗な湖への行き方を聞いてきた。しかし先ほど自分で彼女に行き先を聞いた手前、ここがどこだかも解っていないので答えることはできなかった。


 間を埋めるよう何の気無しにジャケットのポケットに手を入れると吸いもしない煙草があったので彼に勧めた。

 しかし湖への行き方を聞いてきた彼は「口が無いから吸えない」と言った。


 再び視界が切り替わり、自分を含めたバス停で待つ三人を遠くで見ている。その風景はゆっくりとソーダ水の粒のように流れていき、少し大きめの弾ける音がして目が覚めた。




 どこまでも広がる草原に花を微かに揺らす程度の風が吹く。穏やで横になればすぐにでも寝付いてしまいそうな柔らかな日差し、鉄塔などの近代的な人工物は見当たらず、レンガ造りの家々が集まった「街」と言うよりは「町」から少し離れた、大きく青々とした葉をふんだんに広げた木の下に人影が二つ。


 一つは成人男性の体格で身長は180cmより少し高く、銀飾をあしらった黒のレザーハットを日よけのように顔に被せて寝息を立てている。

 少し褪せた臙脂色の革のジャケットと暗めのジーンズに装飾の施されたチェーンを腰に下げ、手元にもいくつか装飾品の類が見受けられる。

 少し大きめの革張りの四角い旅行鞄を枕代わりにしているその男性、普通ならアクセサリー類に目が行きそうだが何よりそれらを凌駕する、今は帽子で隠れているが、どこの国の軍隊のものかわからないガスマスクを着用している事が奇妙さを際立たせている。


 もう一つの存在は前髪を綺麗に切り揃え、後ろは背中くらいまで伸びた綺麗なブロンド髪。

 男性と同じように装飾品が目立つが衣服は腿を露出したショートジーンズに少しだけ季節を先取りして肩を出したキャミソールを着用と、それだけでは特に目を引くものではないが問題はその大きさにあり、それは寝ている男性の膝くらいまでの身長というところだ。


「あ、(ぬし)起きたんだな」


『おはようございます姫。すっかり気持ちよく寝てしまいました』


「妾、早起きさんだから脳天ピーカンなんだじょ。頭が冴えてないのは主だけなの」


『なんだか不思議な夢を見ていた気がします。ところで姫、何故私に親指程の大きさをした蟻(に似た昆虫のような生き物)を乗せる作業を坦々と行っているのですか?』


「主が蟻さんにバリバリ食われるのを見たいんだな。あ、払っちゃダメなの、命をぞんざいに扱っちゃいけないんだじょ」


『人体にどんな影響があるかもわからない存在を差し向ける行為は如何なものかと思われますが……さて、陽もだいぶ上の方まで来ているようなのでそろそろ食事へと向いましょうか』


「おぉ、やっとご飯さんなんだな。蟻さんバイバイなの、また今度チャンスをやるんだじょ」


 さて、現在に至る経緯の説明の前に説明させていただくと私は……端的でとても簡素な言い方をしますと次元等を管理する機関で働いているのですがそもそもがこの職務は私のような普通の人間が就ける仕事ではありません。

 しかしながら私はなぜだか普通の人であれば異次元、異空間、本来自分がいる世界とは異なる世界、今はそれらを一括りにして「異世界」と説明させていただきます、そこから何らかの原因で移動するということは少し極端な言い方ではありますが生身で宇宙に放り出されるようなことと解釈してください。


 私は望んでもいないのに、何の因果か異世界間の移動による弊害を受けない体質のため現在の職場にて働くことができています。

 因みに私にはある時期からの記憶がありません、気がついたらこの職に就いていました。


 自分の素性もわからず一応国……を軽く飛び越えて想像も及ばない規模のましてや自分の行っている業務が善悪の判断すら疑わしいものではありますが、今のところ逮捕されるといった場面に出くわしていないので疑問はあれど生活の為、日々職務に従事している次第であります。


 体裁上、勤務形態は一般公務員さんを基準とし、原則1日の勤務時間は7時間45分(休憩を除く)と書いた覚えのない契約書には記載されているようですが部署や課、個人の業務内容仕事量によってはこれの限りではないというのはどんな仕事でも一緒でしょうか。

 私の場合も例に漏れず、今回のように出張扱いであれば「直帰」なのですがそれはもちろん仕事が終わればの話。

 当然その仕事が終わらないので帰れないという具合であります。補足しますと出張先では仕事が一件だけということは珍しく、大抵は他の業務を兼任することがほとんですので本日はノルマには影響の少ない業務のどれに手を付けるかと考えあぐねいていたところ、こちらの世界の私のいる地方は今の時期昼夜の気温差があまりないのに加え25℃前後と軽く布を一枚でも掛けておけば充分快適に寝れてしまうので先ほどまで寝ていた次第です。


 さて、説明のついでと言ってはなんですが私には「呪い」……少なくとも自分ではそう思っていますがそれの影響で他人との意思疎通が困難な状態にあります。

 特別私が人嫌いとか所謂コミュ症といったものではなく、私の存在はどうやら条件を満たさないと認識がされないようです。

 理解している範囲で説明させていただくと、乱暴な言い方ですが他人を殴っても気づかれず目の前に立っていても認識されることが無い。

 他人の声は聞こえるが私の声は他人には聞こえない。


 現在は同居人の玉藻さんから頂いている札により、一時的に他人と会話することは可能ですがそれも札の効果が解けるとその人は私と関わった記憶がなくなる、と言った具合にある意味透明人間の親戚のように思えますが物理を無視できるわけではないので壁をすり抜ける等は勿論無理で道歩いていても他人から避けてくれることは無いのも当たり前。

 そのことから青信号で道を渡っていても他に人がいなければ平気で突っ込んでくる車もいますし、爆発等の飛散物等はきちんと当たるので普通の人より周囲に気を使うことの方が多かったりもします。


 またその呪いは一定の条件を除けば動物等にも反映されるので他の人よりは容易に獲物を仕留めることが出来ます。そのためどんな生態系かもわからずもしかしたら猛毒を持っているかもしれない生物と接触しても平然(あまり良い気分ではありませんが)としていられるのもこの呪いによるところです。


 しかしながらこういった境遇からサバイバルのスキルはそれなりに上達すれど、獲物を狩って毛皮を剥いだりといった工程を考えると人が住んでいる地域で、ましてや意思疎通できる相手がいる場合は趣味でない限り手間をかける必要もないため現在お世話になってはいますが今回のお仕事が終わらない原因の元まで行く次第です。


「ご飯さんっご飯さん、今日のメニューはなんなのな~♪」


『昨日帰り際に商人さんが大きな魚を店内へ運んでいるのを見ましたよ。基本火を通していただければ大抵のものは食べられるので焼き魚などであれば嬉しいですね。

 今回はナイフのメンテナンスで手元に無いのが地味に不便ですね。お弁当をお持ち帰りできるので大変助かっていますが火を起こしたり等のちょっとしたことでも手間がかかるので改めてナイフのありがたさを実感します』


「缶詰の開封から山にトンネル開けたり海を割ったり衝撃で飛んだりと、高額所得者の生活必需品デストロイヤー2021(仮)を置いてくるなんて信じられないんだな。生ものは鮮度が命だから獲れたてピチピチ丸かじりなんだじょ。変な薬とか入ってないから素材本来が持つ自然の美味しさなの」


『その分よくわからない病気とかありそうですから、異世界の場合はある程度の農薬等が使われていたり、養殖等で管理されて育てられているもの方が気持ち安心できてしまう傾向にありますね。もちろん、この世界にそういった物があればですが』


「主がお寝坊さんしたからお店混んでるかもなのな。もうお昼の忙しい時間帯なんだじょ」


『おや、もうそんな時間ですか。あいにく私の電話は電池切れで』


「どうりで目覚ましが鳴らないわけなんだな」


『こちらに来た場合は基本電波等を用いた連絡手段はできませんからね。あ、そうです姫。待機時間を持て余すのも勿体ないので電池の予備もですが今度ノートパソコンを買おうと思うのですがいかがでしょうか?』


「スケベな動画でも見るの?」


『スケベは置いておいて、確かに動画などが今の手持ちの端末より大きい画面で観れるのであれば待機時間の手助けとして快適になると思いますし、私の場合は仕事のレポートも今は手書きか電話のメモ機能で箇条書きですのでもう少し効率的に、すぐに提出できるとまではいかなくてもある程度の書式にしておければ局に帰った時の仕事を効率的にこなせるかと』


「鞄に妾のタブレットが入ってるんだな」


『基本は姫がゲームするか動画を観ているかで仕事で使用させていただける時間が些か少ないので私も専用機が欲しいかなと思いまして。それにきちんとキーボード付きの物の方が文章などは打ちやすいかと』


「なんでそんなに文章打ちたいんだな?第三次世界大戦のシナリオライターでも目指してるの?」


『いえ、そのような気構えはありません。それに私の仕事のレポート用とだけに決めず、快適な機器を使用すれば姫もイベントの告知の方も捗るかと思われます……』


「今のやつで間に合ってるんだじょ」


『それが一部の方から「わかりにくい」とか「手抜き過ぎ」という噂があるような無いような』


「妾のシンプルかつハイセンスな告知に付いて来られないなら置いて行くだけなんだじょ」


『短文投稿系のSNSで百文字以上余裕があるのに単発で要点だけ、絵文字をふんだんに使ってデコレーションするのも一応インパクトと言う意味では有りかもですがもう少し言葉数を多くしても良いかと』


「主の告知が堅っ苦しくてつまんないから妾が宣伝を担当してやってるのにケチつけるの?」


『いえいえ、もしかしたらタブレットやその携帯端末ですと文字の打ちにくさ故、姫の煌めくアイデアが活かしきれずにあのような発想に至ったのかと思いまして。ですので文字が打ちやすいデバイスがあれば姫のセンスも一際冴えわたるのかと思ってのご提案です』


「ん~、それに5.1chのサラウンドシステムがあれば迫力が違うんだな」


『そちらは携行するには嵩張ると思いますので直近の目的としましてノートパソコンをですね……』


「とりあえずその辺は帰ったら子狐達に聞くのな。あいつら詳しいから今度はこっちでも電波繋がるアプリ作ってもらうんだじょ。じゃないとガチャも回せないしグループバトルも参加できないから妾置いてけぼりなの」


『あまり皆さんに無理言っては駄目ですよ』


「妾より玉藻の方が積極的なんだな。主と連絡取れないとうるさいの」


『私としても留守で家をお任せしている分なるべく心配を減らせるのであればその点では賛成ですが』


「今はそんなスケベの話よりご飯さんなんだな。あ、店が見えてきたんだじょ」


『スケベは置いて行くつもりでしたので律儀に連れて来なくても大丈夫ですよ。さてさて私達はいつ帰宅することができるのでしょうか』

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