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RVALON Ⅰ  作者: 竜;
When I Come Around

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02

 何故だかわからないが、自分は今走っている。どうしたのかって?


「それがわからないから走ってるのよ!」


 誰に言うわけでなく、それは頭の中を整理する為の自問自答から出た言葉。

 名門の女子校に通う彼女。普段であれば、お淑やかという絵から出て来たかのよう。足音は気品という音符が踊り、笑うときは口に手を当て歯茎を見せず、その水を閉じ込めたかのように艶かなセミロングの黒髪には一筋の乱れも許さないのだが、今の愛海なるみ 益子ましこ十六と半年くらいは現在、一心不乱に見知らぬ森を駆けている。


「代々木公園とか新宿庭園じゃないよね!あたし、確信した。不思議の国に迷い込んだアリスだって絶対「あらあら~」なんて、悠長な台詞言えるほど余裕ない!」


 焦りや恐怖に似た感情が支配する中、不思議と靄が晴れるように、記憶の輪郭がはっきりと思い出されてくる。

 そう、自分は夏休み前に海に行こうと計画していた友人達と水着を新調するべく、近所のショッピングモールへと繰り出していた。


「買い物終わって、お昼食べて、ブリザードストーンのアイス食べて……」


 何処にでもいそうな仲良し女子高生グループの休日。

 益子が声をかけるとそこには誰もいなかった。


 友人達だけではない。文字通り自分以外は誰もいなかったのである。

 友人達がふざけて益子から隠れる程度なら何の違和感もない。

 しかし、平日ですら人がいないところを探すほうが難しい、常時賑わっている施設に、今は自分一人しかいないとなれば、小さな疑問をすっ飛ばし、一気に恐怖に包まれるだろう。

 だが、益子に訪れたのはそれだけはなかった。


「そう!あいつ!あの男、変なこと起きてすぐに異様な格好してる不審者がいるもんだから、逆にあたしの方が場違い?みたいにすら思えちゃった」


 その男は夏の日差しを避けるにしても、見た目の暑苦しい黒いレザーのハット、ジャケットは少しくすんではいるが、艶の残る臙脂色。これもまた革製なのか、少し重たげな印象だった。

 下はスーツのそれではなく、黒味の強いジーンズだろうか。腰には若者がつけるようなウォレットチェーン、ホームセンターで売っているような単純なデザインではなく、どこかのブランドの物かと思われる。

 センスは別として、服装など個人の自由だ。夏でも冬でも好きな物を着れば良い。

 だが、何より益子が異様と感じたのは……、


「あのガスマスクなによ!」


 そう、男は何処の国の物かはわからないが、明らかにその場に似つかわしくないガスマスクを着用していた。


「あれ?でも、マスクしてたなら、なんであたし男だって思ったんだろ?服装?体つき?そもそもそんな人物なんて……」


 はっきりとしてきた所に、いきなり頭の中に再び靄がかかったようだ。霞み、それ以上が思い出せない。思い出せないのだが、


「そう!あたし、そいつに追われてるんだった!」


 ようやく自分が走っている理由に辿り着くと、必死に走り続けていた四肢及び三半規管がエマージェンシーコールを鳴らし続けていたことに気づく。

 益子はスピードを徐々に落としていき、前を見て走っていたはずだが唐突に現れた、不自然にそこだけ扉の様に光っている箇所が目に入ると、それを出口だと思い、安堵した。


「へへ、部活には入ってないけど足と体力には自信あるんだよね。お嬢様ナメんなっての」


「確かに、同年代の女子の平均以上ではありますね。土台が良い分、積極的に鍛錬すれば公式に記録を残せるかもしれません」


 独り言を聞かれたから驚いたわけではない。

 その男が最初からそこにいたかのように、益子の少し後ろから話しかけてきたからだ。


「この場合は名乗るのが礼儀かと思いますが、そもそも迷い込んでしまった貴方は招かざる客人。すぐにお引取りいただくので極力無駄は省きたいのですが……」


 益子の判断は「逃げろ」であった。

 声をかけられた瞬間、驚きこそしたが男が流暢に話を続けたところで咄嗟に走り出したところを見ると、この状況でもまだ冷静さは失っていないようだ。


 勝手に出口と思い込んだその光へと一直線に駆ける……。が、有りえないが在りえた。

 益子の後ろにいたその男は今、自分の進行方向へと立っている。

 理解だけが追いつかない益子に向かって男は、軽く開いた掌を真っ直ぐ向けて言った。


「ご停止を。この先は貴方の考えているようなところではありません」


 その言葉を聞かなくても、女の自分が得体の知れない人物にタックルして無事に罷り通れるとも思わない。と、判断するより早く、足は急ブレーキを掛けていた。


「ご英断です。おそらく私の恰好を怪しんでいることでしょう。信ずるには足りないとは思いますが、今のところ、私は貴方に危害を加える者ではありません。寧ろ、利害が一致しているので味方とさえ断言しても差し支えございません」


「よく喋る男を信用するなって、お婆ちゃんが言ってた」


「別段信じてもらわなくても結構ではありますが、強制は些か後ろめたくも思いますので」


「やっぱり!あたしに乱暴する気でしょう!?……」


 その台詞を言い終わる前に、益子の横を何か熱を帯びた光が森の出口を塞いでいる男に向かって飛んで行った。


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