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RVALON Ⅰ  作者: 竜;
Suppuration

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28/52

11-02

「主主、当主さまに言付けとかしないで来て良いのじゃ?」


『観測だけですので介入しなければ問題ないですよ。私たちは見に来ただけですので。クノビさん、くれぐれものことは私達だけの秘密ですよ』


「姫とスパイクもつれてくればよかったのじゃ」


『あまり大人数ですと目立ちますので。今回はクノビさんさえいれば余裕ですよ』


「♪帰ったら主主と夜伽なのじゃ♪」


『そのことですがクノビさんは夜伽をどういう意味で解釈されてますか』


「ん?主主と当主さまがしてるようなことじゃないのじゃ?頭撫でたり、お食事あ~んしたりなのじゃ」


『あぁ、その程度でしたら』


「流石に膝枕耳かきや口元のお米粒はわしも心の準備が足りんのじゃ。でも主主が優しくリードしてくれるならわしも男の子、勇気だすのじゃ!」


『いえ、こういうデリケートなことはゆっくり時間をかけるのが良いかと思いますよ。ほらメインディッシュばかりではもたれるかもしれませんし』


「了解なのじゃ♪......あ、探索眼が壊されたのじゃ。試作段階のを勝手に持ってきたから後でタツメに怒られるのじゃ」


『さすが、昔とはいえど玉藻さん。全盛期でなくとも素晴らしい感覚ですね。

 クノビさん、長居は無用です。ここらで引き上げましょう。札で守られてるとはいえ、遮蔽物の皆無な夜空に優雅に浮かんでいるのはお忍びの身としてはあまり落ち着けるものでもありませんから』


「術の展開までちょっと待つのじゃ。こっちに来ること知ってたらタツメのファイルをコピーしておいたのじゃ」


『焦らなくてもいいですよ。あちらとはだいぶ離れてますので、私は月でも眺めて......』


「お前さん方か、覗き見してたのは」


「......主主?」


『クノビさん、壁を。最速でお願いします』




 クノビの探索眼(小型のドローンに術をかけたもの)を破壊した旧玉藻は強く地面を蹴って高く飛び上がると、まるで月の中にいるかのように空中に浮かんでいる二つの影を見つけた。


「あれか、ちと遠いかえ」


 浮遊の術が使えなくても、元より高い身体能力で流れるように森の木々を交わして進むその俊足は風のごとくであった。


 程なくして主達を射程圏内に捉えた旧玉藻は一層力を込めて飛び上がり、躊躇のない渾身の術をその爪から抉るように放つと夏の蚊を落とすかのように主たちを地面へと叩きつけた。


「この程度では死んどりゃせんのぉ?そっちの子狐は先ほどの......アノミだったかのぉ、それ同族......ウチの分身で相違ないかえ?」


「わかってたなら攻撃しないでほしかったのじゃ」


「お前さんだけなら優しく声掛けしたんぞえ。......しかしのぉ、そちらの珍妙な被り物をしている......のぉ、名くらい聞かせてもらえるかえ?」


 旧玉藻の問いかけ大して主は答えない。

 いや、実際にはこの時代の玉藻はまだ主との条件を満たしていないので主が答えたとしても声は聞こえないのである。


「わしはクノビ、当主さまの分身の末っ子じゃ。タツメとは同い年扱いなので二人とも末っ子じゃ。こっちは当主さまの......未来の旦那じゃ」


 途端、主はクノビの方を向き、何やら言っている素振りだが会話の聞こえない旧玉藻にしてみれば奇妙であり「旦那」と言われたがいまいち信用に足らない。


「ようわからんが自分のこととは言え、そんな素顔もわからず声も聞こえない者に惚れるのかえ?それともウチは何か弱みでも握られて無理やりその者に手籠めにでもされるのかのぉ」


 その素性のわからない者は慌てて身振り手振りで否定しているようだった。


「あ~、馴れ初めはわからんがベタ惚れじゃ。見てる方が恥ずかしくなるのでわしらは離れ(社)で寝泊まりしてるのじゃ」


 クノビと旧玉藻の会話の応対の度に主は誤解を正すように行動が忙しくなる。

 しかし先ほどから一切声の聞こえない相手への不満から旧玉藻も少しずつ苛立ち始めた。


「その者、声は出せぬのかえ?その子狐が言ってることが正しいのか怪しくなってのぉ。狐を化かすなんて笑えもせんぞえ」


 主はため息をするように肩を落とし、着ている上着の左の内ポケットに手を入れ、何やら取り出すとそれは九本の尻尾が川の流れに変わっていくような絵が描かれている札であった。


『あまり札は使いたくなかったんですが話が進まないので仕方ないですね。帰るまでに玉藻さんへの言い訳を考えておきませんと」


「なんに、急に声が聞こえるようになったのぉ。どんな術を使ったのかえ?」


『こちらは未来の玉藻さんが作った術なので詳細は長い年月を費やして探しください。それでどこから始めましょうか?』


「どこからも何も最初っからぞえ。仕切りなおしよのぉ」


『では私から。

 この時代の玉藻さん初めまして、縁あって未来で同居させていただいてます名前は(ぬし)と申します。仕事は次元等を管理する組織に所属しており、昨年度の年末調整を参考にしますと、収入は中の下辺りで世間一般で言えば人並みの生活水準かと思われます。大所帯という視点から見れば心もとない収入と思われますが私以外の方は税金等の対象外の他、皆さんも働いていますので私が玉藻さん達の生活費等を出すという場面が無いことを考慮すれば充分余裕がある方に分類されます。好きな食べ物は......』


「寡黙かと思えばよう喋るのぉ。要らん事は抜かして大事なこと言うてほしいのぉ」


『と申しますと?』


「馴れ初めよのぉ♪自分がどのようにしてそちに手籠めされたのか海に沈む宝より興味あるぞえ」


『そう言われましても、私と玉藻さんの関係は所謂男女のそれとは毛色が違い......』


「なんと、一つ屋根の下で寝食を共にしている男女が何もないわけなかろうに。......はっ、もしやそち......不......」


「んにゃ、主主は凄いのじゃ。ビックリするのじゃ」


『クノビさん、玉藻さんが変な方向......いえ、普段の玉藻さんを見ていれば通常の範囲なのですが今は口を挟まないでくださいね』


「と、いうことは......まさかそっちの気が......」


「確かに男女とも平等に優しいのでないとも言い切れぬが、わしら狐達の他にも女はあと二人いるので皆相手にするには体が足りんのじゃ」


『いえ、クノビさんその言い方も誤解を......』


「ちと待て。いま女が後二人いると申したな。それは......どういうことかえ?」


『一方は竜の雌ですので性別で言えば女性で間違いないのですがもう一方は......』


「姫じゃ。背丈はわしらと変わらんくらいじゃが、何というか人形で主主は姫とよくどっか行っとるのじゃ」


『......クノビさん?あ、えっとですね誤解のないように今の話の詳細を説明しますと......』


「そちはあれかえ、どの国の財よりも崇められ、どんなに高貴な者が望んでも触れることすら叶わない極上のこの肌よりも、ザラついた爬虫類と何が悲しかな人形を愛玩具にしている方が好みと申すのかのぉ?ウチはそれらに劣って慰み物にすらならんと?」


 意思の疎通とは送り側と受け取り側の理解があって友好的なものへと昇華される。

 主にベタ惚れの玉藻も、怒りにわなわなと肩を震わせている旧玉藻も想いの強さ、熱量といった意味ではどちらも引けをとらないのだが問題はその方向性。

 相手が誤解と勘違いを重ねた現状、それを打破し、納得させるほどのものが示せない以上は言葉でいくら取り繕おうとも根本的な解決は望めない。


『この思い込みの激しさはさすが元祖玉藻さんと言ったところでしょうか。クノビさん、交渉?決裂のようですので撤退へ以降しますが術式の方は?』


「え?さっき中断したからまた最初からなのじゃ」


 間髪入れず懐から札を出した主へと旧玉藻は飛び掛かってきた。

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