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RVALON Ⅰ  作者: 竜;
Suppuration

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07-02

  アノミ達が旧玉藻、マロと戯れいている頃。タリメとイクツを両肩に乗せた平野が現在の玉藻と合流していた。


「体力なんて、必要最低限で良いと思ったころから運動らしい運動なんてしてなかったのにさ、こっち来てから軍隊さんにすら負けないくらい動いてるんじゃないか俺って?」


 思いのほか遠くまで走り、だいぶ距離が離れていた。現玉藻の所に着くまで、タリメ達は平野の肩から降りようとはしなかったが平野も連日の不条理からか、もはやその程度の些細なことに気を留めるのも諦めたと言った具合である。


「この程度で頑張ったなんて、防人の方々に失礼ですの。ほんと、現代人ってちょっと走っただけでこの体為ですので、義務教育か高校出たら国民の義務として徴兵された方が良いと思いますの」


 少々棘のある言い方のタリメ。

 その原因は合流の道すがら、タリメとイクツが「疲れた」だの「歩きづらい」だのと文句が多いので、おんぶや肩車をしたりと体制を変えていた。だが、イクツが肩車の位置に着くと背中にも肩にも乗れないタリメが不満を言ったところ、


「じゃあ、お姫様抱っこなら文句ないか?ほら、女の子は憧れだろ」


 と、平野はタリメの返事を待たずに抱きかかえた。


「不埒者!悪漢!助平!離しなさい!初めての抱っこは主主様に捧げるためのものでしたの!」 


 不意の平野の行動に驚いたタリメが凄まじい剣幕と金切り声を上げ暴れ、泥濘るんだ地面へ顔から落ちたことからである。


 起き上がったタリメは瞳に溢れんばかりの涙をため、今にも堰を切りそうであった。だが、イクツがハンカチを出して「お顔」と、心配そうに言ったところで何とか気持ちを抑え、姉としての威厳?を保った。


 そのあとは少し悪いと思った平野がご機嫌を取り、何とか現玉藻のところまで合流したといった手合いである。


「で、だ。そちらの元気に踠いてるいてるお侍さん......。えっと、上総さんだっけ?それがその......、なんだ......。俺だっていうのか?」


「はぁい。ざっくりとしたお話は来る途中でタリメ達にお聞きしたと思いますが、平野さんは上総さんの魂が時代を超えて現代に来ちゃったって感じなんですぅ」


「それも端折り過ぎだろ。そっちの二人に聞いたほうがもうちょい詳しかったぞ。もうクタクタだから今日は勘弁してほしいけど、流石にその説明だけじゃ寝付きも悪けりゃ目覚めも憂鬱になるよ」


「とは言いましてもぉ~、詳しく説明していると夜明けになってしまいましてぇ」


「そうなると状況が悪化するのじゃ」


「さっさと済ませて、帰ってお風呂入りたいですの。あ、当主さま。術式整いましたの」


 合流するやいなや、平野の肩から降りたタリメ達は現玉藻と平野から少しだけ離れた地面に、何やら文字とも記号とも見れるものを書き始めていた。

 それは地面に書いただけのものなのに、川の流れのよう、二極が混ざり合うように動き、重なるところで水滴を落としたような波紋が形成されている。


「さ、平野さんはこちらにぃ」


 手で玉藻に促され、その太極図の片側に入るよう指示される。納得こそいってないが愚図っても進展しないと思い、素直に従った。


「そしてこちらにはぁ」


 平野に指示したのと同様に、玉藻が上総へ手を向けると化け物となり、少し体格の嵩が増した上総はまるで重力を受けてないかのように空中に浮かび、玉藻の手の動きに合わせて平野のいる陣の反対側へと運ばれて来た。


 陣は直径二メートルほどのもので、大人二人が入ると文字通り手を伸ばせば届く距離だ。もがく程度の身動きしかしないが、刀を持っている上総から見れば平野は絶好の間合いにいる。


「お、おい!そいつ近づけるなよ!」


 玉藻の術で拘束されているとはいえ、元より魔法やら怪しげな術などに面識がない平野は上総を縛っている術の効果に不信感を抱き、焦って抗議の声を上げた。


「まぁまぁ~。平野さん自身ですのでぇ、仲良くしてくださいねぇ」


「そういう問題じゃないんだよ!ってかな、俺は全然状況が飲み込めてないんだよぉ!」


 目と鼻の先で踠き、今にも呪縛を解いて暴れだしそうな上総に恐怖を感じ、慌てて陣の外に出ようとするが、


「っ!え?なんだよこれ、出られないぞ!」


 水族館の水槽のように分厚く、重厚で頑丈な印象の見えない壁に阻まれ、陣の外へ出ることができない。そしてそれは、叩いた程度で壊れるようなものでないとも同時に感じた。


「それではぁ、ご来場の皆様~。若い二人の門出を祝って盛大な拍手を~」


 玉藻がゆっくりと両手を近づけていくと、それに連動して平野と上総の距離も近づいていった。

 もちろん平野は踏ん張っているが、とても太刀打ちできない強い力に押されつつ、つま先で地面を抉りながら、じりじりと上総との距離を詰めていく。


「初めての共同作業なのじゃ」


「ヴィジュアル的に見目麗しいとは言えませんが、薄い本のネタとしては有りですの。当主さま、自分自身と結合するのはどの部類に属しますの?性別だけで言えば男同士、しかも自分とですので、元よりない生産性が余計に不憫ですの」


「確かにぃ、ちょっと興味深いテーマですねぇ。帰ったらあの方にも聞いてみましょ♪」


「おい、お前ら。こっちはわけわからず危機感だけ増してるのに何の話してんだ!って、ぶつかるって......」


 平野の抗議も虚しく、間もなくして上総と接触した。

 すると、普通ならその場で押し合うように止まるが、二人は互いの体と融合していき、最後まで叫んでいた平野の声も、消える頃には陣を中心に眩い光が辺りを包んだ。

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