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RVALON Ⅰ  作者: 竜;
Suppuration

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21/52

07-01

「タツメ~。本当にこっちなのじゃ?」


「先ほど、確かに当主さまらしき後姿を見ましたの」


「じゃが、影も形も無いのじゃ。近くにいるなら気配もしように。それこそ伝心すれば早いのじゃ」


「アノミ兄。当主さまから、ことが済むまで術の使用は極力控えるよう言われたのをお忘れですの?」


「とは言いつつも、わしら迷子じゃ。緊急事態での術使用なら当主さまも怒らないと思うのじゃが」


「アノミ兄は長男であり、能力も知識も兄弟姉妹の中では一番なのに、どうしてそうも諦め早いですの。もう少し努力や創意工夫する気はありませんの?」


「長兄だからこそ、長年生きてきた自身の能力を使えば、無駄な努力も苦労も要らんと知ってるのじゃ。第一、この時代でわしらに、もっと言えばタツメ単体にすら敵う者がいるとも思えんのじゃが......」


「当主さまが釘刺して注意しろと言ったからには、何らかの危険が潜んでいると判断したからですの。それを無視して後でお仕置きされる覚悟がお有りなら、どうぞ伝心したら良いですの」


「むぅ、タツメも日増しに強かになっているのじゃ。そう言ってワシに術を使わせ、何かあれば責任を擦り付ける魂胆なのじゃな?」


「あたくしは一応、止めた体裁は繕いましたのでお仕置きは免除ですの。加えまして、兄達がさぼっている術式等の電子化もコツコツしていた結果、当主様からお褒め頂き今回の件もだいぶスムーズに進行していることから、間違ってもお叱りを受けることはありませんの」


「とはいえ、闇雲に歩き回っても疲れるだけなのじゃ」


「あたくしは女の子ですので、(にい)のように体力ありませんから宛てもなく歩き回るのは御免ですの」


 そう言い、先頭を歩いていたタツメが振り返り様にアノミに掌より少々大きいサイズのこの時代には似つかわしくない電子デバイスを見せた。


「あ~!それはズルなのじゃ!」


「あら、こちらは当主さまの許可を取ってありますの。それに電力と霊力は別物ですので、それこそこの時代に電子機器の電波なんかをを逆探知できる方がいらっしゃるとは思えませんの」


「であれば、さっさと当主さまと合流するのじゃ」


「それが出来ればアノミ兄と悠長に散歩などしてませんの」


「なんじゃ、タツメはもう兄離れしてしまったのじゃ?昔はどこに行くにもべったりで、それはそれは可愛いもんだったのじゃ」


「あら、今でも可愛い部分は否定しませんの。っと話が逸れましたが、今のところの問題は信号が弱いことですの」


「なんじゃ、テクノロジーも大したことないのじゃ」


「アノミ兄、よく考えてください。この時代に衛星なんてものが打ち上げられてると思いますの?本来ならそんなもの無くても当主さまの霊力なら簡単に見つかりますのに。ノイズが多くて信号が乱れますの」


「おおよその場所がわかればそっち行くのじゃ」


「そこですの。アノミ兄これを見てくださいですの」


 電子デバイスをアノミに渡すと、タツメは生き物がいる地点を示す点を指したが、その点はいくつかの場所に分散していた。


「この赤く点滅しているのが恐らく発信機を渡した当主さま達の居場所。見づらいですが、それと同様の赤い点二つが一緒に動いているので、これはタリメとイクツで当主さまの所に向かっているのではないかと思いますの。で、それと一緒にぼやけたオレンジ色がくっついているので、これは恐らく平野さんだと思いますの」


「発信機以外の反応もわかるのじゃ?」


「勿論違法?改造してありますので。生き物の熱......、と言うよりは生命力に反応するようにしてありますの。小動物などのは危険度を自動判別で検索対象から外してありますの」


「さすが現代っ子は手が早いのじゃ。とすれば、最初から当主さまの反応の所に向かえば良い話なのに何故に遠回りしてるのじゃ?やはりタツメはこの兄と一緒にいたいからわざとなのじゃ?まだまだお兄ちゃんっ子なのじゃ」


「何処まで本気でおっしゃってますの?」


「良い良い。皆まで言ことはないのじゃ。わかる、兄妹だからこそ伝えられぬその想い、そうじゃの昔から禁忌といったものは抗いを鈍らせる妖艶な香りが......。あ~、冗談じゃ。おふざけが過ぎたのじゃ」


 呆れて、少し先まで歩いていたタツメに追いついたアノミはタツメの肩に手を回すと顔を近づけ耳打ちした。


「気付いておるのじゃ?」


「えぇ、デバイスの反応でも確認しました青い点。すぐ近くで止まってますの」


「タツメ、体重は何キロじゃ?」


「アノミ兄、後でお仕置きですの。解放前なので姉達とほぼ同じですの」


「老体にこの技は酷なんじゃが......。行くのじゃ!」


 アノミは言い終わると同時にタツメを肩車し、覆い茂っているどの木々よりも高く飛んだ。


 高い所から見下ろすと一目瞭然。先ほどタツメが見つけた青い点の位置には、玉藻から逃げてきたマロの姿が丸見えである。

 つけ加ると、何かの術をアノミ達にかけようとしていた不意をつかれて、軽く口を開けた間の抜けた顔で上空を見上げた体勢で止まっていた。


「九尾の狐がCQCぃ。末っ子ぉシュゥゥゥトぉ!」


 空中で野球の投手のように綺麗なフォームから流れるようにタツメを投げつけると、投げられた本人は何処から出したのか、いつの間にかバイクのヘルメットを被り、瞬きの間にマロの顔面に直撃した。


 またしても短い悲鳴を上げ、その場に倒れたマロ。気絶こそしなかったが、ヨロヨロ立ち上がると、涙目で鼻を覆いながら逃げ出した。


「あ、待つのじゃ!」


 着地と同時にマロの後を追おうとしたアノミに続いて、タツメも軽く服の埃を叩くと、マロの逃げた先に向かったが、すぐに速度を落とし、少し先で止まっているアノミに追いついた。


「あの白塗りさんの生命反応の色は不可解ですが、ノイズと当主さまの元へ行けない原因はわかりましたの。だって、一つの世界に同じ反応の者が二方いるのですもの」


 その目線の先には踵まであろうか、真っ直ぐで癖のない銀の髪色に、不自然なほど真っ白く、死に装束を思わせるような着物を纏った女性の姿があった。


「おやおや。ここ数日、昼間に来客のお相手をしていたせいか、夜になると眠ぅて捨て置いたのだが......」


 その台詞を言い終わる前に、森の木々や葉隙間から差し込む月明かりに照らされた姿は肌も雪氷のように白く、なんともか細い手を口元に当てながら欠伸の声を漏らした。


「見た目は当主さまなのじゃが......」


「いえ、アノミ兄、この時代の当主さまですの。確かに数百年若いので雰囲気は違いますが。それにしても、ちょっと美人過ぎですの」


「あらあら、嬉しいことを言ってくれる(わっぱ)だこと」


 にぃっと袖で口元を隠して目を細め、より狐顔に近い笑顔で微笑むそれは確かに現在アノミ達の当主である玉藻の面影はあるのだが、着物や飾り物がこちらに来た時とは違っている。


「ところで子狐達や、コレはなんぞえ?」


 タツメが言ったこの時代の玉藻(旧玉藻)が、その腕には不釣合いな大きさの、先ほど逃げ出したマロの顔面を片手で鷲掴みにして、体ごと軽々持ち上げてアノミ達の方に突き出して左右に振った。


「実を言うと、その白塗りはわしらもよく知らんのじゃ。なので、いろいろ聞きたいから出来れば殺してほしくないのじゃ」


「殺す?コレは首と胴が離れても喋ろうぞ。まったく、人様の庭で好き勝手騒ぎおって不愉快でならん。こんな玩具、欲しけりゃくれてやるがタダというのも気前が良すぎぬかえ?......そうのぉ、良い男を紹介で交換というはどうかのぉ?」


「主主と会う前はこうだったのじゃ?」


「おそらく根本的なものは変っていませんの。対象がいないだけで、いれば見てる側が赤面通り越して、胃もたれするくらいの手が付けられないほどの一途っぷりになると思いますの。当主さまは愛する人がいてこそ、その真価を発揮するタイプですので歴史を見ても、後にも先にもそれが繰り返すのが納得できますの」


「なんじゃあ、ヒソヒソ話なんぞ感じが悪いのぉ。あ、そちら誤解しとるな?別段ウチは紹介などされんでも、ちょいと街を歩けば大名もひっくり返るほど求婚の雨霰。微笑めば財を貢がれ、口づければ城の主。寝食を共にしたら国さえ動く絶世の美女ぞ」


「それなら、その辺歩いてくれば良いのじゃ。さっきまで欠伸しとったのじゃから、そんなに元気なら走ってくれば良いのじゃ」


「これこれ坊や。こんな山の中に良い男なんぞおるかえ?確かに来客の中には底々良い男もおったが、どれも小粒。なんというか、富や権力なんぞとうに飽き飽きしとるでのぉ。なんか、こぉ胸を抉り取るような衝撃的な魅力を持つ殿方とか知らんかえ?」


 特に怒る素振りもなく、どちらかと言えば眠気はあるが寝床に戻っても寝付けないので、飽きるまでは会話でもしてようかという感じである。早い話が暇つぶしの相手にされている感が強いので、どこまでが本気なのかわからない。


「今の当主さまもじゃが、この時代の当主さまも自信過剰が服着て歩いてるようじゃな。まぁ、これはこれで好きなのじゃ」


 お互いちゃんとした自己紹介をするよりも先に和気藹々した雰囲気になりかけているが、旧玉藻の手に掴まれているそれは、陸に打ち上げられた魚のように体全体をばたつかせていた。


「結構強く締めておるじゃが、やはり気すら失えぬ身か。難儀よのぉ」


 穏やかな口調だが握る力を強めたのか、マロが微かに苦痛の声を漏らすと同時にどこかに亀裂が入るような音がした。


「あぁ、それ以上強くしたら死んでしまうのじゃ」


「坊や、さっきも言ったが普通の人間ならとっくに柘榴よのぉ。嬢ちゃんの方は何かお気づきかえ?」


「普通のというより、そもそも人間ではないですの?」


 疑問符こそ付けたが、タツメは九割方マロが生物でないという自信を持っていた。


「そそ。ただの感ではなさそう。と、いうことでこんなのはどうかのぉ......」


 そう言って、旧玉藻はなんの躊躇もなくマロの顔を掴んでいる手をそのまま捻ると、小枝が折れるような軽い音と共に、マロの首と胴体は離れてしまった。

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