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RVALON Ⅰ  作者: 竜;
Suppuration

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14/52

03-01

 公園で寝てた体験から数日後、相変わらず平野の生活は平凡なものであった。

 少し変化があったといえば、特に何かを決めたわけではないが仕事帰りに寄り道をするようになった。

 ただ、本人も何処に行って良いかわからないので、薄っすらと記憶に残っている景色が無いものかとふらふら彷徨っている感じだ。

 それが原因でもないと思うが、ここ数日は暑さのせいで夏バテ気味なのかあまり遅くまで起きていられない。そのため早めに就寝しているのだが逆に早く布団に入っているせいで夜中に目が覚めてしまう。


 加えて今もだが、その時は決まって、


「やたらと喉が渇くんだよなぁ。最近暑いのもあるし、ビールも美味しい季節ですよっと」


 しっかり目を通しても十五分とかからない数枚の書類。加えて自分の部下は優秀な者が多く、基本は電子メールでやり取りし、紙媒体として提出されるのは殆ど修正がないものだ。すでに半ば流れ作業のように確認すれば、あとは上司へと持って行く簡単なお仕事。昼から一時間ほど経過し、眠気と飽きに自ら歩み寄る性格の平野は、椅子の背もたれに体重を預け、上半身を伸ばす姿勢で呟いた。


 机の上には、先程女性社員が入れてくれたアイスコーヒーの入っていたコップが既に氷だけとなっていた。


「確か冷蔵庫に共用で作り置きしてくれてるはずだけど......」


 そう言いながら給湯室に行き、冷蔵庫を開ける。案の定、プラスチックの容器が二つあり、ネームシールに「麦茶」「コーヒー」と書いてある。


「ほんと、俺の部下って言わないのに気が回る奴らばっかりだよな。お茶汲みやコピーだのの雑用なんて、本来はその仕事をやってる奴の範囲だし、なんか飲みたきゃ自販機あるだろうに」


 そうは言いつつ、持って来たコップにコーヒーを注ぐ平野は自分の部署に新人が入ってくると真っ先に「雑用を言いつける先輩がいたら、言うこと聞く前に自分のところに来い」と、指示している。

 基本的な心構えや社会人の基礎などを懇切丁寧に教えてやろうと、偉そうに言う輩ほど、部下は自分の都合の良い小間使いと勘違いしている者が多いからだ。


 履歴やご立派な心構えで判断するのは、人事や面接担当の仕事。

 新人がどれだけの可能性を持っているかは、先輩や上司、本人ですら未知数なのだから、課長となってからの平野は、とりあえずやらせてみる方針だ。

 逆に平野は、部下達がゆくゆく役職や肩書きが付くまでの過程を重視すべきだと考えている。


「ま、ヒヨっ子の時に優しくしたからって、そいつらが偉くなった時に恩を感じてくれるとも限らないけど。家庭でも会社でも、あんまり怒鳴られた記憶ない俺自身、叱り方とかよくわからないんだよな~」


 結果的にではあるが平野の部下は皆、自発的に雑用の類をし、特にそれを負担とは思っていないようだ。


「でもまぁ、ほんと暇になるときってあるからな。気分転換や暇つぶしくらいの気持ちでやってるなら良いけど、無駄と言えば無駄だよなぁ。そういえば、改善提案で出したウォーターサーバーとカップの自販機(費用会社持ち)、どっちか通って配備されるって話だけど、いつからだっけか?」


 冷蔵庫の中にあって冷えているので、氷は入れず、もう一杯飲むからと給湯室で行儀悪く立ち飲みをしていると女性社員が入ってきた。


「あらぁ~、課長も休憩ですかぁ~。暑いですからねぇ~。あ、まだ残ってますぅ?」


 平野の返事を聞かず、冷蔵庫を開けると平野同様、自前のコップに氷を入れ、麦茶を注いだ。

 平野は「このこ誰だっけ?」と、思い出せないでいると、


「そういえばぁ、この間の飲み会の時の話ですけどぉ~。課長ってお洒落なBarとかご存知なんですかぁ?」


「え、あぁ。そんなにたくさん知ってるわけじゃないけど行き着け、って言うのかな。俺みたいにお酒詳しくなくても、財布に優しくて気軽に入れるところなら......」


 咄嗟に聞かれたので、些か面食らいながら答える。その女性社員の顔を見ると一瞬言葉に詰った。

 (こんな美人、部下にいたっけか?)


「じゃあじゃあ~、連れてって下さい~って、言ったらご迷惑ですぅ?」


「え、俺?まぁ特に困ることは無いけど......」


 平野がそういうと、女性社員はスカートのポケットから携帯端末を取り出し、なにやら操作しながら、


「え~っとですねぇ~......、今日なんていかがでしょう?」


 わずかに首を傾け、ほのかに頬を上げた笑顔を向けて聞いてきた。

 また、そのタイミング。わざとらしくない自然な仕草が絶妙で、平野は思考を軽く奪われた。


「......大丈夫......、かな。終業時間にもよるけど......。大きな案件もなかったはずだし......」


「きゃん♪ではぁ、終わったら何人かで参りましょうか~。あ、二人っきりの方がよろしかったですかぁ~?」


「え、あぁ。いや、メンバーは......、任せるよ。でも、大人数だと店に入れないから程々で......」


 グループでと聞いて、ちょっとがっかりした気もするが、冷静に考えれば社内で変な噂になるのは良くないし、あまりよく知らない部下(だよな?)と、いきなり二人っきりで盛り上がれるほど話のネタも持ち合わせていないので、ここは部下達との交流と思って任せることにした。


「やったぁ♪では後ほど~」


 半ば強引気味な勢いで押し切ると、女性社員はささっと給湯室から退散した。


 突然吹いたつむじ風のような賑やかさであったが、はっと思い財布の中身を確認した。


「二、三人くらいだったら大丈夫......、かな、一応カードもあるし。......あ、あのこ名前なんていうんだ?」



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