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RVALON Ⅰ  作者: 竜;
When I Come Around

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プロローグ

「奇妙」と感じる線引きはどこからだと思う?

 基準は、自分が経験してきた中での世間一般という曖昧な物差しでしか判断できないと思うけど。あぁいや、自分が常識人かといえばそれは可もなく不可もなくと言ったところなのだが……。

 でも、その男は「奇妙」と言って良い存在だったと思う。


 高いビルの谷間、路地裏。

 映画でよく見る荒れた感じで、お誂え向きに鉄製のゴミ箱。オプションで野良猫はいかが?

 いや、さっきの俺はこんなに辺りを見てるほどの余裕なんか無かった。

 演出や小道具は多少盛ってるかもだけど、いつも通っている道だ。

 嘘はついていないはず。だけど、思い返しても俺自身夢を見ていたのかって思う。


 実際、夢だったのかな?数日前も目を奪われるほどの美人に会った気がするんだけど。結局、夢だったようだし。


 小一時間程前に会社を出て、いつも通るビルの間の路地裏を歩いてると、その男はさも当たり前のように、自転車で俺の前を通り過ぎた。

 夜だからダメってわけじゃないけど、黒いハットを被っていた。そう、そいつに銀色の羽のようなものや、他にも飾りが付いていたかな。

 それを被り、硬そうな背広、なんか艶っぽかったからエナメル……革のジャケットかな?下はスーツのそれじゃなかったと思うし、歳はわからないけど、若者が身に付けるジャラジャラとした、重そうなウォレットチェーンみたいなものをつけていた。

 異様なのは、どこの国の物かはわからないが、ガスマスクをしていること。それに加えての違和感、男は肩に子供にしてはサイズがおかしい。そう、人形を乗せていたんだ。


 だから言っただろ?こんなこと誰にも信じてもらえないし「あなた、疲れているのよ」って言われて相手にされやしない。

 でもな、どうしてもそのことが頭から離れない。

 あれ?そもそもガスマスクしてるのに、何で男ってわかるんだ?

 いや、でもあの体型からして……。しかし、女性の水泳選手の中には男勝りの肩幅の人も……。そもそも、自転車で通った男なんていたか?

 それに人形を肩に乗せてるだなんて……。あぁ悪ぃ、たぶんなんかの勘違いか、テレビかなんかで見たのが混ざっちまったんだ。

 ほんと、疲れてんだ。今日は帰って早めに寝るかな。


「そう、気にするほどのことじゃないんだ」




ぬしぃ。いま、人と目が合ったじょ」


 滑走する自転車には二つの影。

 一人は成人男性。銀の飾りが付いた、黒いレザーのハットを被り、夜とはいえ、夏の季節には似つかわしくない臙脂色の革ジャケットに暗めのデニムと茶色いブーツ。

 他にもいくつかの装飾品が見られるが、この時点ではまだ不思議とは言い難い。

 しかし、その男は何処の国の物わからないガスマスクを被っている。付け加えれば、肩に60cmくらいの人型の存在を乗せていることが一気に珍妙さを引上げていた。

 更にこの肩の存在。サイズこそ大き目の人形なのだが、言動から仕草に至るまで人間をそのまま小さくしたよう、いや、小さな人間と言って良い。


『結界外で姫単体であれば有りえなくもないのですが、気になるようでしたら局に連絡を入れておきましょうか?』


「面倒ごとはゴメンなんだな。さっさと帰るんだじょ」


 姫とは肩の上にいる存在。呼ばれた方は気には止めたが発言通り、余計なことには関わりたくないので主と呼んだ存在に返答した。


『話は変わりますが、局を出る前に業務日程を確認しましたところ、緊急招集でもなければ有給消化するよう促されましたので、久しぶりにまとまった休みが取れそうですよ』


「妾、今回もいっぱい頑張ったんだな」


『ご苦労様でした。向こうでの滞在期間が長引きましたが、その分、遠方まで足を運べました。これであの地域は七割ほどまで調査が進んだと思います』


「主は働けばお給料もらえるけど、妾は何もないんだじょ!ご褒美欲しいの!」


『名目上、姫は付き添いと言うよりは勝手について来ただけという扱いになっていますから。私自身に寄る影響とはいえ、上の方も姫の存在がが当たり前になりすぎて麻痺というか、もはや常識くうきとすらなっているのも少し考えるところや思うところがあるのですが』


「いつも妾は荷物扱いなのな」


『人事や経理の方には出張先での重要な触媒、媒体と説明しましたけど、今一伝わらなかったので、パートナーという感じで何度か報告書は出してあるのですが、姫に関する諸経費等については協議中とのことです』


「主の書類の書き方がダメなんじゃないの?今度、妾が直訴するんだな」


『局には姫の存在を調査する部署もあり、私がデスクワークをしている時はそちらに行っていますが、普段は何をされているのですか?』


「みんな、妾のファンなんだじょ。お菓子貰ったり、ゲームとか動画見て好きに過ごして良いって言われてるの」


『どこか献血に行った時の待遇に似ていますね』


「飽きたら、局内なら制限のある所以外は好きに出歩いて良いって言われてるから、主が来る前に食堂いたりすると、みんなおかずとかくれるの。一人一品でも机の上が賑やかになっちゃうんだな」


『ご自身の食べられる分だけで断りませんと。最終的に私が食べることになるのでご注意願います』


 のんびりとした会話とは裏腹に、前方にカゴのついた、少々古めだが一般的な買い物自転車は競技に使われるようなロードサイクルと同等以上の速度で走行し、制限速度を守っている原動付き自転車を優々と抜き去っていく。

 ただ、抜かされても誰一人としてその存在に気付いている様子はない。


『話は戻りますが、急な呼び出しが無ければ二、三日は確実にお休みがもらえそうなので、どこかに行きたいなどのご要望があれば皆さんと相談しようと思いますが、何かご希望はございますか?』


「ん~、いきなり聞かれるとパッと出てこないんだな……。あ、そうだ、ロメオのとこ行くんだじょ!とろけるシチューなの!」


『帰る前におしゃっていたご提案ですね』


「今回も妾は頑張ったから、一番大きいお肉が入ったのを食べるんだな!」


『皆さんのご都合を伺ったのち、お店の予約の方を手配いたしましょう』


「子狐達に言えば予約なんてどうとでもねじ込めるんだじょ。なんなら、花屋に言えば確実なんだな」


『いくら姫が花輪さんのご贔屓とはいえ、無理ばかり言ってはダメですよ』


「今から行く?」


『それはさすがに……。こちらに戻って来た時に、姫が献立を提案したので玉藻さんが張り切って支度していることですし』


「ん~、玉藻のご馳走は魅力なんだな。主ぃさっさと帰るの!」


『かしこまりました。姫、速度を上げるのでしっかりとお掴まりください』


 特に力を入れる仕草は見られないが、主の言葉を合図にしたかのように、自転車は更に加速し、車の隙間を鮮やかに抜けながら消えて行った。





~プロローグを最後まで読んでいいただきありがとうございます~

 編集も兼ねて投稿していきますので、一日一話、時間は特に拘りはありませんが、二十時半くらいにしようかと思います。


 一巻分は三部構成になりますので、引き続き[When I Come Around]にお付き合いください。


 各章内のタイトルは、現在、01、02、のように番号だけなので、副題を付けようか考え中です。告知なく、いつのまにか変わっているかもしれませんので、その辺りはご愛敬ということでよろしくお願いいたします。

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