表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

虫送り

 それは、大学のサークル合宿で地方の山奥に行ったときの話だった。地元の古い民宿に泊まることになり、俺たち八人は田舎の空気にはしゃいでいた。夜、夕食を食べ終えた頃、宿の婆さんが話しかけてきた。

「今夜、虫送りがあるから、外には出ん方がええよ」

「虫送りってなんですか?」

 俺が尋ねると、婆さんはうつむき加減にこう言った。

「畑に憑いた“悪い虫”を村から追い出す儀式よ。でもあれは……見ちゃいかんの」

 怖いというより、なんだか興味深くて、俺と友達のアキは夜中に抜け出すことにした。二十二時を過ぎた頃、こっそり民宿を抜け、坂道を下った。すると遠くから太鼓の音が聞こえてくる。

「ドン……ドン……ドン……」

 音に引かれて進むと、田んぼの間の細い道に出た。そこには、白装束を着た村人たちが、無言で列を作って歩いていた。手には松明、腰には藁で作った虫の形を吊るしている。

 奇妙なのは、列の最後尾の人が、ずっとこちらを見ていることだった。動いているはずなのに、顔の角度がまったく変わらない。俺たちは慌てて引き返した。

 翌朝、宿の婆さんがアキの姿を見て驚いていた。

「昨夜……アンタ、見てしもうたのかい……?」

「え? まあ……ちょっとだけ……」

 婆さんは青ざめて、小声で言った。

「“虫”が取り憑くよ。見られたら最後、次は自分が“送られる”側になる」

 アキは冗談だと笑っていたけど、その夜、彼の部屋から異様な音がした。

「ドン……ドン……ドン……」

 太鼓の音。

 次の日、アキはいなくなっていた。部屋には、黒く焼け焦げた藁の“虫”だけが、落ちていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ