目の前の部屋
ある日、僕は友人に誘われてとある古いアパートを訪れることになった。友人が言うには、そのアパートには「洒落怖な話」がいくつもあるという。好奇心旺盛な僕は特に怖い話に目がない。
アパートは薄暗く廊下の壁は色褪せていて、どこか不気味な雰囲気が漂っていた。友人に案内されて僕たちは一番奥の部屋に入ることになった。
その部屋は、まるで時間が止まったかのように誰も住んでいないことが一目で分かる状態だった。ほこりが積もり、窓は汚れていて外の光もかすかにしか差し込んでいなかった。
友人は何も言わずに一歩踏み込んだ。僕も後に続いたが、ふと気づいた。部屋の隅に置かれた鏡に、自分たちの姿が映っていないことに。
驚いて友人を振り返ると、彼も驚いた表情で僕を見ていた。
「おかしいな、鏡に映らないって……」と友人が呟いたその瞬間、部屋の中に何か動く気配がした。
振り返ると、部屋の隅に立つ黒い影が、わずかに動いていた。それはまるで、僕たちの姿を真似ているかのようだった。しかし、明らかにその影には顔も体もなくただの影だけがそこに存在していた。
急いで部屋を出ようとしたが、扉は開かない。焦る僕たちの前で、黒い影がゆっくりとこちらに向かって歩き出した。その影の足音は、僕たちの心臓の音のように、だんだんと大きくなっていく……。
気がつけば、突然部屋の扉が開いた。外の光が差し込み僕たちはその場から一目散に逃げ出した。しかし、友人が振り返った瞬間、またあの影が鏡の中に映っていることに気づいた。
それからというもの、僕たちは二度とそのアパートには近づかなかった。しかし、夜になるとたまに鏡の中にあの影が見えることがある。それはまるで、僕たちを追い続けているかのように……。