影が去った後
「・・・ぢだ・・・じじ、・ど・・・にぐ。」
「っなんだよこれ!どどど、どうしろっていうんだよ!!!」
「・だだぎ、ず・・・だぎ・・・ず」
人型をした影は人とは思えないほど大きく裂けた口を動かし何か言っている
浩二は逃げようと思い、振り返って来た道を辿ろうとしたが、
足に力が入らない。ガクガクと震えることしかできなくなった足に影が手を伸ばしてくる。
「っひぃ!あ、あっち行けよ!」
少しづつ寄ってくる影に向かって叫んだが影は聞き入れなかった
「・・・ぐがが、がが・・・」
「く、くんなよ!」
影はついに浩二の足もとまでやってきて浩二の足に手をかけた
「おおおおい!何すんだよ!?どっか行けよ!?」
足の先からどんどん影が登ってくる。
パニクッた浩二は思わず自分の足にまとわりつく影を殴った。
「・・・っが!?」
驚いたのか、影はスッと足から離れそのまま薄くなって消えてしまった。
「い、いなくなった・・・?」
足もとを注視する、何もない地面。
周辺を凝視する、静寂な工事現場。
「いいいないよね?」
・・・カラン。
「っ何!?」
振り向くと鉄パイプが転がっていてその向こうに彼女がいた
「・・・何してんの?」
マルセンと印刷されたレジ袋を手にしている。
人参とカレールーが袋からはみ出しているのが見えた。
「か、カレー?」
「カレーじゃないわよ」
「・・・じゃあ、何?」
「あぁ、そうじゃなくてね、他に言うことがあるんじゃない?ってことよ」
「っひ」
「何なの?なんでビクビクしてんのよ」
彼女はどうやらすこし怒っているようだ。
すこしづつ状況を呑み込めてきた浩二はもう一度足もとを見た。
何もない。
「もういいわよ、帰ってから聞くわ。早く帰りましょ」
足がまだ動かない。
顔をあげて彼女に目で訴えかける。
「・・・はぁ?何なのよ?何が言いたいわけ!?聞きたいのはこっちでしょ!」
彼女は俺の方までやって来て、俺の手を引いた。
が、足が動かないのでそのまま倒れてしまい
俺が彼女に覆いかぶさるような状態になってしまった。
「っこ、これは!あああ足がっ!!!」
「・・・足がどうしたの?」
なんで?なんで優しい聞き方するの?
怖いじゃん、やめてよ。俺悪くないよ。
「あああ、ああ、足に力がががが」
「・・・力がどうしたの?」
また、また優しい口調だね。
なんで?怒るところでしょ?
「お・・・お、怒らないの?」
「・・・そうね。怒ってるわ」
「っ!」
「で、いつまであたしに覆いかぶさっている気かしら?」
っはとして彼女から離れようとするがどうやら彼女の剣幕にやられたらしい。
全身の筋肉が硬直して少しも自由が利かない。
「・・・・・っっっっどけって言ってんでしょうがあああああああ!!!!!」
俺のいちもつに彼女の膝が言った”また会ったね”。
◇◆◇◆◇◆◇
なんとか家に帰った俺は彼女にあったことの全てとその後の件に関しての言い訳をした。
どうやら分かってくれたようで、
「スウェット貸して」と言い残し俺のスウェットを持って風呂に行ってしまった。
「・・・やばいよ~」
冷静はとうに取り戻していたが口から出る言葉がこれしかない。
「まじやばいって~」
ジャーーーとシャワーの音が部屋に広がる
「あ~~~~」
畳に仰向けで寝ころんで天井を眺める。
「・・・顔発見。」
天井板の年輪の跡が口を大きく開けて叫ぶような顔の形に波打っている(ように見える)。
「・・・・・・・・・・」
ぞぞ~っと鳥肌が立ってきて、さっきの影のことも思い出して
ぼろアパートのことだ、玄関のドアの下の隙間からあいつが
やってきて俺のことを・・・
そんなことが頭をよぎってたまらなく怖くなった浩二はどうしたらよいか分からなくなり。
恐ろしくなって、彼女に助けを求めに風呂場へ走った。
ガラッっと勢いよく風呂の曇りガラスの戸を開け放つ
「助けてくれ!!!!!!!」
「・・・・・・・・」
「た、助けて・・・くれー、なくていいや」
「・・・・・・・・」
「ごめん、そんなつもりじゃなかった。ほんと。お前の裸なんて見たくないし。あ、いや、違う
そういう意味じゃなくてな。そうだ。少し見たかったようん。」
「・・・・・・・・」
ジャーーーー、懇々と湛えるシャワーのお湯が沈黙を紡ぐ
「あ~じゃあ俺、代わりにカレーつくるね。うん。またね、あと意外と胸おおきいね」
カッと彼女の顔が赤くなった瞬間。
俺のいちもつはまた彼女の膝の声を聞いた”今日はよく会うね”。