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優しい怪獣と意地悪な怪獣 1

「じゃあ、行こっか!」

わたしも小鈴ちゃんも制服を着て出発の準備をする。まあ、出発といっても同じ学園内だし、移動距離は約3キロ+一般生徒用校舎と巨大少女用校舎を隔てる標高150mの低い山を超えるだけだから、距離は知れてるけれど。


入学式の会場は一般生徒用校舎にある体育館らしい。ただし、わたしたちは体育館の内側への進入は禁止されている。体育館前のグラウンドから、体育館の屋根に設置した巨大なモニター越しで体育館の内側で行われている入学式の様子を見る形で出席するらしい。ちなみに、巨大なモニターを体育館の屋根の上に設置するなんて、プロの業者を呼んでも一日がかかりで時間がかかりそうな作業を10分ちょっとで終わらせてしまったのは、もちろんわたしたち巨大少女の面倒を見てくれている巨大な事務員の東條さんである。


意気揚々と建物の玄関から出ようとしたけれど、小鈴ちゃんの足が止まった。そして、なぜか小鈴ちゃんは小さく震えている。何かに怯えているような様子だった。

「どうしたの?」

「入学式行くの、やだなって思って……。ここから出たらわたし、またみんなから怖がられるから……。このサイズになってから、外を歩くのが本当に怖くて……。今までもほとんど不登校みたいな感じだったし、普通サイズの人に会いたくないのよ……」

俯いて、ため息をつく小鈴ちゃんに、わたしはソッとハグをした。体を引っ付けあったら、心臓の鼓動がかなり早いペースなのがよくわかる。


「ちょ、いきなり何すんのよ!」

本人は何度も何度も自分のことを大きくて怖いと形容していたけれど、抱きしめてみるとやっぱり小さくてほっそりとした可愛らしい体だと思う。

「大丈夫だよ、小鈴ちゃんは怖くなんてないからね。こんな小さな子、怖がる方がおかしいんだよ」

「月乃が大きいから、わたしが小さく見えるだけで、わたしだって本当はとっても怖い怪獣みたいなサイズなのよ?」

「そんなことないって、大きいのは事実だとしても、怖くはないよ」

「怖いに決まってるじゃない! 間違って上に乗っちゃったら、それだけでぺっちゃんこにしちゃうような体なんだよ?」


泣きそうな声で嘆く小鈴ちゃんに身長のコンプレックスがあるのは間違いないと思う。けれど、まだそこに踏み込めるだけの関係じゃないから、今は深く追求はできなさそう。ただ、小鈴ちゃんの心の辛さに寄り添うくらいなら、きっとできると思う。


「大丈夫だよ。もし大きさのせいで怖がられるのが不安なんだったら、ちょっとずつわたしたちが怖くないってみんなに教えていってあげたらいいんだよ。時間はかかるかもしれないけれど、ちょっとずつ、わかっていってもらって、怖がられないようにしようよ。わたしも小鈴ちゃんも怖い怪獣じゃなくて、優しい怪獣だって思ってもらえるように頑張ろうよ!」

「なにそれ、怪獣って思われる時点で嫌なんだけど」

小鈴ちゃんは小さくクスッと笑った。

「じゃあ巨大ドール人形とか?」

「なんだかB級パニック映画みたいだからやめて!」

小鈴ちゃんの声が元気になってきた。とりあえず、気持ちが落ち着いてきたみたいでホッとした。


小鈴ちゃんから離れようとしたけれど、小鈴ちゃんがわたしの体をギュッと強く抱きしめてきて、離そうとはしてくれなかった。

「もうちょっとだけ抱きしめてもらってもいい?」

「いいよ」とわたしが伝えたら、小鈴ちゃんがわたしの体に身を預けるみたいにして、体重をかけてきた。

「誰かと抱きしめ合うのってあったかいのね。もう、そんな感情何年も忘れてしまってたわ」

小鈴ちゃんがわたしの胸に顔を埋めながら、呟いた。

「わたしも久しぶりだなぁ」


小学生の頃、県の絵画コンクールで入賞したときにママに抱きしめてもらったっけ。すっかり忘れていたけれど、ハグってこんなにあったかいんだなぁ、って久しぶりに実感する。わたしたちが普通サイズの人とハグをしようとしたら、骨とか折っちゃいそうだし、最悪の場合は抱きしめた時に潰れちゃったりしそうだから、絶対にできないのだ。だから、やっぱりこうやって同じくらいの子(と言ってもわたしと小鈴ちゃんは5メートルくらい身長差があるけれど)とハグができるのは幸せだった。しばらく抱きしめていたら、小鈴ちゃんが小さく息を吐き出した。


「入学式、そろそろ行こっか……」

小鈴ちゃんの覚悟が決まったみたい。だから、わたしは小鈴ちゃんの小さくて柔らかい手を引っ張って、外に出た。すっかり明るい日差しの中、わたしたちにとっては少し小さい世界が広がっている。本当はわたしたちが大きすぎるだけなんだってわかっているのに、小鈴ちゃんが横にいたら、まるで小人さんの世界に迷い込んでしまったみたいな、そんな気持ちになるのだった。

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