40メートルちょっとの同級生 2
「あなたは大きいって言われるの嫌なの?」
「嫌に決まってるでしょ? わたし、大きくなる前はこれでも、ちょっとだけ可愛かったんだから……。みんなからも小鈴ちゃんは可愛いって言ってもらったりしてたのに……。フリフリの服とかぬいぐるみが似合うねって言ってもらったのに……」
少女が泣きそうな声で言うけれど、目の前にいるわたしと比べて小柄な彼女は、本人談の通り、フリフリの服とかぬいぐるみの似合う可愛らしい子だと思う。
「今でも可愛いし、地雷系ファッションとか、絶対に可愛いと思うけど」
まあ、わたしたちに合うようなフリルのついた服なんて多分この世に存在しないと思うけど。
「バカじゃないの? 地雷系なんてしようと思ったら、一体ヒール高何メートルの靴がいると思ってるのよ。わたしのことどんだけデカくしようと思ってるのよ!」
少女が頬を膨らませていたから、わたしは頷く。
「たしかに、でっかくなったらわたしの身長抜かれちゃうかも。でも、ヒール履いておっきくなった小鈴ちゃんも絶対可愛いと思うよ」
「でっかくなったらも何も、もう今でも充分おっきいのよ!」
「そうかな? 小さいけど」
「だから、あんたもめちゃくちゃおっきいんだってば!」
ムッとしながら右足で思いっきり床を踏みつけてから、少女がハッとして床を見た。
「ヤバっ、地面陥没してないよね……」
気持ちはわかる。わたしたちの一挙手一投足は常に何らかの破壊に繋がってしまいかねないから。わたしもちょっと心配になったけれど、床には傷一つついていないみたい。この建物、ほんとに怖いくらい丈夫だな。
「なんだかあんたと一緒にいたら調子が崩れちゃうわ……」
少女が気怠げにため息を吐いた。そして、こちらに顔を近づけて、顔の横にそれぞれ両手を持っていき、爪を立てるみたいなポーズをして、ガオッと威嚇するみたいな声を出した。一体彼女が何をしようとしたのかわからずに、首を傾げた。
「何今の? 可愛いね。猫さんのマネ?」
そう言うと、少女が恥ずかしそうに俯いた。
「本来なら、今のでみんな怯えるのよ……」
「えー、あんなに可愛いネコさんなのに、なんかもったいないね」
「可愛い、か……」とポツリと少女が呟いた。
普通の人から見たら、大迫力で大きな口が目の前にあるから怖いってことかな? だとしたら、今の可愛いポーズをきちんと可愛いものとして認識できるこのサイズはやっぱり得だな。わたしは自分の大きな体が好きみたい。そんなことを思っていると、突然目の前の少女が泣き出してしまった。
「えっ、大丈夫? わたし、変なこと言ったかな?」
尋ねると、少女が静かに首を横に振った。
「違うの。この大きさになってから、わたしのこと可愛いって言ってくれてた子たちがみんな、わたしのこと怖がってきたから、こうやってわたしのこと可愛いって久しぶりに言ってもらえるのが嬉しくて……」
泣きだした少女が慌てて瞳からこぼれ落ちそうな涙を拭い出したのは、別にわたしに泣いているのを見られるのが恥ずかしいからではないと思う。下に涙が落ちてしまうのを防ぐのが癖づいてしまっているんだと思う。わたしたちの涙は、地面にぶつかったら大きな水溜りになるし、もし人に直撃したら場合によっては大怪我にも繋がってしまうから。
些細な動作が大惨事になりかねない気持ちなんて、普通の人にはわからないだろうから、気持ちを分かり合える子が現れたことが嬉しかった。ちょっと情緒不安定な子みたいだけれど、同じ悩みを共有できる子に会えて、嬉しかった。これから仲良くやっていけそうだ。
「わたし、春山月乃。これからよろしくね」
手を差し出すと、少女もこちらの手を握ってくれた。柔らかい小さな手の感触が伝わってくる。この小さな手のひらが、戸建て住宅を乗せられてしまうくらい大きいなんて、信じられなかった。どこからどう見ても、ごく普通の小柄な女の子の手だ。わたしたちは、室内にいる限りは、間違いなく普通の女子高生としていられるみたいだ。
「わたしは白石小鈴。よろしくね、春山さん」
ニコリと笑う小鈴ちゃんの笑顔が可愛らしかった。やっぱりこの子、お人形さんだと思う。例え、身長が40メートルを超えていようとも、間違いなく可愛いと思う。
「月乃で良いよ」
「じゃあ、そう呼ぶ」
わたしたちはお互いに、久しぶりに同じくらいの視線の子と向かい合って、笑い合ったのだった。