小鈴ちゃんを探ろう 3
小鈴ちゃんが萩原先生のところに行ったから、わたしと詩葉先輩が2人きりになってしまった。
「小鈴ちゃん、いつの間に呼ばれてたんですか?」
小鈴ちゃんが萩原先生に呼ばれていたところなんて見ていなかったのに。きっと萩原先生が小さすぎて見逃してしまったに違いない。詩葉先輩は良く気付いたな、と感心していたけれど、詩葉先輩はわたしの顔を見て吹き出してしまっていた。一体なにが面白いのかわからずに首を傾げた。
「月乃ちゃんってほんとに可愛いよね」
「ん?」
詩葉先輩の表情は、明らかに褒めてるときのものではない。
「どう考えても小鈴ちゃんをここから外に出すための嘘じゃん……。いや、まあそれで騙されちゃう小鈴ちゃんも小鈴ちゃんで可愛いけどさ。キミたちほんと楽しい後輩だよ」
「あー……」
なるほど。詩葉先輩の嘘にわたしたちはあっさり騙されてしまったというわけか。
「ま、おかげで部屋の中探しやすくなったけどね」
詩葉先輩がニヒヒ、と悪だくみをしている時の笑顔で机に近づいて行った。
「さ、小鈴ちゃんが引き出しに慌てて何を隠したのか、見物させてもらおうよ」
「あんまり変な物じゃなかったら良いけど……」
真面目な小鈴ちゃんがわたしたちに見つからないように必死に隠したようなものだし、何かマズいものなのかも。そんなことを思いながら、わたしも詩葉先輩の後に続くようにして近づいて行った。
「へへっ、小鈴ちゃんの秘密見つけたり~」
詩葉先輩が楽しそうに勢いよく引き出しを開けて中を覗き込む。その瞬間、詩葉先輩がジッと何かを見つけたみたいに一点を凝視する。なぜだかわからないけれど、詩葉先輩は必死に笑顔を堪えるような表情をしていた。零れ落ちてしまいそうな笑いを必死に堪えているように見える。笑いたいなら普通に笑えば良いのに。不思議に思いつつも、必死に笑みを堪えたまま、詩葉先輩は引き出しに手を入れた。
「何かあったんですか?」
「それが、何にも無いんだよね。いや、ほんと、ビックリするくらいにね」
わたしの方を見て首を横に振って否定しているけれど、堪えきれないくらい楽しさ溢れる笑みを浮かべている詩葉先輩はかなり怪しい。
「ほんとですか?」
「ほんとだよぉ」
手を握っていない方の手で人差し指を引き出しの中に向けて注意を向けるようにしているけれど、わたしが気になっているのはそちらではない。引き出しに手を突っ込んで、何かを握ったように見えたから、握った方の手を見たいのに。
「何握ってるんですか?」
「何も握ってないよぉ」
「じゃあ、手見せてくださいよ」
「はい」
詩葉先輩はビックリするくらい素直に開いた手のひらを見せてくれた。随分素直な様子に困惑しながらも手のひらの上をジッと見たけれど、確かにそこには何も無かった。
「ほんとだ……」
わたしの勘違いかな。
「すいません、何か引き出しの中から取り出したみたいに手を握ってたんで勘違いしちゃいました……」
勘違いをごまかすために苦笑いをする。少し気まずかったけれど、詩葉先輩は「気にしないでよ」と言ってくれているからホッとした。そうこうしているうちに小鈴ちゃんが戻ってくる。
「詩葉先輩! 萩原先生用事無いって言ってたんですけど!」
ムッとしたように可愛らしく頬を膨らませている。
「あれー、わたしの勘違いかなぁ??」
わざとらしい演技で頬に人差し指をくっつけながら首を傾げる。そのまま、話題を変えるみたいに、自身の頬から人差し指を離して小鈴ちゃんの顔に近づけていく。
「ほんと、小鈴ちゃんって小さいし小動物みたいで可愛いよねぇ」
詩葉先輩がニコニコと笑いながら、ぷくっと膨れた小鈴ちゃんの頬を人差し指で突いた。
「ち、小さいって、わたし車を踏みつぶせるくらい大きいんですけど!」
小鈴ちゃんは少し恥ずかしそうに、まんざらでもなさそうに、にやけていた。小さいって言われたらそれだけで上機嫌になってしまう小鈴ちゃんはやっぱりすごく可愛らしい。
「そんな小さな身体で大きいとか言わないでよね~。笑っちゃうからさ」
詩葉先輩が小鈴ちゃんを背後からギュッと抱きしめてハグをしていた。
「ほんと、抱き心地いいね~。可愛いし、抱き枕にしたいなぁ」
「や、やめてくださいってば!」
小鈴ちゃんが必死にジタバタと手足を動かして詩葉先輩を引き離そうとしているけれど、まったく敵っていない。こんな小さくて可愛らしい小鈴ちゃんが外に出たらビルと背比べできてしまえるくらい大きいなんて信じられなかった。
小鈴ちゃんが先輩に可愛がってもらっている様子をのんびりと眺めていた。さっきよりも少し元気になっているみたいだし、これはこれで良かったのかも。結局、詩葉先輩に相談して正解だったみたい。小鈴ちゃんが何か隠しているわけでもなさそうだし、元気がなさそうなのも気のせいだったのかもしれない。そんなことを考えて、わたしものんびりと微笑んでいた。
まさか、小鈴ちゃんのことを後から抱きしめている詩葉先輩が、服の裾に小さな生徒を隠してしまっていることなんて知らないわたしは、とても呑気に、戯れる2人の女子たちを見守っていた。高所で動き回る詩葉先輩の袖口から必死に叫ぶ「助けて」とか「降ろして」とか言う小さな叫び声は、じゃれ合う声にかき消されてしまっていたのだった……。




