小鈴ちゃんを探ろう 2
その後、授業とホームルームが終わると小鈴ちゃんは速やかに部屋に戻ってしまった。きっと、一人でいたい気分だったのだろう。あまりしつこく詮索するわけにもいかないから、わたしは詩葉先輩にこっそり相談することにした。小鈴ちゃん以外で一番話しやすいのがノリの軽い詩葉先輩だった。
別にお姫ちゃん先輩も話しにくいことは無いけれど、自分の世界を持ちすぎていて少し緊張してしまうのだ。とりあえず、お姫ちゃん先輩がさっさと自室に戻り、小鈴ちゃんがその後に不安げに自室に戻るから、わたしは簡単に詩葉先輩と2人きりになれた。
「詩葉先輩、ちょっと良いですか?」
「いいよ~」
のんびりとこちらに近づいてきてくれた。
「わたし、小鈴ちゃんが心配で……」
「何かあったの?」
「なんだか元気がないみたいなんですよね」
「ふむふむ、それは心配だね」
詩葉先輩が大きく頷いてから、微笑む。
「あたしで良ければ力になるよ」
二つ返事で協力してくれる詩葉先輩が頼もしい。とても面倒見のいい先輩である。
「ありがとうございます! さすがは詩葉先輩ですね」
嬉しくて思わず飛び跳ねてしまいそうになる。小さく胸元でガッツポーズしていたら、詩葉先輩がそっとわたしの頭を撫でてくれる。
「月乃ちゃんは優しいんだね」
ニコニコと優しい表情を向けてくれる詩葉先輩が良い人なのはよくわかる。わたしは詩葉先輩の優しさに甘えるのだった。
「で、心当たりとかあるの?」
「さっき呼びに行ったとき、わたしが部屋に入った瞬間、引き出しを慌てて閉めてたから、そこに何か秘密を入れてるのかも……」
どう考えてもあそこが怪しい。小鈴ちゃんはきっと悩みの原因を引き出しの中にしまい込んでいるはずなのだ。秘密を覗こうとするみたいで申し訳ないけれど、小鈴ちゃんの悩みを聞き出すためには調べるしかない。
「ふむふむ。じゃあ、探ってみるか」
「探るって、どうやって?」
「小鈴ちゃんの様子を観察しながら、隙を探して引き出しを見るんだよ」
「わ、わかりました……」
詩葉先輩がどんな作戦を企んでいるのかわからないけれど、とりあえず、彼女のアイデアに乗っかかってみることにした。
「そうと決まれば、一旦月乃ちゃんたちの部屋に行くよ!」
「はーい」
わたしたちは一緒に部屋に向かい、ノックもせずにドアを開ける。
「やっほー、小鈴ちゃん何か元気ないけど、どうしたのかな?」
開けた瞬間の小鈴ちゃんは自分の席に座って俯いていた。引き出しの中を少しだけ開けて、慎重に様子を伺っているみたいにも見えた。
詩葉先輩が声をかけた瞬間、小鈴ちゃんが「ひっ」と怯えたような声を出して、慌てて引き出しを閉めていた。
「な、なんでもないですから」
そのまま背筋を伸ばして、椅子に座る向きを変えて、こちらに身体を向ける。顔から冷や汗でもかいてそうなくらい焦った表情をしているし、やっぱり何か隠し事をしているのだろうか。
「ねえ、何か心配事とかあるなら相談に乗るよ?」
「ううん、大丈夫だから」
わたしが声をかけても小鈴ちゃんは首を横に振った。どうやら心配かけないようにしているらしい。そんな水臭いことせずに、困ったときには頼ってくれたら良いのに。
「本当に何も無いのかなぁ」
詩葉先輩が少し揶揄うみたいな言い方で尋ねてから、小鈴ちゃんの方に近づいていく。そして後ろから、ギュッと小鈴ちゃんのことを抱きしめるのだった。
「や、やめてくださいよぉ」
「教えてくれたらやめてあげるよ~」
詩葉先輩が小柄な小鈴ちゃんを抱き締めてしまえば身動きが取れなくなる。詩葉先輩の方が小鈴ちゃんよりもずっと力は強いみたい。
「な、何もないですよ!」
「ほんとに?」
「ほんとですから!」
「そっか、わかった」
詩葉先輩はそう言うと、さっさと小鈴ちゃんから離れてしまった。思ったよりも早々に諦めてしまった。これじゃあ小鈴ちゃんが何を悩んでいるのかわからないや。もう少し粘ってほしかったな……。
そんなことを考えていると、今度はわたしの肩に手を回しながら、わたしの勉強机の方に歩き始める。
「じゃあ、あたしは月乃ちゃんにお勉強教えないとだからね~」
「えぇっ!?」
小鈴ちゃんもわたしも一緒に驚いた。小鈴ちゃんから秘密を聞き出しに来たつもりだったのに、なぜかわたしに勉強を教える感じになってしまっていた。なんだか目的が変わってしまっているような……。
そんなわたしたちのことを小鈴ちゃんが困ったように見てくる。
「どうしたの?」
「いや……。ずっとここにいるんですか?」
「ずっとじゃないよ、勉強終わったらどっか行くから」
「何分くらいですか……?」
「んーっと、2時間くらいかな」
「えぇっ……!? そんなにいるんですか……」
小鈴ちゃんが落胆したけれど、わたしも同じ気持ちだ。今から2時間も勉強しないといけないのか……
「そーそー、しばらくいるからね」
小鈴ちゃんが困ったように眉をひそめていた。
「あ、あと、そういえば萩原先生が小鈴ちゃんのこと呼んでたから、東条さんのとこ行った方が良いと思うよ」
「えぇっ……。こんなときに……?」
「どんなときかわからないけど、呼んでたよ~」
いつ呼ばれたのだろうか。いつの間にか小鈴ちゃんは先生から呼び出しを食らっていたらしい。ずっと詩葉先輩と一緒にいたのにわたしも気付かなかった……。小鈴ちゃんのことを心配しすぎて周囲に気を配れてなかったみたいだ。
「わ、わかりましたよ……」
小鈴ちゃんはそのまま、いそいそと部屋から出て行ってしまった。




