小鈴ちゃんを探ろう 1
〇〇〇月乃視点〇〇〇
先ほどの実習を終えて先に教室に戻ってきていたのに、なぜか小鈴ちゃんはまだいなかった。運動場で小さな子を見つけて帰してあげた後に、少し残っていたことは覚えているけれど、そのあとすぐに校舎に戻ってしまったから、小鈴ちゃんが今何をしているのかはわからなかった。
東条さんの手のひらの上に立っている萩原先生が少し怯えながらわたしの鼻先で声をかけてくる。わたしがさっき間違えて飲み込んでしまいそうになったから、怖がっているらしい。しっかりとした大人がわたしみたいに普通の女子高生に怯えていることが少し可哀想だけれど可愛らしくもあった。
「白石はどこにいるのかしら?」
手のひらの上でちょこちょこ動いている萩原先生が可愛くてつい鼻先を近づけてしまえば、先生の着ているレディーススーツの感触が鼻先に伝ってくる。それにびっくりして、萩原先生は尻餅をついてしまっていた。
「な、何のつもりよ」
「えへへ、先生が可愛かったので近づいちゃいましたぁ」
「春山さぁん、どういうつもりかなぁ?」
萩原先生を手に乗せていた東条さんが上から睨みつけてくる。思わず「ひっ」と声を出した。今度はわたしが怖がる番らしい。さすが元ヤン。かなり視線が鋭い。そんなわたしの様子を見て、後ろで詩葉先輩が手を叩いて爆笑していた。
「やっぱり月乃ちゃんって面白いわ。チビ人間の扱いが上手いね。今度一緒に外出許可もらおうよ」
「え、良いですけど……」
ちょっと揶揄っただけなんだけどな。あそこまで爆笑されるようなことをした覚えはないけれど、詩葉先輩に遊びに誘ってもらったのは素直に嬉しい。
でも、さすがに先生のことをチビ人間なんて扱いするのは良くない気もするけど……。詩葉先輩の中ではあくまでもわたしたちが普通サイズで他の大多数の人間が小さいという認識らしい。ちょっと歪んでるよね。
そんなウキウキなわたしに、萩原先生が少し苛立ったように声をかける。
「今授業中よ。遊びの話はあとにしなさい。あと、白石のことさっさと呼んできなさい」
「はーい」
仕方がないからわたしは小鈴ちゃんを呼びに部屋に戻る。
小鈴ちゃんはいるのだろうか。まだグラウンドにいたり、どこか学校外にいたら呼びに行くの大変そうだな。そんなことを思って教室の横にあるわたしたちの寮の部屋に行くと、ちゃんと人影があった。わたしよりも少しだけ小さな子は間違いなく小鈴ちゃんだった。何やら椅子に座って、机の上をジッと見ながらひとりごとを言っている。
(大丈夫かな……?)
何か悩みでもあったら聞いてあげようかな、と思いながら声をかける。
「小鈴ちゃーん」
呑気に声を出した瞬間に小鈴ちゃんは引き出しに何かを慌てていれていた。何か詮索されたら困るようなものでも見ていたのだろうか。空気の読めるわたしは小鈴ちゃんが何を隠したかは聞かないようにした。
「もう休み時間終わってるのに、何してるの? 授業始まってるよ」
「ごめんなさい、すぐに行くわ……」
少し緊張気味にあわただしく席を立つ。なんとなく様子がおかしく思えた。まるで悪いことしたのを隠している子どもみたい。いや、小鈴ちゃんが悪いことなんてするはずないんだけどさ。
素直に立ち上がってついて来てくれるけれど、どこか上の空みたい。
「何かあったの?」
「何も無かったわよ」
それだけで会話は終わる。30倍サイズの建物を作るための土地に余裕は無いから、できるだけ省スペース化されている。おかげで、寮の部屋と教室は隣り合わせになっていて、移動時間にゆっくり話すことはできなかった。
小鈴ちゃんのことが心配になりながら、授業を受けるのだった。この授業では、萩原先生は教卓から拡声器を使って、少し離れた場所から声を出していた。午前中に危うく食べてしまいそうになったせいで、わたしたちに近づくのが怖いのかもしれない。
ホワイトボードにモニターを写して、板書を見せる。30倍サイズの少女向けの教室では小さな萩原先生には板書することはできないらしい。こっちには注意は向いてなさそう。わたしはノートに小鈴ちゃん向けに文字を書いて机越しに見せる。
『なんだか上の空だけど、大丈夫?』
そっと小鈴ちゃんの方に見せたら、小鈴ちゃんが慌てて姿勢を正してから、ノートに書き返してくる。
『別に普通』
ほんとに普通かな。わたしは真横から小鈴ちゃんの顔をジッと覗き込む。
相変わらずの澄んだかわいい子。小鈴ちゃんが普通サイズだったころにアイドルオーディションに受かった話を一切疑うことなく信じられる容姿である。物憂げにぼんやりとしている様子は、まるでカメラでも通してドラマのワンシーンを見ているみたい。そんなわたしの様子に小鈴ちゃんが気付く。
「ねえ、なんでこっち見てるわけ?」
「小鈴ちゃんってかわいいよね」
「か、かわいっ、え? だから見てるわけ」
「そういうわけじゃないよ。ぼんやりしてる小鈴ちゃんが心配で見てたらやっぱり可愛いなって思っただけ」
ちょっとがっかりしてから、プイッとわたしと逆方向に顔を向ける。
「か、かわいくないから!」
そんな反応も可愛くて、やっぱり見惚れてしまっていた。
そんなことを考えながら、また小鈴ちゃんの方を見ていたら、「春山ぁ!!」と拡声器越しの小さな叫び声が聞こえた。
「ちゃんと授業聞きなさい!」
「はーい」
萩原先生に注意されてしまったから、これ以上は小鈴ちゃんから聞き出すこともできなくなってしまった。結局どんな気持ちを抱えているのか全然わからないままこの日は授業が終わってしまったのだった。




