30倍サイズの生徒の担任は危険だらけみたい 1
入学式の日から数日経って、いよいよ新学期になり、授業が始まった。それまでの期間は原則巨大少女用の建物からは、運動場以外に外には出られなかったので、部屋に篭って小鈴ちゃんといろいろなことをお話していた。
小鈴ちゃんの推しのアイドルの話とか、巨大少女になる前は男子から告白をたくさんされたけれど恋愛に興味が無かったから拒んでいたこととか、休みの日は料理を作ることが好きだったこととか、いろいろなことを聞くことができた。小鈴ちゃんの話は多岐に渡って面白かったけれど、わたしの方はあまり面白い話はできなかったかもしれないから、少し申し訳なかった。
台風の日に人を運んだ話とか、タイヤがパンクした車を近くの修理のお店に届けたこととか、コンビニに怪しい人が入って行ったのを上から見ていたから、思いっきり屋根を踏み抜いて強盗を追い払った話とか、そのくらいしか話すことはなかった。けれど、その度に小鈴ちゃんが大きなリアクションをして驚いてくれていたのが楽しかった。小鈴ちゃんは感情豊かで、喋っていて楽しい子だな、と思った。それに、いろいろ話した結果、小鈴ちゃんがわたしに抱いていたサディスティックなサイコパスという謎のイメージがちょっとだけ薄れてくれたみたいで良かった。
それはさておき、今日から新学期の授業が始まるから、わたしは小鈴ちゃんと一緒に教室まで歩いた。まあ、教室はわたしたちの生活している部屋と隣接しているから、わざわざ一緒にいく必要もなさそうだけれど。小鈴ちゃんが緊張するからと言って、わたしと一緒に行きたがったのだった。小鈴ちゃんはわたしの後ろに隠れるようにしながら、恐る恐る一緒に教室に入った。中には先に詩葉先輩とお姫ちゃん先輩が先に入っていて、わたしたちは一番最後になっちゃったみたいだ。
「おはよー」と詩葉先輩が萌え袖にしている右手を軽くあげて、声をかけてくれる。対してお姫ちゃん先輩は机に突っ伏して眠っていて、わたしたちが入ったのに気づいていないみたい。お姫ちゃん先輩はいっつも寝ている気がする。
教室には座席は全部で6つ、前後2列にそれぞれ3つずつ座席が配置してある。さすがに学年ごとに部屋を分けるほどの土地はないみたいで、1年〜3年まで全員同じ場所で授業を受けるみたい。2年の詩葉先輩も、3年のお姫ちゃん先輩も、同じ教室に入っていた。
使用する椅子と机は、普通の学校で使っているようなものをそのまま縦横高さを30倍のサイズにしたものだから、座り心地は悪くなかった。後列の窓際には詩葉先輩が座っていて、一つ開けて、後列廊下側がお姫ちゃん先輩の席みたい。前列の窓際がわたしで、その横、前列中央に小鈴ちゃんは座った。前列中央なんて一番外れ席だから廊下側にしたらいいのに、とは伝えたのだけれど、小鈴ちゃんはわたしの横に座っていないと、いつ何をしでかすか不安だから、と答えていた。小鈴ちゃんの中のわたし、やっぱり危険人物みたいで少し心外だな。
そんな感じで席を決めてから、少し時間が経って始業の時間になり、授業が始まる。学年ごとに1人先生が教えてくれるみたい。1年生であるわたしと小鈴ちゃんは机をくっつけて、机の上には親指サイズの、担任の萩原先生が乗っていた。机の上に乗っているからか、萩原先生は靴は脱いで、ストッキングのみを履いていた。
わたしは小鈴ちゃんと一緒に、大きな瞳で先生を見つめながら言う。
「1限目は萩原先生なんですね」
「そうよ。英語の授業だもの」
詩葉先輩やお姫ちゃん先輩の机の上にはそれぞれ画面が映っていて、リモート授業みたいになっていた。
「あの2人のところには直接先生は来ないんですね?」
わたしが尋ねると、萩原先生がため息をつく。
「一般生徒用の校舎の先生に来てもらおうと思ったら、ここから移動でどのくらいかかると思ってるのよ……」
「どのくらいも何も、小さな山を超えて50m歩くだけじゃないですか? 疲れてて移動がゆっくりになってるかもだから、かなり長めに見積もって5分くらいですか? 一般生徒用の運動場は数歩で横断できるから時間はかからないし」
わたしが答えると、今度は小鈴ちゃんがため息をついた。
「ねえ、月乃ってやっぱり天然よね……」
「そうね」と萩原先生も同意したからわたしは首を傾げた。
「巨大少女用の運動場は1.5キロの距離があるのよ? あなたが小さな山って言った一般生徒用校舎と巨大少女用校舎を隔てる山だってほんとは標高100メートル近い山だし……」
「100メートルの山登って降りて、1.5キロも歩くって、ちょっとしたハイキングみたいなこと、休み時間の10分の間だけではできないでしょ?」
「なるほど……」
冷静に言われたら当然わかるんだけど、パッとはわかりづらい。わたしにとってはどう見てもちょっと歩けば辿り着ける距離だから、その距離がちょっとしたハイキング感覚っていうのは、やっぱりわかりにくいよね。なんだかどんどん巨大少女用の感覚が身についてきてしまっていて、少し困惑してしまうのだった。




