ビルみたいに大きなアイドルなんて見たことないでしょ? 6
「ね、ねえ、小鈴ちゃん……」
「どうしたのよ?」
「小鈴ちゃんって、結構天然だったりする?」
「何の話よ?」
「いや、だって……」
もう一度インスタの画面に目を落として、小鈴ちゃんが返しているコメントを見た。
『友達は巨人だけど、わたしは146センチですよ! 遠近法です(>_<)』
うん、やっぱりマズイよ。わたしたち、遠近法とか絶対無理なくらい近くで撮っちゃってるし……。
「なんでわたしが大きいのは認めちゃったの……?」
「だ、だって、月乃は実際に大きいじゃない。だから、嘘ついたらバレちゃうかもしれないと思って……。わたしだけでも大きくないって言っておいたら誤魔化せるかなって……」
「さすがに頬をくっつけて写して、遠近法は無理があると思う……」
ピッタリとくっついた頬は、ちゃんとお互いの力が加わっている分だけむにゅりと凹んでいる。誤魔化したところで、実際に同じくらいの女の子たちがくっついているのは一瞬でわかってしまう。
「……どうしよ。月乃、助けて……」
小鈴ちゃんがわたしのことを上目遣いで見つめてくる。この角度の涙目の小鈴ちゃん、小動物みたいで、か弱い雰囲気出しまくってて可愛すぎるから、なんとか力になってあげないといけない使命感みたいなのが出てきちゃうんだよね。まあ、実際の小鈴ちゃんは小動物どころか象を猫くらいのサイズ感で持ち上げてしまえる大きさの女の子ではあるけれど。
「わかった。任せて」
わたしも自分のスマホを触って、インスタに書き込みをする。
「え? 何しるのよ……?」
「わたしも誤魔化すの協力するよ」
「変なこと書き込まないでよ……?」
小鈴ちゃんは不安そうな声で言っていた。わたしが書き終わると、大慌てでスマホの画面を見つめていた。
「一体何書いたって言うのよ……」
小鈴ちゃんはジッととスマホを見つめた。
『たしかにわたし180センチくらいあるから、小鈴ちゃんと比べたら巨人だね笑』
大きいの意味をビルサイズから高身長という意味に読み取れるような文章に変えておいた。
「……月乃は普通サイズに換算しても160センチくらいじゃないの?」
確かにわたしは大きくなる前の身長は160センチだった。
「160センチじゃデカいとは言えないじゃん。だから、ちょっとだけサバ読んでおいた。20センチくらいなら全然わからないだろうし」
わたしは親指と人差し指の間に、ほとんど見えないくらいちょっとだけ隙間を作って小鈴ちゃんの目の前に近づける。わたしたちにとっての20センチなんて、肉眼ではほとんどわからないくらいの誤差だ。だから、身長180センチも160センチも140センチもほとんど同じ。サバを読んだってバレない、と思っている。
「ああ、そっか……。ありがと」
わたしの言葉に小鈴ちゃんも違和感を持つことなく納得してくれた。本当は普通サイズの人たちにとっては180センチの女性と146センチの女性が横に並んだ身長差ではないことなんて一瞬でわかるのだけれど、残念ながら今のわたしたちにとって、15センチ差も35センチ差も誤差にすらないくらいの微差なのである。
わたしたちは身長差数メートルみたいな世界で生きているから、数十センチの差に対しては麻痺してしまう傾向にある。実際、お姫ちゃん先輩と小鈴ちゃんなんて、身長7メートル以上の差があるわけだし。
わたしも小鈴ちゃんも一般人の身長に関しての認識を誤解していたものの、コメント欄はわたしのコメントのおかげで良い方向に向いていた。
『お友達、絶対180は無くて草。でも、2人とも可愛いからオッケーです』
『巨人(小鈴ちゃん比)』
『身長とか関係なく可愛い! わたしも小柄だから、小鈴ちゃんみたいに可愛くなりたい!』
そんな様子を見て、小鈴ちゃんがホッと息を吐いた。
「とりあえず、一件落着ね……。ありがと」
小鈴ちゃんが嬉しそうに笑ってくれたから、わたしも嬉しくなる。
「どういたしましてー」と呑気に笑っておいた。自分のプロフィール欄に『身長48メートルのちょっと大きめサイズの高校生です!』と書いていたことなんてすっかり忘れて、わたしも小鈴ちゃんも、呑気に眠る準備を始めていたのだった。




