ビルみたいに大きなアイドルなんて見たことないでしょ? 3
「でも、小鈴ちゃんのSNS人気あるんだね」
ここに来るまではほとんど引きこもってたって言ってたのに、フォロワー数1万人超えてるなんて、普通にすごい。しかも、パッと見たところ明らかに異質な背景ばっかりなのに。
「ねえ、これ全部背景真っ白だけど、なんで?」
わたしが尋ねると、小鈴ちゃんはムッとしたように言う。
「壁を背景にしておかないと、もし普通サイズのものが映り込んじゃったら、わたしが大きいってバレちゃうでしょ?」
なるほど、さすが小鈴ちゃん。自分の大きさがバレないように徹底的に努力しているらしい。
「でも、背景白でまったく映えてないのに、すごいね」
背景も食べ物も使わずにただ小鈴ちゃんの可愛さだけで1万人超えてるということだろうか。それってめちゃくちゃすごい気がする。
「全然凄くないから。SAKIさんはその何十倍もフォロワーいるし」
「あの人はまた別格な気もするけど……」
お姫ちゃん先輩はすでに有名なモデルさんらしいし、それにかなり上手に背景の合成をしているから、映え写真をアップしやすくて、伸びやすくもあるのだと思う。
「お姫ちゃん先輩に合成の作り方聞いたら?」
「今度そうする……。でも推しのSAKIさんに直接レクチャー受けるなんてことになったら、緊張で倒れちゃうかもしれないわ」
小鈴ちゃんは、うっとりしながら宙を眺めていた。
そんな小鈴ちゃんを見てから、またインスタをぼんやり眺めて過去に遡っていると、更新していた初めの方に動画がいくつもあった。背景も真っ白じゃなくて自然な部屋の中だったり、公園だったりするから、この辺は大きくなる前に撮ったものなのかもしれない。
「動画も撮ってたんだね」
「あ、それは……」
何気なく再生したら、まだ中学に入学したくらいの小鈴ちゃんが可愛らしい音楽で踊っている動画が流れ始めた。
「可愛いし、ダンス上手だね。ずっと見てたいかも」
小さくて可愛らしい小鈴ちゃんが、可愛らしいアイドルソングに合わせて踊っている様子は天使みたいに可愛らしかった。
わたしが褒めたら、小鈴ちゃんはバツが悪そうに投げやりに呟く。
「全然上手くないし」
「そんなことないよー。すごいと思う」
わたしは呑気に、順番に小鈴ちゃんの動画を再生していく。
「やっぱりうまいよね」
そう言って、また再生する。どの小鈴ちゃんもとても可愛らしかった。動画に夢中で、小鈴ちゃんのことを見るのを忘れていた。だから、感情の変化にも気づけなかったみたい。楽しく見ていたのに、突如小鈴ちゃんが大きな声を出した。
「やめてよ!!」
「え?」
小鈴ちゃんが、わたしのスマホを取り上げてしまった。
「何すんのさ」
「昔の動画、嫌いなのよ……」
小鈴ちゃんは胸元でギュッとスマホを抱きしめている。音楽だけが、小鈴ちゃんの胸元から聞こえていた。大きくなる前によく街中で聞いた流行りのアイドルの曲が小鈴ちゃんの心臓の辺りから流れ続けていた。
「可愛いのに……」
「そう、可愛いの。だから、嫌なのよ……」
「どういうこと?」
「昔のわたしは小さくて可愛かったのに、今のわたしはこんなんだから、虚しくなるじゃない……」
小鈴ちゃんは大きなため息をついた。もし小鈴ちゃんの吐き出した先に人がいたら、吹き飛ばされて大怪我をしちゃうんじゃないかっていうくらいの大きなため息だった。
「こんなんって、今も昔も変わらず可愛いよ。むしろ、今の方がちょっと大きくてカッコ可愛くてなってて魅力的な気がするし!」
「月乃ってサディスティックなのか、優しいのかよくわからないわよね……」
「本心に従って生きてるだけだよ」
「そういうところはありがたいけど……」
そう言って、小鈴ちゃんはまたため息をついてから、遠い目をしてぼんやりと宙を見つめていた。
「わたし、大きくなる前はアイドル志望だったのよ……」
「アイドル?」
「そう。……ブルーベリーティアラっていうグループ、知らないかしら?」
わたしが首を振ると、小鈴ちゃんは自分のスマホで検索を始めた。
「あ、あったわ。これ」
差し出してくるスマホのウェブ画面には、五人組のアイドルが映っていた。フリルのあしらわれた衣装は可愛らしくて、小鈴ちゃんにも似合いそうだった。でも、残念ながらその可愛らしい衣装を着た5人組の中に小鈴ちゃんはいなかった。




