ビルみたいに大きなアイドルなんて見たことないでしょ? 1
「良かったね、学校すっごく楽しそうだった」
その日の午後、部屋に戻って2人になってから、小鈴ちゃんに話しかけると、小鈴ちゃんも小さく頷いてくれた。
「わたし、ここならなんだか普通の子みたいだった……」
「小鈴ちゃんは普通の子でしょ?」
そう答えると、わたしのほうに思いっきり近づいてきた。
「身長43メートルの女子のどこが普通なのよ!」
「そんなこといったら、わたし48メートルもあって、小鈴ちゃんより背高いよ! わたしも凄い子じゃん!」
ちょっとドヤ顔で言ってみたら、小鈴ちゃんがため息をついた。
「あんたのそのポジティブシンキングにも、きっとそのうち慣れるのよね」
「小鈴ちゃんもポジティブにいこうよ!」
「はいはい。でも、わたしが月乃みたいになったら、貴重な常識人のSAKIさんが不憫だから、適度なポジティブシンキングしかしないわよ」
「まるでわたしが非常識みたいな言い方……」
わたしが頬を膨らませると、小鈴ちゃんが「まるで常識人みたいな言い方」と揶揄ってくる。
「じゃあ、やっぱり非常識なんじゃん!」
わたしがギュッと小鈴ちゃんに抱きつくと、「やめてよー」と小鈴ちゃんが笑っていた。2人で戯れているだけなのだけれど、小鈴ちゃんはなんだかとっても嬉しそうだった。
「ねえ、わたしたち、ここならこんなこともできるのね!」
「どういうこと?」
「だって、街中でやったら大惨事よ? いくつも建物壊しちゃうし、ちょっと当たっただけでビルだって崩れちゃうかもだし、下手したら大事件になっちゃうかもしれないのよ。でも、ここならちょっとはしゃいだくらいなら、どうってことないなんて、楽しすぎるわね」
小鈴ちゃんが大きな口を開けて笑い出した。
「小鈴ちゃんが楽しんでくれてるみたいでよかったよ」とわたしは話を合わせておいた。
「ね、月乃。一緒に写真撮りましょうよ」
「写真?」
「そう。わたし、今まで一人でしか撮ってことないから!」
そういえば、大きくなってからは一度も写真は撮ったことがなかった気がする。そもそも、特に撮る必要性も感じられなかったから。
「わたしは構わんよー」と呑気に答えておいた。
わたしは小鈴ちゃんの横でピースをする。子どもみたいに胸も前でやる一番正統派のピース。インカメの中にわたしと小鈴ちゃんが収まっているけれど、小鈴ちゃんの顔が強張っていた。わたしの準備はできたけれど、小鈴ちゃんの手が震えて、うまく撮れないみたい。
「どうしたの? なんか震えてるけど。腕痛いの?」
「ち、違うのよ。わたし、この大きさになってから、友達と一緒に写真撮るの初めてだから、なんか緊張しちゃって……」
「なるほど」
わたしは頷いてから、小鈴ちゃんの首元に手を回して、ギュッと抱きついて、頬をくっつける。
「小鈴ちゃんの頬っぺた、柔らかいね」
「な、な、何のつもりよ!」
「緊張ほぐそうと思って」
「余計緊張するじゃないのよ!」
そう言って、小鈴ちゃんは急いで写真を撮ってしまった。
「はい、撮り終わったから、さっさと離れなさいよ」
小鈴ちゃんはわたしの体を無理やり引き離した。小鈴ちゃんの体を抱きしめるの気持ち良いから、もうちょっとくっついていたかったのに。




