48メートルのギャルと50メートルのお姫様 3
「もうっ、白石さん全然教えてくれないんだね」
詩葉先輩がムッと頬を膨らませながら、小鈴ちゃんから体を離した。
「仕方ない、小鈴ちゃんのこといっぱいジロジロ見つめて、勝手にどんな子か探ることにするよ」
「……恥ずかしいから嫌なんですけど」
小鈴ちゃんが嫌そうに答えた。
そんな2人のやり取りを微笑ましく見物しつつも、先ほどから詩葉先輩の言っているお姫ちゃん先輩という人にまだ会っていないのが気になった。どんな子なのか会ってみたかった。
「あの、お姫ちゃん先輩って誰なんですか?」
「あたしの他に巨大少女があと1人いるんだよね。まだ寝てると思うから、部屋に見に行こっか」
そう言って、詩葉先輩が手招きしてわたしたちについてくるように指示する。
「まだ入学式のホームルーム終わってないわよ!」と萩原先生が呼んでいた。
「じゃあ、ひーちゃん先生も行こうよ。お姫ちゃんの部屋で続きやったら、実質入学式みたいなもんでしょ」
そう言って詩葉先輩は萩原先生が答える前に胴を摘んで、長袖シャツの胸ポケットの中に入れてしまった。
詩葉先輩は巨大少女であるということを抜きにして、わたしたちと比較しても一際目を引く大きな胸をしている。そんな胸がギュッとシャツを引っ張ってピッチリとさせていたから、萩原先生の入れられた場所は、萩原先生のシルエットがくっきり浮かんでいて、どこにいるのかが外からでもわかった。
「ちょっと苦しそうですね……」
小鈴ちゃんが困ったように見つめていた。
「出してあげたほうが良いんじゃないですか?」
「落としたら大変だし、この方が安全でしょ?」
「そうですかね……」
小鈴ちゃんは心配そうに見つめているけれど、わたしはちょっと面白そうだな、と思ってしまった。
「わたしが押したらもっと苦しくなっちゃうかな」
シャツの上から萩原先生のいる場所を軽く押さえてみると、「ギャッ」と悲鳴が聞こえた。わたしが加えた力の分だけ詩葉先輩の胸が柔らかく凹み、そこに萩原先生が押さえ込まれる。
「さすがに先生相手に意地悪するのはやめときなよ……」と呆れたように小鈴ちゃんが注意をする。
「ちょっと揶揄ってるだけだよ? 大人の人が指一本使って押さえるだけでジタバタしてるの見るの可愛いじゃん」
「月乃って天然なの? それとも意図的なの? 生まれながらのサディストとか?」
小鈴ちゃんが呆れたようにため息をついた。どういう意味だろう。先生を揶揄うのがちょっと楽しいだけなんだけどな。
呆れる小鈴ちゃんとは違って、詩葉先輩はどこか満足気だった。
「月乃ちゃんとは気が合いそうだなぁ」と詩葉先輩が楽しそうに笑ってから続ける。
「でも、萩原先生だけは意地悪するのやめておいた方が賢明だよ。怖い鬼のボディガードがいるから」
そう言われたくらいのタイミングで、殺気を感じた。
「意地悪したらダメだよぉ」
後ろから東條さんがわたしの手首を掴んだ。穏やかな口調だけど、握る手に力が入ってるから結構怒ってそう。
「す、すいません……」
「わかれば良いけどぉ。ひおりちゃん先生のこと揶揄って良いのはわたしだけだからねぇ」
東條さんの言葉を聞いて、詩葉先輩の胸ポケットから「東條もダメだからね!」と萩原先生の声が聞こえた。わたしだけ注意されたけれど、そもそも詩葉先輩が圧迫感のすごい胸ポケットの中に入れているのも意地悪な気がする……。
みんなのやり取りを聞いて、小鈴ちゃんが呆れたようにため息をついた。
「早くお姫ちゃん先輩という人の部屋に行きましょうよ……」
それを聞いて、仕切り直すみたいに詩葉先輩が声を出す。
「それもそうだね。じゃ、お姫ちゃん先輩の部屋での出張入学式をしに行こうか!」
わたしたちは詩葉先輩についていくように、お姫ちゃん先輩という人の部屋へと向かったのだった。




