48メートルのギャルと50メートルのお姫様 2
「じゃ、とりあえずあたしから! あたしは櫻井詩葉。2年生。ちなみに紗羽先輩……、東條先輩はあたしの2つ上で、新入生ちゃんたちと入れ替わりに卒業したんだ。あたしがここに来てからは、穏やかなお嬢様だけれど、元々生粋の悪い子だったらしくて、小さな男子1000人と戦ってぶっ倒して鬼紗羽様って呼ばれてたみたいで、萩原先生も大変だったらしいよ。あのお姫ちゃん先輩ですら、紗羽先輩にはめっちゃビビってるし」
あのお姫ちゃん先輩が一体どのお姫ちゃん先輩なのかはわからないけれど、それよりも影を帯びた笑顔でニコリと詩葉先輩に微笑んでいる東條さんの姿は確かにちょっと威圧感があるかもしれない。
「詩葉ちゃぁん。わたしの紹介はいらないよぉ」
優しい微笑みなのに、今にも詩葉先輩の首を刈ってしまいそうな怖さがある。同じサイズ感でゆるふわの状態でもこれだけ怖いのだから、30分の1サイズから見上げる戦闘モードの東條さんは誇張表現抜きで鬼に見えたに違いない。
「否定しないのね……」と小鈴ちゃんがボソッと呟いた。つまり、さっきの東條さんのエピソードは事実らしい。1000人の男子、無事だったらいいけれど、と顔も知らない、殺気だった東條さんと戦わされた男子たちに同情してしまった。
「じゃ、あたしは自己紹介したし、お次はそこの可愛い新入生ちゃんズ、よろしく!」
小鈴ちゃんが躊躇していたから、まずはわたしから自己紹介をする。
「春山月乃です。好きな食べ物はマグロのお寿司です。上に刻んだマグロをたっぷり乗せるタイプじゃなくて、一匹丸ごと乗せるタイプがいいです」
「いいなー、あたしもマグロ好き! 食べたいなぁ。萩原先生奢ってよ」
「あんたね、巨大少女割無しでマグロ買ったらいくらかかると思ってるのよ。わたしの給料半年分くらいぶっ飛ぶわよ。奢ってもらうんなら、そこの鬼紗羽ちゃんに奢ってもらいなさい」
萩原先生が東條さんの方を指差した。
「ちょっと、妃織ちゃん先生、その呼び方禁止って言ってたじゃないですかぁ!」
東條さんが萩原先生の体をギュッと手のひらで押さえつけた。
「ちょ、ちょっとやめなさい!」
萩原先生が必死に手足をバタバタさせて抵抗しているけれど、まったく敵いそうにない。なんだかバタつかせている様子が可愛らしくてわたしもやってみたくなる。もちろん、先生にそんなことするつもりはないけれど。
「あんたね、一応元担任なんだから、もうちょっと丁寧に扱いなさいよね」
「妃織ちゃん先生が意地悪な呼び名で呼ぶからいけないんですよぉっ!」
東條さんが思いっきり頬を膨らませた。
「まあまあ、落ち着いてくださいって」と詩葉先輩が東條さんを宥めてから続ける。
「じゃ、次はもう一人の新入生ちゃんの自己紹介お願いしようかな」
「白石小鈴です。宜しくお願いします」
小鈴ちゃんはペコリと小さく頭を下げた。それで自分の順番は終わりとばかりに一歩後ろに下がる。
「自己紹介短くない? もっと小鈴ちゃんのこと教えてよ!」
詩葉先輩が詩織ちゃんのことを後ろからギュッと抱きしめて、体を密着させながら笑う。
「暑苦しいからやめてください!」
「塩対応だねぇ。何かもっと白石さんのこと教えてくれたら離してあげる」
「別に、面白いことなんて何もありませんから」
「じゃ、離さない!」
ギュッと、さらに詩葉先輩が小鈴ちゃんの体を抱きしめていた。
「ちょ、ちょっと、やめてくださいってば!!」
さっきまでわたしと一緒に巨大少女として一般生徒用の体育館の子を脅かしていた、強いはずの小鈴ちゃんが簡単に押さえつけられている様子がちょっと不思議だった。今の小鈴ちゃんは間違いなく小さくて可愛いマスコット枠になっている。わたしたちはこの校舎内では普通の高校生として振る舞えるのだと改めて実感する。だからなのだろうか、詩葉先輩に押さえつけられている小鈴ちゃんはちょっと嬉しそうだった。




