美しい世界-真実-
記憶とは都合の良いもの
様々とあるから分からないもの
だから不幸な出来事や不都合な事は自然と押しのけようとする
そんな中で完成されている記憶は──果たして記憶と呼べるのだろうか
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(……頭がショートしそうだ)
大袈裟な表現ではない。
実際に目の前の中年男性の方の話を聞き始めた自分の脳は急激な拒絶をするように熱を持ったように反応するのだった。
でも、聞くことは出来る。
なので──話を聞く中での情報を出来るだけかいつまむと……。
自分──いや、シエルは国を跨いで移動中だったらしい。
そこを例の化け物に襲われたらしい。
例の化け物って? ……その正体はファンタジーに付き物のモンスターに該当する中でも特別な存在にだった。
話を聞いてくる中で記憶が濁流の如く流れ込んでくる。
それは大きな何かで──自分を、母や父を含めて船員諸共襲ってきている光景が鮮明に思い出してくる。
ただ、あの化け物が自分と両親へと牙を向けようとした瞬間に二人は自分へと何かを施して護ってくれたのだろうか? 眩い光と白銀の鮮明な瞬間がついぞ先程あった事のように身体に心に記憶が駆け抜けて行く。
(『そうか──自分以外は生き残りは……』)
白い? 白銀色? の結界が自分の周囲へと張られていて、それが自分を護っていたのだろう。
化け物が執拗に自分へと攻撃を加える中で救助隊が……軍が駆けつけて命からがら何とか自分だけでも救い出して撤退したとの事だった。
そして何とか国内の守りが展開されているエリア内へと撤退した際に、自分を護っていた結界はその役目を果たしかのように消えてしまったらしい。
そして救い出された自分は昏睡状態に陥っており、この場所へと運び込まれて──一年経過して今、目覚めたとの事だった。
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父と母は学院関連の教授? だったらしい。
その恩恵もあって学院側にする付随する、この施設での早急な保護が出来たようだった。
尚もこちらの負担を見つつも優しく時に残酷に教えてくれる男性の話を聞きはしていく中で、最初はまるで自分の事では無いように感じた絵空事の様な出来事も呼び起こされる記憶とフラッシュバックする現実を受け止める中で、それらが全てが真実で自分の……シエルの身に起きた出来事なのだと身と心に染み渡って行くのだった。
(『確かに、これは生半可な……未熟な心だったら受け止め切れないだろう』)
そっと自分の手の平へと視線を落とすとまだまだ小さい手が視界を映す。
自分は──シエルは幼いのではないか? と考えていたけれども、実際にこうやって目にするとその幼さも身に染みてくる。
(『何よりも白い? 白銀の結界? 消えたとも言っていたな……』)
男性の話を思い起こしつつ整理する。
色々と多い情報だったが……心は夢? の中の精神年齢と見て良いのだろうか? 何とか整理する余裕はあるのは幸いだった。
(「シエル様……?」)
ナビだろう声が心配な声量を持って自分に話しかけてくる。
(『ナビ……色々と分からない事が多い』)
一人では流石に情報の整理の限界もあった。
ナビの問い掛けに合わせて自分の中での疑問も含めてナビに聞いてみる。
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(『ナビ……そもそも君はいったい何者なんだ?』)
自分の魔力回路と……やらの話は聞いた手前、言葉は理解出来ても内容は不明だ。
(「そう……ですね。ナビは──シエル様との契約によって生み出された存在です」)
(『契約……?』)
はい──。 とナビの声が続けて肯定の意を示す中で考える。
けれども、如何せん自分が契約とやらをした記憶が出てこない。
(『ナビ? 契約というのは、いつ果たされたんだ?』)
これも続いて出てきた純粋な疑問だった。
(「それは……シエル様のご両親がシエル様に契約の術式を施した時です」)
然もありなんといった様子でナビが答えたのを感じた。
それを受けつつ──先程の話を照らし合わせるに父と母が自分に結界魔法を施した時だろうと思案する。
(『そうか──あの結界の魔法の時か……』)
(「いいえ、シエル様違います。……あれはナビが咄嗟に発動したものです」)
あの時はナビ自身も自分を護るのに必死だったらしい。
そういう話を聞きつつ、自分の中では更に疑問が生まれていた。
(『ナビ、何度もごめん。けれども、契約? というのは何か供物? トリガーみたいなのが必要だったりしないのか?』)
そうだ、夢? の中での創作物だと定番のやつだ。
1を求めるのに0から生まれるものはない。
全ては等しく等価交換に近いものがあるはずだ。
(『そうですね……。これは私の生み出される前なので、憶測になるのですが……。シエル様のご両親は新しい魔術術式に関して国境を跨いで移動されていたとネットワークには記録が残っております。今現状の術式では到底──私みたいな存在は生み出す事は不可能だと推測出来ます。新体系の術式とあの場に発生していた環境下の異常な魔力……全てを捧げることによって私という、ナビという存在が生まれたのだと思います』)
ナビは出来る限り分かりやすくしようと話してくれたのだろう。
ギリギリ今の自分でも理解出来そうな範囲で内容が頭に入って来るのが分かる。
(『ナビ? その異常な魔力というのは……?』)
そして、一旦内容を精査して考えるとナビの言っていた異常な魔力というのが気になる。
この際だからナビが答えてくれる範囲ならば全てを聞こう。
(「シエル様……異常な魔力──詳細を話しても大丈夫でしょうか? 少し重たい話になると思います」)
少しだけ間を置いた後にナビが窺うように自分に問いかけて来る。
大丈夫、お願い──と伝えると一拍置いてナビは話し始める。
(『では、シエル様……。まずは魔力ですが、それはこの地上に生きるもの全ての環境に寄り添いあって在るものだと言われています。それは人も同じ、そして例の化け物──あれは禁忌指定を受けている白銀の龍と言われています。多くの失われた命の魔力、そして禁忌指定の白銀の龍の魔力……そして何よりもあの場には世界に幾つか観測されている不可思議の言葉をそのままにする──黒い渦があり、その魔力もありました』)
多くの失われた命──例の国境を渡る飛行船に乗っていた乗組員たちの姿が脳裏に浮かぶ。
白銀の龍──あれは、あの白銀の存在か。
黒い渦──確かにあった。 国境を越える際は必然的に通らなければ行けなく、何よりもその付近は白銀の龍の住処と言われていて最大の難所だったはずだ。
(「あの当時は私も生まれたばかりなのもあり、何も分かりませんでした。ただ、あれらの全てを糧にしつつ──ネットワークさえも取り込み必死にシエル様を護ろうと動きました。現状だと……もしかしたら、解析及び、理解も出来るかも知れませんが……」)
そっか……、ありがとう──それ以上続く言葉を自分は見つけることも出来ずにナビに言葉を返す。
ナビもそんな自分の心情を汲み取ってくれたのかは分からなかったけれども、それ以上追随してくることもなく会話は一旦終わりを迎えるのだった。
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「……シエルさん? 大丈夫、ですか?」
ナビとの会話が思いの外長かったのもあるのか、ふと前へと視線を転じれば──自分を心配そうに見守っている男性とナースさんが居た。
何とかぎこちなくも大丈夫です──と答えはしたけれども、上手く取り繕えたとは自分でも思えなかった。
それは向こうも分かったのだろう、話題の切り替えではないけれども今現在、自分の居る場所の話をしてくれた。
自分ことシエル、そんな自分が居る場所は──両親が懇意にしていた中年男性……ヒューズさんが勤める病院内であり、病院が存在する場所は旧世界では港区と言われていた場所、けれどもそのままのエリアを占めているのでミナト区と言われる場所だった。
良く話を聞くと、ここは医療系の学術機関の場所でもあるらしい。
ヒューズさんはれっきとした職員でもあり、ナースだと思われていた女性の方は実習生でもあるらしい。
とりあえず、その後は軽い診断を受けてはリハビリの許可が下りて、早速明日から少しずつ……まずは固形食を食べれるように──次は動けるようにと、ステップを踏まえながら頑張りましょうと話は進みつつこの世界に目覚めてからの時計の針が少しずつでも緩やかに確かに動き始めるのだった。
きっと、その一歩は何気ない一歩だったのかも知れない。
けれども確かに見た目は小さくても、事実としては大きな大切な一歩をシエルは踏み出したのだった。
※モンスター: ある日を境に何処からか現れた存在。
※シエルの両親: 名のある教員だった。主に魔術体系の理論や術式に強かった。新たな新体系の術式の話があり、国境を越えて外国に向かった後の帰りにて例の存在に襲われる。
※一年の経過: シエルが運ばれてからの年数経過、夢の世界では何十年も経過していたようだが?
※結界: 白とも白銀とも──けどよく見れば様々な色があるのに気付くはず、それはナビが周囲の環境を必死に取り込んで形成したオリジナルの防壁。
※シエルは幼い: 夢の世界では成長しきっていたがそれは精神の模様、実際の身体の成長はまだ幼い。
※契約: 今後語られるであろう、魔法の1つの形体。但し、シエルの場合はイレギュラーの特別仕様。
※例の化け物=白銀の龍: 世界で観測されたのはいつからだろうか、人の身では討伐は不可能と言われている巨大な白銀の龍、それは余りにも強大で禁忌指定にされる程。
※黒い渦: 世界で観測されている黒い渦、禍々しい黒。それはどこに繋がっているのかは不明で、観測の出来ない魔力、理解の及ぶことのない禍々しい何かを垂れ流している……とも言われているが、近づくことさえ出来なく、人にはまだ遠い存在。
※病院: ミナト区エリアに存在する、医療機関にも登録されている病院。ヒューズさんが勤めている。
※旧世界: ある日を境に魔力の存在しない世界を旧世界、存在する世界を新世界と呼ぶようになっている
※区: 旧世界は23区と言われていたが、新世界では人の住む領域の規模で様変わりしている模様。




