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3.天使、復活する


 病院の手術室を、ミカは浮かんだ状態で上から眺めています。ひんやりと感じさせる照明の中、手術台の上に仰向けにされているミカの体が見えます。執刀医の先生。助手の先生が二人。麻酔医の先生。看護師さんたちとその他の手術スタッフの人たち。

 モニター類や機器類。チューブやケーブル。人工心肺装置も用意され、臨床工学技士が急いで調整をしています。

 先生方は、執刀前の処置をしながら慌ただしく話をされています。声は聞こえませんが、切迫した話の内容は伝わってきます。事態が深刻ということは、医学部3年生とはいえミカにも理解できます。


「わたし、死ぬのかな...」

 横向けに浮かんだままでミカは思いました。さっきまでの痛みはまったく感じません。

 次の瞬間、ミカの体は大きな力で上へと引き上げられました。手足を動かそうとしてもまったく動きません。病院の建物の上から見る見るうちに中空を上昇し、天歌市、T県、日本列島、アジア、やがて地球の輪郭がわかるくらいに高いところにきました。

 濃紺色の空間の中に大きく浮かんだ青い地球。その周囲には星たちが光っています。

 どこかで見たような物体の集まりがミカの横に現れました。羽のようなものが両側に広がり、中心部分にいくつもの宇宙船のようなものがつながった状態で浮かんでいます。

「これって、ひょっとして...国際宇宙ステーションかしら」


 次の瞬間、ミカのまわりに見えていた風景は一気に消えました。ミカは再び意識を失ったのです。


 意識が戻ったとき、ミカは立った状態で、光の粒とも、もやとも思えるようなものに包まれていました。体を動かすことはできないまま、ミカは「死後の世界に来たのだろうか」と思っていました。


 やがて光の粒の中から、白い衣装を纏った年長の男性を思わせる二人が現れました。背中の肩甲骨のあたりから羽根が両側に生えています。

「本物の天使だ」とミカは思いました。

 向かって左側、より高貴なオーラを放つ天使がミカの前へ進んできました。

「我々は以前に、そなたと会っている。もちろんそなたの記憶にはないはずだが」

 ミカには、なぜかその方が大天使様であることがわかりました。

「そなたの命を弄ぶようなことになって誠に申し訳ない。ただ断っておくが、今回の病は我々が仕組んだことではない」

「なんだろう。よくわからないのにわかるような気がする」とミカは思いました。

「仏教徒であるそなたに、こちらに来てもらったのは、他でもない。そなたの中に眠った状態で宿っている天使を、分離して復活させるためなのだ」

 そういうと大天使様は、右手をミカのおでこの上に掲げました。


 ミカの背中の肩甲骨のあたりがムズムズしました。ふだんよりもずっと強く。そしていつのまにか天使の羽根が生えていました。

 次の瞬間、ミカの輪郭が二重になったように思うと、一人の天使がミカから離れ、横に移動するとミカの右横に立ちました。

「見習い天使、天使番号MKLB412965号」ともう一人の天使が呼びかけました。

「指導天使様」

 ミカから分離した見習い天使が答えました。

 大天使様が見習い天使に告げました。

「そなたに対して下された懲罰は、遡って効力を失った。引き続き指導天使のもとで見習い天使としての修業に励むように」

「はっ。かしこまりました」

 見習い天使は膝をついて大天使様に一礼しました。


 大天使様が、ミカのほうを向き仰いました。

「そなたには誠に手間をかけた。あとはそなたの宗派の流儀で事が運ぶであろう。さあ、行くがよい」

 ミカの姿が徐々に薄くなって、消えました。


「大天使様」と見習い天使。

「森宮美香はこのまま死ぬのですか」

「そなたの意思は、あの者を生かすことであったな」と指導天使様。

「お察しの通り」

「今回、あの者が死に伴う霊的状態となったことは、我々が仕組んだことではない」と大天使様。

「そなたを復活させるために、この機会を利用しただけだ」

「では、森宮美香は?」

「心配するな。仏教の然るべき筋に、根回しをしてある」


 大天使様はケータイを取り出してメールを打ちました。

「そちらへ向かった。よろしく」

 すぐに返信がきました。

「委細承知」

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