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1.大天使様と監察報告書


 ここは天界のとある場所。二人の天使が話をしています。


「いささか困ったことになったのだ」と仰ったのは大天使様。天使たちの中でも最高位の方です。

「監察天使の件でしょうか」と、もう一人の天使。長老の一人で、天使になりたての見習い天使たちを指導するお役目から「指導天使様」と呼ばれています。

「さよう。そなたが指導していた見習い天使、天使番号MKLB412965号に対して行った一連の懲罰について、撤回するのが相当である、との監察報告書を持って参った」

「畏れ多くも大天使様の下した裁定に、監察天使ごときが異を唱えるというのですか」と憤慨気味に指導天使様。

「最近は天界の組織にも、コンプライアンス、とやら、アカウンタビリティ...とやらいうのだそうだが、そういうものが求められるようになっておる。大天使といえども、監察組織が指摘した事柄について、無下にするわけにはいかぬのだ」

 そう仰られると、大天使様は「ふう」とため息をつかれました。


「では、どうなさるのですか」と指導天使様。

「かの者は、自らの意思で森宮美香の中に留まることを望み、そのようになったのだな」

「仰せのとおりです。本来なら、あの者は天使に戻る条件を満たしておりました」

「天使として復活させねばならぬ」

 大天使様は厳かに仰いました。

 それに応えて指導天使様が仰いました。

「では、そうすべきであったように、森宮美香の存在を11歳の事故の時点にさかのぼって、消滅させるということになるのでしょうか」


 天使番号MKLB412965号は、起こした不始末に対する懲罰として人間の中に宿ることになりました。その宿り主として選ばれたのが、高校生の森宮もりみや 美香みか。彼女は11歳のときに自動車事故で死亡していたのですが、宿り主とするべく高校2年の8月時点からさかのぼって復活させられたのです。

 宿り主の1年間の行状によって、天使に戻れるか、天使としての意識が消えてそのままその人間の中に留まるか、決まることになっていました。宿り主たる森宮美香の高校2年の8月から翌年の8月までの行状は、天使番号MKLB412965号が天使に戻る条件を満たしていたように思われました。しかし、自分が天使に戻ると、森宮美香の存在が11歳の時点にさかのぼって消滅することを聞かされ、「条件を満たしていない」と自ら主張し彼女の中に留まったのでした。


 大天使様は、ご自身に言い聞かせるように仰いました。

「森宮美香の存在を消滅させるのは、かの者の意思に反することになる。そのうえ報告書の指摘事項に『天使側の都合で人間の命を弄ぶごとき処置は慎むべきである』とも記されておる」

「では、そのときが来るのを待つしかない、ということですな」

「さよう。森宮美香が死を迎え、霊的存在となるまで、ということだ」

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