ごっこ遊び
雨が降る日はおうちの中で、地球滅亡ごっこをする。
空から波が打ち寄せるみたいに、雨粒が屋根をたたいている。教会音楽の通低音のような雨の音。ときどき遠くから聞こえるのは雷の音。
電灯の消えたうすぐらい部屋の中で、毛布にくるまって眼を閉じる。
おうちは結界。雨も病魔も電波も毒も、けっして入り込ませない。窓という窓には目張りをしてあるし、アルミホイルだって壁一面に貼ってある。
ミネラルウォーターのペットボトルと、栄養補給食の備蓄もある。
ここは安全。ここだけが安全。
悪い宇宙人がいっぱいやってきて地球人を狙っている。あるいはゾンビが蔓延している。もしかしたら悪霊。何でもいい。私は最後の生き残りで、ここに立てこもって息をひそめている。お外には敵がいっぱい。そう想像するとわくわくしてくる。
もしかして、おうちの中にあるものをうまく組み合わせたら、あいつらを撃退できるんじゃないかな? なんて想像もする。たとえば台所の大きなナイフ。倉庫にしまってあるはずのチェーンソー。着火剤と新聞紙と食用油。ほかには何があっただろう?
私は、おなべのふたを頭に被って、身体に段ボールを巻きつけて、あいつらと最期の戦いをするべく、勇気を出して外に踏み出すんだ。
なんて素敵な想像なんだろう。
そんな世界だったら、どんなによかっただろう。
雨の音が少しずつ弱まってきた。
強い酸の雨をあまり浴びると、この建物だっていつ倒壊するかわからないんだし、晴れていた方がいいに決まっているんだけど、やっぱり私は雨が好き。
雨が降っている間は、世界に音があるんだもの。
私は窓の隙間から少しだけ外を覗いた。
どこまでもずっと続く、徹底的な廃墟。
いきものの一匹もいない、完璧な荒野だ。私はため息をつく。雨が降っている間だけは、この現実を忘れることができるのに。もう世界なんて本当に滅亡し尽しているという現実。このおうち以外に、地球に残されたものなんて何もないという現実。
ああ、宇宙人でもゾンビでもいい。この静寂を切り裂いて、何かが突然現れてくれるのなら、私は喜んでそいつらの前にこの身を投げ出すのに。大嫌いだった隣人でもいい。敵国の軍人でもいい。私を殺すつもりでかまわない。何でもいい、自分ではないなにかともう一度逢いたい。
望みはかなうはずもなく、雨はやんで、地球滅亡ごっこはおしまい。
これからはまた、本当の滅亡。
ただひたすらに静かな、世界の黄昏。