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割り込み小話 「商人」

 大貴族ガノン。


 地球時代の名は捨てた。

 地球では冤罪で実質死刑と呼ばれた囚人惑星である火星送りにされ今に至る。


 名前しか存在しないのは過去のしがらみを捨てたい現れであり火星人のほとんどはファミリーネームを捨てている。

 グレンもその1人である。


 50歳を超える彼は商才以上に勝ち馬に乗る嗅覚がある。

 それは魔王以上の嗅覚だ。


 宣戦布告の前日。


 8月10日。


 魔王城に伝のあるメイド越しに魔王に連絡を取った。


『私ならこの戦争を止められる、もしくは王の勢力を極限まで削れる。私は貴方の味方です』



 大胆な告白とも取れるラブレター。


 ふざけた感じだがかなりマジだ。


 ガノンはここで魔王の側に立たないと死ぬ予感がした。

 その予感に賭けた一通の手紙、それを礼司は両手で摘み…………。



 ビリリッビリリッ!!


 破り捨てた。



「宜しいのですか? ガノン様は大貴族の1人。そんな彼が残した証拠にもなる手紙、嘘や偽りではないと思いますが」


 メイドリーダーが静かに貴族を語る。

 怒りはなく、ただ傲慢に見える魔王の行いに疑問が生まれたからだ。


 電子データで無く手紙という古い手段での伝達は気持ちの重さを現している。


 だが。



「身一つで来いと言ってやれ。コレは俺たちの個人的な戦争だ、商人如きが入ってくる余地はない」


「商人如きですか? しかしいくさは基本物量がモノを決めます、補給部隊の数で勝った方が勝つのは当然の結果となっています」



 最強の武力を持続的に投入する。

 それが強国が弱小国を制圧するときの常套手段、その手を使う為の手紙を引き裂いた。


「それは魔法というルールが介入する前の話だ、石器時代のから鉄鋼の時代へ、刀剣の軍隊から銃槍の散兵の時代へ。そして二次元的な戦艦の戦いから三次元的な戦闘機の戦いへ、戦の様式は常に変化する、物量で打ち勝つ数の戦いから才覚がモノをいう魔術の戦争へ。今がその時代(とき)だ」



「? 全然話の意図が伝わらないのですが?」


「分かんないかな? 要は金でどうにか出来るラインは越えたんだよ。商人はただ商人として生きろって事だよ」


「補給の話ですよ?」


「物量戦だって相手国の環境次第では通用しないこともある。そして魔法ってのは大自然だ、大自然相手に人間が勝てる訳ねぇだろうが」


 まだよく分かっていない様子のメイドを見て溜息を吐く。


「異能は対個人の力だ、それに対して魔法と魔術は個人が環境を変えれる」


「玲子様はそこまでの力は持ってなかったと思いますが?」


「何言ってんだこの火星をテラフォーミングしたのは母様だぞ?」


 ソレを逸話と判断するか事実と判断するかは個人の判断に任される。


 黒髪のメイドは逸話と判断していた様だ。


「宇宙戦艦の超大和の力と私は思ってましたが、そんな事あり得ない………」


「科学技術を取り出したのは間違いないけどそれだけで人が住める環境になる訳ないでしょ? そして、このガノンって大貴族は俺にもその力があると踏んでる訳だ。実際奇跡を見た生き証人だからな」


 作者のストーリーを知っている魔王にとっては手にとる様に大貴族達の気持ちが分かる。

 その黒い感情も。


 火星を地球環境化して衰弱した母親を知っていて自分に近づき利用しようとする、嫌悪感があっても仕方のない事だ。


「どっち付かずの商人に出る幕はない、数で勝負できない以上質の勝負だ。裏切るやつは俺は許さない」




『残念だよ礼司くん』


 雲がかった声、破り捨てた手紙から光が吹き出して年老いた爺さんが映像として現れる。


「っち、母様のマジックアイテムか、手を伸ばしすぎだ母様め」


 大貴族の中には玲子の仲間がいる、その1人がガノンだ。


『君が味方になってくれば旧知の父上を殺すことも私は迷わなかったというのに! ああ、本当に悲しいよ』


「はぁ? 何言ってんだ爺さん。そんなやすい言葉に王族が引っ掛かるか、老いて演技が下手になったな」


 吐き捨てる様に言った。

 侮辱だ、普通なら怒りに震え魔王に怒り狂うかも知れない。


 だが商人とは普通ではない。


 感情を殺して一瞬も経たずにポーカーフェイスになる。

 微笑めば嘘に見える。

 怒れば話にならない。

 凄むこともなく、口角を僅かにあげ目は笑わない。


 相手を不快にさせないための処世術だ。

 身に染みた戦士とは違うタイプの戦闘スタイル、言わば口先の魔術師とでもいうべきか。


『昔の盾一くんに似ているな、彼は武人だったんだが今の彼は見る影もない。君もいつかそうなってしまうのかね? そうなる前にせめて母上の様に…………』


「お前に利用されて、母様の様に散れと言うのかゲス」


『違うよ、私はね君が欲しいんだ』


「は?」


 顔を変えず、真面目に言う。

 清濁併せ呑んできた数はいくらか知れない。


 そんな彼が甘い言葉を、感情のままに話す。


『愛を知った玲子くんは盾一くんの野望の犠牲になった。愛さえ知らなければ、愛に溺れなければ良かったのだ。ならば君も愛を知る前に私が買う、その為に財を集め名声も集めた、全て君の為だ礼司くん。私の商人としての嗅覚が君を欲しているのだ』


 感情的なのに全く動かない顔に張り付いたポーカーフェイスが不気味すぎる。


「愛ね。それなら昨日知ったよ、俺の愛する人が俺の願いを叶えてくれる。お前如き商人の汚い手など要らん、今更もう遅い!」


 激情のままに語る、敵でも味方でもない奴に怒りが込み上げる。

 嘘しか吐かない男に時間を使ってしまった徒労感と吐き気で殺意が湧きそうだった。


『な、何?! 馬鹿な! そんな馬鹿な!!! 君は誰よりも冷たい瞳を持つ綺麗な…………!!』



 ぶん!!!


 マジックアイテムの限界が来た。

 光の映像もない、声も聞こえない、ただ千切った手紙が青い炎で燃え尽きていく。



「昔から言葉の通じないやつだ、獣と同じだ。暴利を貪るだけの思い上がり、今も昔も変わらない。あんな訳の分からない奴がいても現場を混乱させるだけだ、すぐに裏切るからな」


「この上なく簡潔に言ってたと思うんですが? 礼司様を性奴隷にしたいと告白したんですよね?」


「はぁ? 交渉人である商人が交渉人相手にそんなこと言うか、第一俺は男だぞ?」


 魔王は黒いドレスのまま言っている。


 1人の老人を籠絡した事に魔王が気がつく日は多分来ない。


「昔から天然ですよねー」


「は? 昔? 俺と同年代くらいだろうお前は」


 狂っているのは礼司の周りの人間か、それとも魔王が狂わせているのか?



 きっとどっちも原因なのだろう。


みんな悪い魔王に唆される。


次回、 第46話『血の花』




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