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第05話 「100%を越えるもの」

 さっきまで俺ごと斬り殺す勢いだったリューコは俺の母親の話を出した途端静かに、というか何か気まずそうな顔をした。


 まぁそれもそうか。

 俺の母親は、第二の母さんだった玲子は親父の盾になったようなもんだ。


 俺だってもう子供じゃない、あの時の親父の言っていた事も、記憶の蘇り以前に理解している。


 ツクローッパの『追放系』みたいに誰かを無意味に追放など出来ない、追放にはそれ相応のリスクが存在する、お手軽に首を切る事ができないのはこの世界だって同じだ。


 だから母さんが好きだった父さんと仲良くしようと思った。歩み寄ろうと思ったんだ。


 だけど、だけども、知れば知るほど、分かろうとすればする程『母さんは間接的にオヤジに殺された事に変わりはない』という自分勝手な考えが感情として湧き上がる。


 俺の親父は革命者だ。


 地球の人口爆発、地球環境の悪化による人類の生存危機。

 他の動物には影響のない人類にのみきく病原体の多種蔓延、ワクチンの製造が追いつかない変質、そして倫理観の欠如による死刑判決の厳格化、万引きで死刑、救助したら死刑、革命を考えただけで死刑、眼鏡をかけたら死刑、車で暴走して親娘を轢き殺したら勲章。



 司法は敗北した。

 人間が人間とたらしめてる最低限の何かが、無くなっていた。



 小説で書いた時には描写していなかった目を覆いたくなる悪辣な事象が地球に起きていた。



 親父は異世界人の母さんの異世界の力、つまり魔術、魔法の力を利用して火星への移住、火星のテラフォーミングをたったの一代で成し遂げたのだ。

 これは設定にあったことだ。



 世界中から『奇跡の男』『カリスマ』『人類の救世主』と親父がこの火星を独立国家とし、王としてこの星に君臨するまで地球の猿どもは称えていた。


 だが今、地球は敵だ。


 火星は元々は囚人の惑星と呼ばれていた。


 地球で差別された人間、死刑執行予定の人間、そう言った爪弾きされた人間が低賃金の労働力としてこの火星に来たのだ。

 最初は地球人が罪人の彼らを『ざまぁ』と言っていただろう。



 だが今は立場が逆転している、彼らは地球の人間にこう言うだろう。


『ざまぁ』と。



 そして地球の人間は見下すべき人間に見下されたことに嫉妬し、火星の王を殺すという凶行に駆り立てた。


 そして王の女、つまり母さんを殺す。


 母さんを殺され、オヤジは泣いた。

 然るべき場所で、みんなが見てる前で泣いた。


 しかしそれは、やはりというべきか親父の計算だった。


 メディアの前で大泣きし、地球の猿共は『ざまぁ』と言った。


 そして『ざまぁ』は新たな『ざまぁ』を呼ぶ復讐の連鎖となる。


 だが今、多少の倫理観を得た地球の猿共は、火星でのテロ活動や暗殺や未開拓地の開発妨害行為も少なくなった。

 ゼロではないが、今の今までは時間を稼げたのは事実だ。

 一人がみっともなく泣くだけで、何人死なずに済んで何人が泣かずに済んだだろう。


 ()()()()()()、火星の、多くの顔も知らない奴らの命を救った。


 親父の涙で、害虫共の、文化も知らない奴らの憤りを解消させた。



 母さんの命で…………俺のなによりも大事な命で!!!




「レージ……怖い顔をしている」


「そう?」


 思い出したんじゃない、思い出したのは今俺がこの世界の作者だったって事だけだ。


 物語の様なさっきの出来事は、文字通り実際に起きた事実。


 だからこの憎しみは本物だし、さっきまで、思い出すまでは竜子を利用してやろうと思っていたんだ。


 嗚呼、そうだ今の俺は俺だ、女勇者に『ざまぁ』される筈のざまぁ要因の芦崎礼司だ。



「母さんはこんな日のために俺に色々教えてくれた、リューコ、お前は多分俺が何も知らずにここに来たと思ってるんじゃないかな?」


 小説通りならその通りだ。


 俺はさっきまで何も知らなかった、だが思い出した。

 この世界の神の作者の創造主の意思を知り、そして偶然に魔王を間接的に殺して魔王の力を得た。


 嗚呼そうだ、ここでオヤジを殺すくらいの力は得た。


 だが足りない。


 殺すのが親父だけでは足りない。


 だからこの憎しみはまだ心の内にしまっておこう、今の俺にとっては二人が百合カップルになってくれた方が御しやすいのだから。


 作者(おまえ)の思い通りになってやるよ。



 ◆ ◆ ◆



 説明が終わった、嘘と真実を織り交ぜて言って、信じさせてやった。


「レーコさんがそこまで知ってたなんて」


「嗚呼、母さんはこの事態を予想していた。だが、お前が勇者であって欲しくは無かったけどな」


「れ、礼司!!恥ずい……」


 さっきまで殺そうとしてた人間の表情ではないな、一目ではリューコがチョロインっぽいがコレは演技だ。今でも病んだ心で俺を手に入れようとしている、凶悪な女だ、だからこそ勇者なのだろう。


 全部口頭で説明した。なるべく俺が動きやすい様に、前世の知識があっても不自然に感じない様に。



 そしてこの場で、俺の身の上話を交えて陽菜ちゃんの前で話したのもきちんと俺が可哀想な奴だという認識を植え付けるためだ。


 数分前の俺だったら絶対にこんな事はできなかった。

 なんというか今の俺は作者と礼司が合体した様な状態なんだろうな。


「アンタの身の上は分かったわ、だけどもだからといってアンタから悪の気配を感じることに変わりはないわ!」


 それも想定済みだ。そもそもこの子は基本いい子なんだ。


 だから本筋のストーリー、総司令官ジンに誘拐された後ジンの悪意に触れて警戒するも態度や優しい対応をされて警戒を解いてしまうチョロインでもあるって事は作者の俺は知っているんだ。


 ってかあのストーリーはよく考えず『ヒロイン誘拐させたろ』と思って魔界に連れてって投稿した後『どうやってヒロインを魔界で生かすねん!!』となってジンの性格を歪めなくちゃいけなくなったんだよなぁ。


 あいつ基本物語の途中で死ぬ筈だったのに妙に毒者人気、ではなく読者の人気が出て生かす形になったんだよなぁ。




 読者(感想)

「ジン様イケメン過ぎてツライ、百合を守るためのナイト」 byカイン


 作者(返信)

「感想を参考にさせていただきます」





 作者は100%この世界を理解している。


 読者なんて5〜20%くらいだろう。


 だったら読者と作者で120%だ、相乗効果で200%にも1000%にもなる。




 作者の知ってるだけの世界だったら俺は100%死ぬ。


 だけどここは読者の思想も入ってる、作り手と読み手の紡ぎ出す世界。



 物語の、クソ小説の名前は『CROSS×ROAD(クロスロード)』その後に副題の様な文面があった気がするが忘れた。


 これは転生による記憶障害だけではない、多分製本してた時も覚えてなかったんだと思う。



 …………死なずに済む可能性はある。かもしれない。

 俺の作ったクソ小説なら絶対死ぬがそうではない。

 イレギュラーがある、それだけでおっかなびっくりだが希望が持てる。


 例えその道が死より辛い道だったとしても進む、しかない。


 そして絶対ヒロインと女勇者の百合カップルを成立させる!!

 それは今の俺の最終目標。






「アンタなんなの? 悪……なのに、なんでそんなに悟った様な顔をしてるの」


「それは君と俺が同じ目標を持っているからだ、君とリューコは結ばせる!!」


「!!??」


 頬を染めている、油断したな? 案外チョロい。

 ちょっと前の俺だったら俺の女にしていただろうな。

 だが今の俺は非童貞であり童帝、女は女同士で愛でさせる紳士(へんたい)だ。


「それは君の心が俺を癒すからさ、君のおかげで俺の心は完全に魔王にならない、そう君のおかげだ」


 超適当、どっちにしろ目的が一緒なのは嘘じゃあない。


「アンタ…………絶対ろくな奴じゃないわね」


 おーっふ流石真正のレズビア〜ん男に何を言われても一切ときめかな〜い。

 でもそれでこそ俺の作った百合ヒロイン、それでこそ正しい。


「レージ、やはりその女に気があるんじゃあないか?」


 竜子さんは相変わらず明後日の方向に人を見ていらっしゃる。


「ないです、全然違います。それよりも取り敢えずそうだな、うん」



 俺のする事、それは…………


「学校の生活で俺がこの女に一切気がない事を証明しよう! 因みにリューコはただの女友達!! 幼馴染は勝たん!! じゃなくて勝てん! だからお前に()女として興味なし!!」


「な!! 唐突に振られた…………だとぅ!!」


 すごく残念そうにしているがどうでもいい! 礼司としても作者としてもお前たち二人には結ばれて欲しい!


 そうだ、ここで俺は青春を謳歌しよう!

 第二の人生だ!! スローライフだ!!



「あ、兄貴ー!!」


 ん?また何か聴こえる。


 ガチャリ!!


 現れた男、それは三下のキャラクター。

 この作品のざまぁ要因。


 芦崎礼司の手下。金で得た友達。


 黄緑色の短髪、昔のヤンキーみたいな感じの童顔少年。


 体型は痩せ型、柄の悪そうな背格好、しかし身長は低い。


 よく見ると本当に童顔。





 読者(感想)

「ウホ、このヤンキー少年礼司きゅんの恋人ですか?えっち♂な事させましょうねぇ?」 byホセ


 作者(返信)

「感想を参考にさせていただきません、百合以外の描写は許さない慈悲はない」





 おい、まさか……!!



「おいテメェこの青髪女!!さっきから空飛んでキンキンキンキンキンキンキンキンうっせぇんだよっ!!()()()()に何かしようものならゆるさねぇかんな!!」


「な!!」


 なんだこいつ!! めちゃくちゃ可愛い!!

 畜生!! これが毒者共!! またお前らか!


「野郎共!! 青髪のキモ女から兄貴を守れぇえ!!」


「「「おおおお!!!」」」


 今までなんで出てこなかったのか疑問に思う程の手下、全員ヤンキーみたいな様相だが、漏れなくみんな美形だ。





 読者(感想)

「何ですか礼司君はムッツリホモだったんですか?ウホ、ホモ天国ですね?」 byホセ


 作者(返信)

「おのれ荒らしめ」




「兄貴!! 俺らがアンタを守る!!」

「兄貴はこの火星の次期王! 兄貴が優しい王様になるんだ!」

「兄貴は素晴らしい!」「兄貴はカリスマ!」「兄貴を守れ!!」


 おのれホセ!! お前のせいで俺の手下びっくりするぐらい美少年揃いだ!!キラキラしてる!

 もう次の展開が読めたぞ!!



 どごぉん!!!!


 轟音と共にエクスカリバー第一形態が現れる。



 〈勇者スキル・エクスカリバー第1形態〉

 •物理的性質変質を自在にできる、魔力の限界まで大きくしたり重くしたり軽くしたり、伸ばしたり縮ませる事も出来る。物理法則は無視する。



 第二形態の日本刀型と違い分厚いバスターソードだ。


 その剣を伸ばして屋上の入り口を破壊した。


 ガラガラガラ、


 土煙が舞って少年たちを、聖歌隊の様な風貌の美少年(ヤンキー)たちを咳き込ませる。


「エフ!」「グッハ」「がっは!!」


 こいつら本当に声も聖歌隊の少年みたいに綺麗だな。



「ふふふ、わかったぞ礼司、前から思っていたがお前…………さてはホモだな?」


「違う! 俺は百合好き男子だ!!」



 俺は酷い疑いをかけられた!



本当に疑い止まりなのかな?!(マジキチスマイル)


次回、第06話 「もうホモでいいんじゃないかな?」



☆こんにちはオニキです。

ブックマーク、評価加点していただけると励みになります。

どうかよろしくお願いいたします。

 

※次回から16:00以降の投稿になります。

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