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第44話 『嫉妬』1/5

 彼、魔王である芦崎礼司は父親である盾一に非常に強い洗脳をかけられていた。

 その洗脳は『生きる事を諦めさせる』という一点に集中していた。


 この世界の原作、クロックスという作品を知ってる盾一にとって魔王になる息子は最初から切り捨てる対象であり、いないモノと同然である。


 彼の中にある強い自殺願望は盾一の洗脳によるモノで、その存在の儚さは逆に周囲の人間を魅了していくのだがそれはまた別のお話。


 盾一に乗り移った転生者は自分の能力をリスクなしのチートスキルだと勘違いしている。


 洗脳系の能力は解除された時が一番厄介なのである。

 抑圧された感情とストレスが対象者のポテンシャルを最大限以上に上げてしまい、そしてその憎しみが自分に返ってくる。


 洗脳されていた事を知らずとも感情は憎しみを生む。


 敵をお気軽に鎮められたと思ったら厄介な敵となって歯向かわれる。

 しかし盾一は死ぬまでその事には気が付かないだろう。


 その力が当然の権利だと勘違いして、しかも罪悪感などなく正義のつもりでいるのだから。


 ハミィはその全てを知っていて盾一を最大限に利用している。

 結局は知ってるモノ勝ちなのだ。


 操り人形の糸が切れるのはそう遠くない未来の話である。




 ◆ ◆ ◆ ◆


 8月11日


 魔王城魔王の間にて。



 竜子は礼司の奥底に隠した心を既に読んでいた。

 そこまでは読まれないであろうと、あまり考えない様にしていた礼司の苦労など意味もなく、ジンに予め警戒させられていたとおりに物事が起きていた。


 最初からジンは自分の催眠解除が完璧だとは思っていない、どんなに大部分の催眠が解けたとしても決定的に目を覚ますのは自分自身の決断でしかないのだ。

 しかし、世話焼きお兄さんと化したジンは一応竜子の歪んだ本心を見抜いて煽り、礼司への注意を集中させたのだ。


 その事に気がつかない竜子ではなかったがさして動揺などしていない。

 竜子は表に現すほどジンを警戒していないのだ。


 圧倒的な実力差は感じるも、そこには野望とか執念の様なものがなく警戒するに値しないとまで考えていた。


 そんな事よりも。

 それよりも礼司の変化に警戒していた。


 予め竜子は妹とメイドに耳打ちしグレンを殺す計画を立てていた。

 ジンの危惧したとおり礼司は負けても良いという思いで戦いを挑み散るつもりだった。


 だがその場で起きていた戦いは予想の遥か上のレベルのものだった。


「魅惑魔術っ!! 馬鹿な、奴の魔術をコピーした私の魔眼でもあの完成度の魅惑は無理だ!!」


 礼司は軽い洗脳だと認識していたが実際はそうではない。

 礼司の魅惑魔術はオリジナルのジンの魅惑を超えている。


 目で匂いを感じそうになる程の魅惑だ。


 本気で誘惑し過剰になったそれは逆に対象者を強化する結果になってしまう。

 普通であればそこで勝負アリ、可愛い礼司を殺す事など出来はしない。

 だがグレンは戦闘を続ける。

 可愛い可愛い礼司を殺す。

 そんな矛盾しても体を動かす。

 絶対に生き残る、必死で生き残る。

 筋肉全てが戦士のグレンには後退のネジはない。


 身から精神が吹き出てしまう様な感覚に負けそうになりながらも戦いの形を辞めない。

 恋していた玲子の幻覚に襲われても、可愛い頃の礼司の幻覚に脳を侵されても、彼女は進むのをやめない。


 四肢をもがれても食いつく精神性がないと不可能な芸当である。


 (勇者の私にも無理だ! 私があの場にいれば間違いなく礼司と性交しようと考える、5000メートル離れているここからでも確信できるほど濃い誘惑魔術! 至近距離であれを食らって何故あのショタコンオバさんは鼻血だけで済む??!)


 竜子は生まれついての勇者であり戦士ではない。

 まだ力量だけで勝てる戦いしか経験がない。


 搦め手、心で戦う喧嘩は不慣れ。


 それでも圧倒的な力でねじ伏せる事が今までの礼司だったらば出来たのだが。



 竜子は予感した。


 この戦いは礼司を一気に成長させる。

 魔王としてではなく芦崎礼司としての成長。

 そして同時に言いようのない不安。


 説明できない何かが起きる予感があった。


「やめろ礼司、それ以上戦うな! おい妹達!メイド共! 礼司の危機だ!さっさと…………!!? お前ら!?」



 女全員がメスの顔をしていた。

 紅潮し、唾液を漏らし、吐息を甘く吐き、目が虚ろであった。


「お兄様、綺麗」


「礼司様がどんどん美しくなっている」


 それはもはやこの戦いを魅たいと考えてる事が明白であり、止めることはかなわないと予感させる表情だった。


 脅威。

 そう感じた、勇者である竜子が初めて感じる恐怖。

 ジンの様な圧倒的戦力差ではなく、圧倒的悪意の恐怖。


 絶望と言って相違ない現象。

 光の速度を超える速さ。


 魅了。


 ただ美しいという事がここまで人の心を惑わすとは想定外だった。


 だがしかし、よく考えれば気がつく事が出来た筈だった。

 何故自分が礼司にここまで執着し守ろうと思うのか?


 それは短的言ってしまえば、成長させたくなかったからだ。

 だから嫌われてでもグレンを殺すつもりだった。


(しかし何か、歯車が崩れてしまったんだ。私は魅たいと思ってしまったんだ、魔王になってしまった私の幼馴染みの成長。魔王として完成した姿。多分どうしようもない化け物になってしまう…………だが)


 竜子は二つの理由で今の礼司に魅了されない。


 ひとつは勇者としての性質が魔王の力に抵抗し魅了されず魅惑の段階で止める事ができるからである。


 そして二つめの理由。

 それは言わずもがな彼女、焚ヶ原(たきがはら)竜子(りゅうこ)は既に可愛い礼司に魅了されているので無意味なのである!!!


(化け物になった礼司こそが勇者としての私の存在意義! 残念だなジン!! 貴様の思い通りにはならんぞ!!)




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