第03話 「ヤンデレとヤンデルと毒者共」
「レージ」
「は!!」
その前に俺は殺される! 運命通りに女勇者に殺される、のだ!!
「………レージ、お前が魔王になったことは黙っておけ、私が色々ごまかしておく」
「ふぇ?」
すごく真剣な顔、元の設定が男のためかすごくイケメンだ。くっ、カッコいい。
じゃ、じゃなくて俺を助ける? 魔王になった俺を女勇者が??!
「お前とは友達だからな、立場が変わったくらいで殺す殺されるの関係にはならないだろ?」
ああ、そうだった。
俺の作ったこの芦崎礼司ってキャラはこの時はまだこの子をイジメから救ったヒーローなんだ。
コイツはまだ俺が悪いやつだと思っていないんだ。
「しかし初代魔王め、呪いの様なものかまさか私の友人を魔王にするとは!! こんなことなら躊躇なくもっと早めに首を切り落とせば良かった!!」
怖っ!!
本筋の芦崎礼司は本来ならこのシーンで精神的に決別されて終わるはずの存在だ。
いつも上から見下す俺が女主人公の方が最強になって見下して関わらない様にするんだけど………色々と展開が変わってるな。
……待てよ? コレから本当に関わらないってのはどうだ?
本来の物語のラインだと俺がこの後女勇者の力に嫉妬して魔族に取り入ってどんどん力をつけて読者のヘイトを稼いで、最終的には魔王の座を〈強奪〉の異能スキルで手に入れるんだけど、結局のところ女主人公と女ヒロインの愛のパワーで爆発四散する。
でももしここで俺が何もしなければ? そうだここは物語の世界であってもさっきの魔王のおっさんが言う様に俺は神 (作者)だきっと物語の強制力の対象外だ!
よし、なんだか希望が湧いてきた!
この後俺がいうことは『すまない魔王の俺は火星のここじゃなくて地球に戻って余生を過ごす』だ!
ふふ、しかしこんな形で前世での故郷である地球に、日本に帰るなんてなぁ!アハハハハハハハ。
「すまない魔王の俺は火星のここじゃなくて地球に戻って……」
「言うな!!!!!」
ご!!!
威圧、ガン飛ばし、何とでも言えるが世界の彼方まで吹っ飛びそうになるくらいの凶悪な力。
この子のスキルでそういえば魔王を退かせる恐怖の〈威圧〉スキルというのがあったんだ、っけ? こんなのあったっけ?
めちゃくちゃ怖くて言葉が遮られた。
顔がイケメン女子だから尚更怖い。おのれ腐女子絵師め許さん!!
「お前の考えはわかる! だが地球に戻るなんて言い方をしてお前! また自殺する気だろう! そんなことはさせないぞ!」
「え? 自殺?」
待てよ、そうだ、設定じゃなくて自分の記憶として思い出すんだ!
よく設定を練ってない俺の小説じゃあ有耶無耶になってるけど生まれ変わりの今の俺自身の記憶だと今の地球は環境汚染が進んでいて、直ぐに影響は出ないものの近いうちに何かしらの病気にかかる所だった!! やっべぇ一気に行きたくなくなった!
もっと! もっと重要な事をおもいだせぇええっ!!
俺は読者のコメントを思い……出す。
『なぁこのレージってやつはなんなんだ?なんでこんなに火星でやりたい放題できるの? 火星は独立国家でそこの第一王子とかなの? なんか整合性足りなくね?』
嗚呼、そうか。分かったぞ?
この世界は確かに俺が作った小説の世界だ、だが女神を名乗るアイツは魔術書と言っていた。
つまり小説としてこの世界ができたわけじゃない。
多分物語として『物語を作ろう』のサイトの全てがこの世界に反映されてるんだ!!
つまり、だ。読者の辛辣なコメントも、感想、気になったところ、一言がアンチごと反映されているんじゃあないか?
やっべぇ、感想に目を通してても忘れてる!! アンチなんて既読スルーしてた。
俺の知らない何か奴らの裏設定があるかもしれない!
「あぎぎ、いや違うぞリューコ!」
焚ヶ原竜子、これが女勇者の本名だ。本当は竜ニ (リュージ)という名の男勇者だった。
「俺の親父に頼んでまだ清らかな場所で余生を……」
「嘘をつくな!!」
ご!!
だからそれやめて!! 言論統制やん! 魔王になったけど勇者の力に敏感になり過ぎて弱体化してないか?
「地球に定住できるほど清らかなところがあるわけないじゃないか! そんな事言ってまたこの私から逃げる気か!」
私から逃げる気か。
ん? 今のセリフどこかで聞いたことある様な…………ああそうだ、思い出した。
本来の運命なら礼司がうっざいセリフ言った後この子が勇者の力を見せつけて今の台詞を決めるんだ。
そして百合の間に入ろうとする礼司をジャガイモを見る目で一瞥するんだ。
そして礼司は蛇に睨まれたカエルの様に…………。
魔眼の蛇眼。
金色の瞳。
そして俺は生まれたての魔王、蛇に睨まれたカエル状態。
あ、俺死んだわ。
「な、こ、怖いぞ?なんでそんな!」
「ふふふ、レージ? 私はお前に助けられてた頃の私じゃないぞ? いつでもお前をどうすることもできる力を持っている」
周囲の空気が冷えていく、否、俺の体温が急激に下がっているのだろう。
青色のロングヘアが下半分逆上がり怒気の様な意思を感じる、がアレ?なんで俺ムカつくセリフ言ってないのに原作通りに話が進んでいるんだ??
読者 (気になるところ)
「なんかこの勇者のざまぁのセリフ描写、レージに対する恋心を抱いた女の子の告白みたい、ツンデレかな?」 byケンジ
作者 (返信)
「百合以外の解釈は死すべし慈悲はない」
またお前らか読者共。転生先じゃ無視できない! ちくしょう!
くっそ分かったぞ! これ作者の思い描く情景より読者の受け取り方の方が優先されてやがる!! なんだその表情は! 頬が赤く燃え上がる様に火照ってるじゃあないか! それはヒロインに向けるべき表情だ!!
「ダメだぞ! それは陽菜ちゃんに向けるべき顔だ!!」
「…………ハルナ? んーと、それはひょっとして最近転校してきたあのFランク能力の子か?確かに歌声変換とかは素敵な能力だった子だが……は! まさかあの女に気があるのか!? 私と言うものがいながら!!」
「え?」
そうだな、礼司の記憶から見たリューコちゃんは確かに俺に気がある素振りをしていた、俺自身は今まで気がつかなかったが。気がついてないんだぞ。
読者 (気になる所)
「なんでこの主人公いきなり陽菜とか言うポッと出のヒロインに惚れとるん?この作品で百合営業されても全然萌えないんだけど? それより女主人公とレージの純愛を書いた方がいい作品になるよ?」 byホセ
作者 (返信)
「百合以外の解釈は死すべし慈悲はない」
ちくしょう! またお前らか! ふざけんな! 俺は百合がいいって言ってるんだ! 異性同士の恋愛なんて邪道なんだよ!! 邪教だ! きたない!
だからってオス同士はもっと汚い! 女の子同士がベスト! だから最終回に向けて俺は二人のハッピーエンドを作っていたんだ!!
読者 (ひとこと)
「最終回手前にて、まさかリューコとハルナが結ばれるとは……コレは稀に見るバッドエンドですな」 byホセ
作者 (返信)
「百合以外の解釈は死すべし慈悲はない」
うるせぇ! 俺は決めたぞ!! なにがなんでも女勇者とヒロインをゴールインさせてやる! これは意地だ! こんな所でアンチに負けてたまるか!!
確か魔王の能力に洗脳スキルがあったはずだ!! 今の内に陽菜ちゃんを懐柔して女勇者を攻略しないと! え? 魔王の矜持云々は? それは今どうでもいい!! 女勇者とヒロインのゆりゆり展開が最優先事項だ!
ぞん!!!!!!
狂気、感情のうねり、殺意の波動。
その全てが俺に集中して捻りぶつけてくる少女が一人、校舎屋上の扉からやって来た。
確かに原作ではこのタイミングであった。
そして魔王 (死んだ方)を逃すついでにジン総司令が女勇者からヒロインを攫うのだ!そう!今俺に殺意と狂気をぶつけているのはヒロインである花陽菜ちゃんその人である!!
黒髪セミロングでカチューシャをして小綺麗にその可愛さをアピール、制服の薄いピンクのラインと白地のセーラー服が彼女の素朴な花の様な美しさ、気高さ、純朴さを表すのだ!!!
でもどうだい?今の彼女は嫉妬に身を焦がすヤンデルの目だよ! デレはない!! 殺されるのは俺だ!!
確か彼女は最初からヒロインにする気だったので最初から『女勇者のリューコちゃんが性的に好き』と明言している!! させたった! だから彼女のゆりゆりは変えられないはずだ!!
ちなみにリューコちゃんは主人公だから最初のうちは明言していない! だって悩んでた方が俺 (作者)が萌えるから!!!!
読者 (気になる所)
「なんやこの陽菜とか言う女、いきなりリューコちゃんちゅき♡ とかキモっ! 絶対この女病んでるわ」 byホセ
作者 (返信)
「百合以外の解釈は死すべし慈悲はない」
「ホセてめぇえええええええっ!!!!!」
俺は叫んだ!
こんなの叫ばずにはいられない、魔王になったのも誤差の範疇、そんな事より俺のヒロインが毒に冒されている、そう読者の吐く毒にだ。
読者ならぬ〈毒者〉のせいでヒロインが汚された!!!
これ以上の惨事などないのである。
コレだったら他人のなにも考えずに作った整合性のかけらもない作品に転生した方が百億倍マシである。
脳死したい。
「リューコちゃんは渡さないっ!!!」はい。
ヒロインは俺に向かってナイフを向けた!! 俺は死ぬ!!
百合モノで女の子同士が結ばれるのは義務教育。
ちくしょう! 主人公をただの百合好きイケメン男子にしてしまった!
こんなのもう曇らせるしかねぇ!! ぐへへへへ。
次回、第04話 「魔女と勇者と魔王」
☆こんにちはオニキです。
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