表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/150

第02話 「どうしよう」

 


 ぎゃいん!!


 炸裂音、圧縮された空気がぶつかりあい金属音と共に想像を絶する衝撃波が屋上の遥か高く上からした。


 ぼた、ぼたぼた、


「雨?」


 頬にかかる液体、瞬間雨と認識するもすぐ間違いだと気がつく。


「…………血だ」


 生温かさはもうない、だが鉄くささと比重が水とは別物であり、またその出血量があきらかに生きていられる様な量ではないと分かった。


 どっちの血だ?


 女勇者のものでない事を祈るしかない。


 だって彼女にはヒロインとゆりゆりする運命が待っているのだから、それこそがこの世界の本来の道。


 ここで退場するのは運命(ストーリー)と違うがどうでも良い。


 もう、おれは…………。


「死ぬな!!!!」


「へ?」


 見上げた瞬間、女勇者がそこにいた。


 苦虫を噛み潰したかのような顔を俺に向けている。

 青い癖のあるロングの髪に透き通るような白い肌、元の設定が男のためか少し逞しさを感じるが間違いなく女の子だ。


 なんかこういうのゲームで見たことあるな『誰が義姉さんだ』とか言いそう。


 声はハスキーボイス、とまではいかないが女の子の割には少し低い。


 白魚のようなすらっとした腕、その右手にはとても長い日本刀のような形をした剣を持っていた。


 しかし美しい筈のその刀身はおびたたしい血液で赤く染まっている。



 ああ、こんな早い展開ありかよ、コイツが手を下すのはもっと先のはずなのに。

 いや、誤魔化すな。

 ()()()()()()()()()()()()



 どちゃ!



 自由落下で落ちてきたであろう魔王の体がここに、屋上の床に落ちてきた。


 つまり女勇者は魔王を刺して、一目散にここにやって来た。


 落下する魔王より早く、その力を使って俺の前にやってきたんだ。

 …………人を殺してしまった、という罪悪感に苛まれながら。


 本来の俺の小説では魔王がここにくるヒロインを誘拐して異世界に逃げる展開だった筈、だけど今目の前で魔王は……。


 目を向けると屋上の緑色のゴム床が血の色に染まっていく。


 血が、噴出している。

 血のたぎる戦いで受けた傷、完全に予想外の怪我、それはまるで致死量の血液の量で…………。


「ぐ、はぁ!」


 俺は気がついた、未来は変えられる。


 だが過去は変えられない。


 俺がこの世界を作り、この世界に転生して、この世界で母さんを殺した事に変わりはない。


 それをもう今からどうこうした所で変えられない、やってしまった罪の罰は受けなくてはならない!


 これは俺の罪、芦崎(あしざき)礼司(れいじ)の罪であり名前も忘れた前世の作者である俺の罪でもある。


 物語でも、そして今実際にこの魔王を殺した。


 女勇者は立ち尽くしている。


「死ぬな、礼司! 何があったかわからないが、お前!!」


「死なないよ、なんでそんな風に思ったんだ? 訳がわからん」


 俺はわざと生意気な憎まれ口を放った。

 それだけで女勇者は何も言えなくなった様だ。


 運命(ストーリー)通りに進もう。



 世界中に『ざまぁ』されよう、それが作者(おれ)の責任だ。



 この世界の、この作品を追放系にする前、この男を魔王として君臨させ、女勇者を苦しめる筈だったのに俺が場繋ぎとざまぁサレ要因の前座として七変化させてしまった。


 だったら俺がそんな風に死のう。女勇者に殺されよう。


 コレは因果応報、きっと自分の作品を貫かなかったバチが当たったんだ、だからこの命をこの世界のために…………。




「少年」


 背後から男の声、魔王が声をかけてきた。


「へ? …………あ、領域!」


 〈領域(テリトリー)

 格下、又は完全支配する気のない相手に場合にのみ発動する事ができる。

 一時的な支配。

 領域発動者が対象者に()()()()()()()()()使う。

 魔王が使用すると戦闘中に外敵に攻撃されない特殊効果が発動する。



 魔王のテリトリーに自分がいる事にやっと気がついた。

 魔王が、俺に?()()()()()()

 絶命する前の魔王が俺を見た。



 不死身の魔王、不老の魔王、魔族の領地のルールを決めるための魔王。



 本来なら剣で刺されてもすぐに回復する。だがネタバレすると勇者は斬撃に魔術を込める斬撃魔術というスキルを持っている。


 その斬撃は魔属性の魔王を殺す。


 不死の魔王、不老の魔族を殺せる勇者の斬撃、それこそがこの物語の鍵なのだ。


 だから女勇者の竜子に刺された()()魔王はここで死ぬ。


 俺の作った本来の物語ではここで謎の総軍司令ジン (思いつきのポッと出キャラ) によって逃亡させられるのだが、今回は俺の横槍で死んでしまう。


 これでも今までこの世界で生きてきた実感がある俺にとっては確実に自分のせいで死んでしまったこのおっさんのこれからを背負う事なんて出来るはずがない。


 まぁこれからの人生も過去の作者(おれ)によってメチャクチャにされて殺されるのだが。


 確かこのおっさんはこの後力を奪われて、魔王として没落して、そう兄の元勇者、1代目勇者に殺される。


 嗚呼、俺は今心の中で言い訳している。


 この男は今この場で俺が殺してしまったほうがいい。


 その方がクソ小説の犠牲にならなくて済む。

 竜子の心が救われて魔王が作者に殺される無様から救われる。


 当然だが俺は、正確には前世の俺はこの世界の事なんて他人事、机上の出来事ぐらいにしか思っていなかった、事実作ってた時は机上の絵空ごとだからだ。


 だが今は、本当に目の前に命が消えかけている。


 だからこの男はこのまま安らかに死んでしまった方が幸せなんだ。



「御免、なさい」


 涙が止まらない。

 自分でふざけたやり方で殺しまくっておいて涙を流すなんてきっと俺はサイコパスなのだろう、そうに違いない。


「何故? 泣く、何を謝る? お前のお陰でこの世界は救われた。私はこの世界をも支配しようとした何故謝る?」


 それは作者(おれ)が植え込んだ洗脳に近い、なんて言っても誰にも理解されないしさせてはいけない。



 女勇者は()()()()()()()()()()()という呵責(かしゃく)に苛まれていて殺しにこない。


 女勇者にできないことはない、領域外からでもやろうと思えば中に入ることもできる。

 だが竜子はそこまでサイコじゃない、俺と違って。


 だからこの間が出来た。


「違う、俺は多分この世界を憎んでいる。だから誰かのシナリオ通りに進んでしまう、だから、だからアンタはここで死ぬべきじゃなかった、後でも殺されるべきじゃない、アンタは、魔王はこのまま生きるべきなんだよ!」


 自分で何言ってるか分からなかった。わからなかったけど感情のまま思ったことを口走っていたんだ。


 だから、俺は前世の俺に代わってこの魔王に謝ったんだ。


「………そうか! お前が特異点私が操られた存在に最も近い男、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! あの子供が言っていた通り、お前が突破口」


 子ども? いったい何の話だ?!


「何を!?」


「受け取ってくれ、我が、魔王の力を」


 !? 待て待て、確かに俺は魔王になる予定だけど今じゃない!! 

 話が三百話ほど飛んでるぞおい!!



 [王座 《魔王》を手に入れました]


 [この〈王座魔王〉はあなたの部下のレベル、または才覚により〈魔族の統率スキル〉のレベルがアップします]


 [今の所仲間はゼロです]



 脳内に声が反復した、ってところも俺の設定そのままか!! 他人の声が脳に響くのって想定していたより気持ち悪い!!


 いや、今はそれより聞く事がある。

 この男に聞かなければならない。


「アンタ、この魔王の力は兄にくれてやるつもりだったんじゃなかったのか?」


「そんな、事まで、なる、程、試すまでもなかったやっぱりお前は、否、貴方は只者じゃ、ない…………ああ良かった『魔王』は死なない、魔族も、滅びない」


 ぶしゅう、ばさぁぁあ、



 力尽き魔王は光の粒子となって消えてしまった。

 いや、これでよかったんだ、このまま生き続けるよりここで輝いて、魔王のまま。


 いや……そうじゃなくて!そうじゃない!感傷に浸ってる場合じゃない!


 何やってんだ俺! 魔王になっちまったじゃねぇか!


「レージ!!」


 あ?!


 俺の目の前にあの女勇者が近くまで来た。


 身長は俺と同じかちょっと小さいくらい。女の子にしては背が高い青髪ロングの美少女 (公式設定171cm)思い出すまではただの恐怖の対象だったが、女キャラクターとして見た竜子は、何というかすごく可愛い。


「っ………!!」


 そうじゃなくて!! 思い出せ! 勇者の特殊スキル。


 えーと金色の瞳、これは蛇眼と言って目視したスキルを魔術でも魔法でも剣術、武術、なんであっても全てコピーしてしまうという便利な目だ。


 主人公だしな。チートの一つや二つ持たせるのは常識だ。


 そしてさっき2本目だと言っていたエクスカリバー、これは彼女に内包した〈エクスカリバー〉が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というスキルの形なのだ。


 今持ってる村雨は日本刀の形をしていて、そのスキルは絶対切断。

 両手で持つ事を代償になんでも空中にいる敵を空間ごと切り裂く剣だ、これを細かい斬撃の塊として、魔王に喰らわせたってわけだ。


 まぁ内臓ぐちゃぐちゃだよね?


 でもそれでも死なないのが魔王で、一瞬で治っちゃうんだけどさっき言った勇者の力で不死性を殺しちゃうんだよね。


 あー、この子すっごい怖いくらいつよーい。

 間違いなく俺より強い。



 この子なら魔王となった俺も殺せる。



 パッとした見た目ぼんキュボンみたいなサバサバしたお姉さん系なのに持ってるスキル、ステータス、スキル、その全てが凶悪。最恐。


 どーしよー、こんな子に俺が魔王だってバレたら殺される。


 そうだ、もう殺されてやるものか。


 〈魔王〉の王座はカムイが兄の暴走を止めるために作った魔法だ、つまりは勇者のための魔法。

 そうでなくてもあんな受け取り方をした以上もう殺されるわけにはいかないんだ!!



「レージ! お前! 今魔王になっただろ!!」


「あ、死んだわ俺」


「何言ってるんだレージ!!」



 そうだ、本当はここでヒロインである女の子、主人公の(はな) 陽菜(はるな)ちゃんが来るんだよね??


 確か、初代魔王を助けるついでにやってきた謎の強者ジンに陽菜ちゃんが魔界に攫われて、そんでもって女勇者が陽菜ちゃんを愛していたことにちょっとずつ気がつくんだ!

 色んな魔族をやっつけてぶっ殺して、そんで俺が転生したこの男に僅かながらの恋心を持っていたけどそんなもの百合ハーレムの前には無意味で!障害があればある程陽菜ちゃんと女勇者との……絆が……あれれ?




 アレ?


「俺なんかやっちゃいま…………ど、どうしよう」


 危うく変なフラグを踏むところだった。


強くなる工程をすっ飛ばして魔王になった礼司。

果たして彼は二人の女の子を結ばせることができるのかっ!!


次回、 第03話「ヤンデレとヤンデルと毒者共」


あっ、次回からギャグパート入りま〜す。




☆こんにちはオニキです。

ブックマーク、評価加点していただけると励みになります。

どうかよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ