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第29話 「竜子の物語」

 白い、白い部屋だった。


 おそらくは十畳程度の広さの部屋。

 壁紙は真っ白で家具も熊のぬいぐるみも、ベッドのシーツも飾られてる花も何もかもが真っ白だった。


 クイーンサイズのベッドの上には何やらおぞましいおもちゃが数点置かれていている。多分ついてるスイッチをオンにしたら振動が発生するタイプのアレだ、長太い二股のと繋がってるとお豆さんみたいのがある。


 それらも真っ白だ。


 〈クイーンサイズ〉

 ・ダブルサイズの更に上の大きさ。


「礼司、お前という奴は」



『女の子同士でエッチな事しないと出られない部屋です!!!』



「お兄様、頭が…………」


「そういえば礼司は小さな頃から女同士でエッチな事するのを視姦したいという特殊性癖があったな。なんだったかな?王宮の仮面メイドの〈ポイズンピンクパイセン〉とかいうやつの影響だとか言ってたな『分からされた』とかも言っていた」


「い、今はそんな事どうでもいいです! このふざけた空間から出ないと」


「ん? 別に私たちがエッチな事をすればいいだけだろう? お前の好きなお兄様の願いならやってあげればいいじゃないか?」



 なんだか愚妹がすごく面白い顔をしている。

 そして顔も体もドン引きして部屋の隅に逃げた、うん、そういうところは礼司と似てる。


「いやいやいやいやいや!! いくら好きな人の言うことでも同性とエッチとかないです! 気色悪い! 吐く! あんたはそれでいいのか?!! お兄様に告白されてその日のうちにこの有様だぞ?」


「ん? 好きな人の為なら何でもするのが普通だろ? アイツのためならお前とナニをしても問題などない、ホモだろうが何だろうが苦にならん、私はアイツの奴隷だからなぁ」


 どんどん愚妹の血の気が引いていく。


「アンタ、昔から思ってたけどかなりぶっ飛んでるわね! 意外と受け身というか、かと思ったら何も考えてない様に攻め手になったり、意味がわかんない! そういう人間っぽくないところが私は嫌い」


「ふふふ❤︎ よく見てるじゃあないか、まぁつまり私とエッチはしないという事か?」


「当たり前でしょ!」


「お前はする方じゃなくてしてるのを見たい側だものなぁ、ほんとお前たち兄妹(きょうだい)はよく似てるよ」


「なごっ!!!」


 こいつは私と礼司がまぐわってる時ずっと見てたからなぁ、キスは許せなかった様だが。可愛いやつだ、礼司程じゃないが。


「さて、では平和的解決はできない様だから強硬手段に出るとするか」


「え?」

『え?』



 ザンッ!!!


 私は呼び出した剣、エクスカリバーの第二形態、村正を取り出して壁を斬った。


 人ひとり出られる穴を作って外に出ると可愛い礼司が裏切られた猫みたいな顔をしていた。




「騙したな!!! 斬れるじゃねぇか嘘つき!!!」


「勇者が魔王に弱点を教えるわけなかろう? 嗚呼それと銅像は絶対切らない! 絶対だ!!!」


「れ、礼司くん! 謝ったほうがいい。流石に君が悪い、女性を虫かごに入れるように閉じ込めておいて嘘つきって…………!!」


 何だこのおっさん!!

 ホモのレージの心につけ込みやがって! 昔の男ツラしやがって!

 男にも女にもモテるな!全く!


「お、俺は悪くねぇ!!」


 まぁ面白そうだったから虫かごの中に入ってやったんだがな、しかしやっぱり、昔から礼司の慌てふためく顔は可愛いな。


「そうだなぁ、礼司。謝らない、罵倒するというのなら覚悟の準備はできているだよな?」


「え?」



 光の速度 オン。



 ザサァア



 目にも止まらぬ、音も止まる速度。

 全員が静止した世界。


 私が片翼を展開するとどうやら光の速度で動けて全てを見切ることができるらしい。

 この感覚を利用して礼司を部屋のベッドに放り込む。


 そしてビー玉を持って部屋の穴を再び塞いだ。


 妹は外に置いてきたから二人っきりだ。



 光の速度 オフ。



 ぼふんっ!


「ぬぎゃっ!!」


「二人でエッチしないと出られない部屋とか言っていたなぁあ? この場合はどうなるんだぁ?」


「は!! は、嵌めたな竜子!」


「ハメるのはこれからだぞ? ここにはお前の用意した真っ白い玩具が沢山だぁ〜❤︎」


 辺りを見渡し青い顔になる。

 自分で作っておいた癖に玩具がとんでもなく悍ましいものに見えてる様だ。


「こ、こんなぶっといモノ入るわけねぇだろふざけんな!!」


「それらを作ったのはどこの誰だ? ん?」


「うっ、それは〜」


 昔のクソガキっぽさが戻ってきた。ふふふ。


 私は礼司に近づきベッドに座る、二人で揃ってくっついてベッドに座っている。


 そして白いおもちゃの先っぽをクソガキの頬に擦り付ける、ぐりぐりと罪悪感が込み上げる様に、思い知らせてやる❤︎


「悪かった、御免なさい、もうしません」


「していいぞ? 私的には別にお前の妹を食べてもかまわん。お前の命令なら何でもしてやろう。また騙しても構わん、今回はお前の意思が確認できなかったからこうなったがな」


「…………」


 嗚呼、やっぱりな。

 こいつまた私のためにこんな事をしたんだな。


「わかってるよ、礼司。お前また私には幻滅されたがってるだろう? まだお前は私の意思で逃げてもらいたい。その足掛かりとしてお前の実際の性癖に合わせた事をして本心を悟られない様にした、だがなそんなことは心を読むまでもなくバレバレだ。お前は昔から自分を殺してきた、だが私はお前の奴隷だ。お前の意思ならしたくないことをするしお前の命令なら何万人だろうがぶっ殺す、もう手遅れなんだよ礼司」



「竜子」


 私は悍ましいおもちゃをベッドに置いて礼司と向き直る。


「お前のためなら男にだってなる、女だって食う、お前が好きだ。もう引き返せない」


「いや、男とかホモとかはお前の完全なる勘違いだからな? 大体同性愛とかありえん」


「お前は私と妹にさせようとしたではないか??」


「女の子同士は例外です!!」


 訳が分からん、だがそれが良い。

 この口喧嘩がたまらない。


 嗚呼、今すぐ口を私の口で塞いでやりたい❤︎

 だがここは我慢だ。


 約束させよう。


「………………竜子、俺はお前に何をしてやれる? お前に大量殺人をさせて、きっと恨まれてそこまでしてもらって俺は何のリスクも負わないのか? ただお前を傷つけるだけ? そんなの嫌だ!! せめてお前の数千分の一の苦しみくらい味わいたい! でも俺は弱いから、お前のサポートすら出来ない、だからと言ってこの戦いを終わらせたくない。あの男は殺さなければならない!」


 辛そうな顔だ、そうだ礼司は私を思っている、だからこそこんなにも泣きそうな顔をしているんだ。


「…………そうだな、じゃああの男はお前に任せる。あの男以外はぶっ殺して諸悪の根源のあの男を殺させよう、私はただ戦争で大量虐殺をするだけだがお前は仇で殺す、これで同じくらいの苦しみじゃあないか?」


「全然つりあわないよ、俺は殺したい奴を殺して、お前はやりたくない事をやるんだ、そんなの」


 嗚呼、泣き出してしまった。

 本当に涙脆い。


 私はお前が思うほど立派な人間じゃあないのにな、だがここで私が折れるわけにはいかん。


 私だってあの男は殺したほうがいいと思ってるんだ。

 だからこれから礼司に言うことは、ちょっと卑怯な私の願い。


 感情など元々薄かった私に熱い思いをくれた礼司への恩を仇で返す様なズル。チートだ。



「礼司、こっちを見ろ」


 顔を引き締めて礼司好みの男らしい顔つきになる、そして礼司の顎を優しく掴み腕力でそのまま私の今の顔を見せつける。



 キスは、まだしない。



「だったら礼司。今回の全てが終わったらお前は私のモノになれ、そして私もお前のモノになる。そして熱いキスを交わそう、()()()()()()()…………場所と日時は私の指定する通りにしろ。それがこの戦いの私に対する褒賞だ」



 きっと礼司は断れない。


「俺はお前が好きだ愛してる、()()()()今ここでだって」


「駄目だ。あくまで褒賞としてだからな。その方が熱い交わりになる、お前のゆりゆりとか言うふざけた幻想も脳ごと破壊できる。私にとってこれ以上の褒賞は考えられない」


 目を逸らした。


 罪悪感が迷いを生んだ様だ、だが大丈夫。

 私の幼馴染は強くて優しいからな。



「分かった。これが終わったら俺はもうゆりゆり計画を諦める。お前のモノになるしお前を、娶る」



 満面に笑みが溢れてしまう、我慢しろ私!!

 ここは微笑む程度にしておくのだ!!


 雰囲気がぶち壊しになる!!


「んふふふ❤︎ やっぱりお前は魔王だな。大好きだ」


「なんだよその顔、絶対腹黒い事考えてただろ?」


 嗚呼ダメだ。やっぱり私は心を隠すのが下手すぎる様だ、嬉しさに敵わん。




 でも、これでいいはずだ。


 これでやっと私は私自身の物語を始められる。






 “あの声”に導かれるふざけた運命を終わらせられる。





 ◇ ◇ ◇ ◇


少年は少女の力を欲し、少女は少年の心を欲した。


次回、第30話 「竜子の過去」



☆こんにちわオニキです。

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