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第27話 「歪」

 囚人惑星。

 そう揶揄され、ならず者と言われた火星人たち。


 死刑場とされたその場所で彼らは文明を作り、地球の環境より進んだ世界を作った。

 名前を変え、生き残り、人を扇動し、その地位を築く。


 それがこの時代の火星の重鎮、大貴族達である。


 王が王であるのは『異能の女王』と呼ばれる玲子の夫だからだ、彼自身には異能はない。

 それでも玲子を惹きつける魅力があったのは間違いない、そしてその魅力は長男の礼司に受け継がれ彼自身の純粋さが今女勇者を惑わしている。


 だが王に転生した人間にその魅力はない、おそらくカリスマ性というものだったのだろう。

 14年前次女の生誕より全てが狂い出した。


 彼は被害者であり、加害者でもある。

 ハミィが全て悪い、当人の立場に立たないとハミィが諸悪の根源で全ての仇となる。



 一見歪に見える礼司の父親に対する殺意。


 礼司の怒りはもう亡き母のことだけではない、生きてきた中で慕ってくれた全ての命をも抱えている。抱えてしまったのだ。



 だが、ハミィの存在など知らない周囲の人間はそうではない。


 14年前から裏で囁かれ始めた王(・)の(・)堕(・)落(・)。


 不審な行動、言動、愚行、それらは瞬く間に広がり本人には伝えられない。悪口とは本人の前では言われない。


 そして彼、王に転生した彼はその場の空気に気がついた時、イジメられた子供の様な感情を持った。


 彼はイジメに対する耐性がない、何故なら前世からイジメに加担するでもなく、ただ関わらない様に遠目からいじめられている人間を見て冷たい目で嘲笑った人間の一人だからだ。


 それで自分が悪くない。いじめをする方、される原因を作る方、両者が悪いと自己完結していた卑怯者だからである。


 卑怯者とそうでない者との違いは『悪』に対する認識の仕方だ。


 いじめられている人間を見て助けられないのは卑怯なのではない、その行いを正義と勘違い、もしくは非悪と勘違いして何も考えないものが卑怯者なのだ。


 大貴族達はそういう類の人間ではない。


 自分が生きるために他者を見限り見殺して来た。

 だがそれを悪くない事、正義である、などとは決して思わない。

 忘れてはいけない、彼らは元(・)受(・)刑(・)者(・)である、罪の意識に関しては人並みにくらいは考えている。

 そして反省してまた誰かを見殺さないように次に生かそうとする者達である。


 だが王に生まれ変わった彼にはその成長に必要な決定的なものが足りないのだ。

 これは前世からの呪いと言ってもいい。



 そして仮面のメイドは彼の卑怯な精神を理解して利用する。



 仮面のメイドは生前の異能の女王が自ら選んできた精鋭達だ。

 才能の有無関係なく、結果を出せる胆力、精神力、そして自分に対する忠誠心のある女性をターゲットに集められた組織だ。


 何故女達だけなのか? それは玲子がレズビアンだから、ではない。



 長男、芦崎礼司の将来のためである。



 本来女はスパイには向かない。

 女は女というだけで目立つ、色恋沙汰で簡単に情報を漏洩してしまう。

 それらの観点からスパイはなるべく男であるべきなのだが、その感情の起伏は男である礼司を守らせるにはちょうど良かったのだ。


 礼司は異能が使えなかった、玲子が死に、玲子を罵倒され、怒りで目覚めるその時までは。


 玲子は息子の才能は信じていたが万が一異能が使えなかった時を案じ仮面のメイドを設立したのである。


 かなり重い息子思いである。


 礼司の魅力を知って、おそらくは仮面メイド達が魅了されると計算して、そうしたのだから玲子も相当に腹黒い女である。


 しかしその腹黒さは結局のところ死して礼司を救うことになるのだ。


 仮面のメイド達は、その女人達は、全員礼司に心酔している。

 玲子に似ているというのもある、恩人の息子であり異性、我儘であるが他者の為に自分を収めることの出来る精神力。

 玲子自身を魅了した元の盾一の魅力を息子が受け継いでいたのは分かっていた。


 そしてメイド長も魅了された一人でショタコンであり、玲子と然程歳の違わない独身美女である。


(あの時屈辱を受けたのは礼司様だけではない、組織として統制が取れずこの王に邪魔され玲子陛下を死なせた挙句愛しき礼司様も救出できなかった愚、せめてここで僅かでも償わせてもらう)


 と彼女自身猛省した出来事だが彼女らの組織としての目標は礼司の命を守ることだ、そこに玲子自身の命は含まれていない、なぜなら彼女は異能を使えた頃の玲子より弱いからだ。


 だが彼女は猛省する。


 役目ではなく恩に報いることが出来なかったことに変わりはないからだ。


 だからここであの時邪魔され玲子を死なせてしまった失敗を返上したかったのだ。



(礼司様の弊害となる全てをどんな手を使ってでも破滅させる。それがたとえこの星の王であっても例外ではない、この世界であっても例外ではない)



 ほくそ笑みながらその様なことを考えていた。

 だからこそやはり女はスパイには向かないのだ。



 ◆ ◆ ◆ ◆



「お前らの数を全員合わせて五千人しかないではないか?!! 王の召集だぞ?! もっと集められるだろう?」


 会談がまとまり始めた。


 王が次女の玲奈の奪還の為たった四人の相手に五千人の大貴族達の私的兵士を出兵させるという話だ。


 メイド長の横槍がなければ一万人は硬かったがこの結果となった。


 数だけでいえば五千でもやり過ぎなくらいだ、しかし問題なのはそれらの兵のほとんどが陸上歩兵、ほんの十数人だけの空軍傭兵が貸し出されるだけだ。


 あとこれは王には話していないがその五千人全てが軍務規定違反、素行不良の成績の良くない兵である、つまり死んでも痛みの少ない人選をするつもりなのだ。

 もう大貴族達は気がついている。


 この戦争は負ける。


 だが確定情報が少ない為念の為に不良在庫くらいは貸そうという話だ。

 もし魔王側が負けて魔王城が占拠されても大貴族達は既に行動を起こしている。


 こういう時のために大多数の私兵は待機中だ。


 そう、どっちが勝っても王からも、魔王からも奪う気満々なのだ。


「まぁなんというかやはり相手側の戦力が四人というのが、しかも一人は捕虜、いくら異能者でも、ねぇ?」


 初老の男性、最初に気圧されていたふりをしてた時とはまるで様子が違う。


「四人だろうが四億人だろうが一緒だ!! 敵を叩くなら全力で! だろうが!」


「しかし私たちの目的はあくまで火星の開発、本来対人間用の兵器もあ(・)ま(・)り(・)ないのですよ? お忘れですか? 我ら大貴族と呼ばれる十二人が各地に散り散りになっているのかを。今時内乱如きに人数はさけないのです、その為の異能者学園制度での優遇に我らが資金援助をしてるのです! 私達が外を広めて陛下が中の異能者をまとめる。まぁしかしあのような城を作ってしまう異能者に反乱されてしまうのは些か………………しかも家庭の事情が原因となると流石に」



「ふざけるなぁっ!!! いいから貴様らの全てをよこせ!! 僕(・)は王だぞ!!!」



「「「お断りいたします」」」


 全員一致。こうなるともうテコでも動かない。


「第一、母君の玲子殿の救出の件ですが陛下の方に非が有るのは皆知っています。この際あの時のように泣きながら礼司殿に謝罪されてみては?」

(出来れば王位も譲ってもらいたいがそこまでは流石に言えない)


 もう謝って済む段階は既に超えてしまった、彼らは何も知らない。


「ふざけるなぁ!! 貴族の分際で王に逆らうな!! いいか!? あのガキは魔王だ! やられ役なんだよ! 僕があの時ああしてなかったらお前らアイツに何されたかわかんないんだぞ!?? 恩を仇で返しやがって! ふざけんな! あいつは結局やられ役なんだよ!! 女勇者に殺されて終わるゴミ! 雑魚! 今は玲奈を連れ戻さないといけないんだ!! もう1日経ってるんだ、本当は昨日中に何とかしなきゃいけないのに、あのふざけたガキに何をされてるか分かったもんじゃない!!! ふざけんなあれは僕の娘だ!!  僕をこんなに我慢させて置いてふざけんな! お前ら全員斬首するぞ!!」


 何も知らない相手にブチ切れて感情のまま口にする。



 王の乱心。



 のちに『愚王』と呼ばれる原因となった出来事で有る。



「斬首、と言いましたかな?」


「ああそうだ!!わかったら!」


「その場合処刑されるような国(・)にいるわけにはいきませんなぁ、どうしますかな、ああそういえば隣に新(・)興(・)国(・)ができていましたなぁ〜、あちら側に亡命するしかありませんなぁ〜、まぁ冗談ですが」


「ぬぐぐ」


 その時の貴族達の顔は“口には気をつけろ”と言いたそうな表情だった。


 本当の悪はどう転んでも死なない算段をつけている、準備を怠らない。

 たった一つに執着しないのだ。


「まぁ大丈夫でしょう? 一応武器はお貸しいたしますよ当然じゃないですか? (旧式の処分品だけどな) きっとその軍勢を見れば礼司様も玲奈様を返してくれるんじゃないですかね? そうあって欲しい者です礼司様とは私たちも仲がいいですから」



 笑う。嗤う。見下す。



 王に転生した彼は何故自分がこんなストレスを与えられているかわかっていない。

 イジメを受ける理由もわからない。


 イジメとは受けてる人間が感じたらイジメだ。


 彼はこの展開をイジメだと認識している。


(何故この僕がこんな事に!! あのガキのいう通りハミィの言う通りに歴史通りに動いてやったのに! 僕は悪くない! こんな世界が悪いんだ! 僕は悪くない! ちくしょう、誰か僕を助けろよ! あの側近ジジィめ、勝手に捕まりやがってふざけんな! こうなったのもお前のせいだ! この戦争で殺してやる! ガキもジジィも! よくわかんねぇもう一人もぶっ殺してやる!! もう我慢しねぇ、こうなったら正しい小説の流れなんか知った事じゃねぇ、玲奈を僕のものにしてやる! そして王でいるのもやめだ! 神になってやる! この世界の神! あの女勇者も知識チートで手に入れてみせる!! 貴族どもめ今のうち笑ってやがれ!! 見返して絶対『ざまぁ』って言ってやる!)





 もう口にしない、そのザマは負け犬のサマで有るが彼は気づかない。





 そしてその様子の歪さに五傑達は気が付かない。

 ハミィ以外は何を話しているのかなどどうでもいい、王の護衛以外はあまり興味がないのだ。


 それが自分たちの命を脅かす結果になってしまうと勘(・)違(・)い(・)す(・)る(・)のはそれほど後のことでもない。


 結果は変わらない、だって女勇者には誰も敵わないのだから。

誰もが誰かに『ざまぁ』と言いたい。

これはそんな見たくないものを見せる物語。

この連鎖はイジメと認識される行為がこの世から無くならない限り続く。


だがこの世から『イジメ』がなくなることなどない。



次回、第28話 「昨晩はお楽しみでしたねぇ? グヘヘへ」




☆こんにちわオニキです。

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