第23話 「カミヤミ噛み」
素人恋愛通の女勇者が真っ赤になってスタンされてる中、場の空気を読んであの人が行動に出た。
〈スタン〉=ゲーム用語、行動が数秒不能になる事。※ゲームによって若干違いあり。
「君たちは誰に喧嘩を売ってるかわかってるのか??」
園田さんが苦言を呈してきた。
この人は超絶場の空気が読める、なんとなくで場の空気を読まず言葉以上の結果を作るタイプの竜子が不能になった今が心の攻め時。
そう思ったんだろう。
「わかってるよ、俺の親父、火星の王、独裁者、そしてその全ては母様の力を借りた偽物の王だ」
俺はこの人に口喧嘩で勝てる自信がない、論破も出来ない、それでいて紳士で感情にも訴えかける。
宰相として、王の隣として、No.2としてこの人に勝てる人間は居ない。
「違うぞ礼司君、君はお父上の事を何もわかっていない」
「確かに知らないな、でもそれは園田さんも同じじゃないか?」
だから論破しようとしたらダメだ。
わからない事を言って一か八かの賭けに出て口喧嘩をするより、確定情報だけで園田さんを説得しないといけない。
「同じじゃない、私は君が生まれるより前にあの人の後ろを見て…………」
「その中身が違うと言ったら?」
あの男が俺と妹と園田さんの前で言った事から揺さぶりをかけよう。
多分俺と同じで記憶を思い出すパターンだと思うが。
人は目で見たものを信じる、それが新鮮な記憶であればあるほど有効だ。
古い記憶は改変されてしまう可能性がある。
「何を?中身が? 何を言ってるんだ君は!!!」
「俺はね、アレの中身が違うと思ったのは母さんが死ぬ前だと思う (大嘘)そう言う異能があってもおかしくないんじゃないか?」
異能のない者は異能を感じ取れない。
それを利用するしかない。
乗っ取り系の異能にかかればそれを感知できる。
だがそれは異能者の感覚であり園田さんは元地球人、異能を持たないし感知もできない。
そして転生前よりオヤジは園田さん以外の人間は信用していない。
薄っぺらい嘘だけど、それでも園田さんの説得には必要な嘘。
オヤジを殺すまで持たせればいい、死人に口なし。
「…………犯人は誰だと思う?」
「異世界人じゃないかな (超大嘘)」
いや、嘘じゃなくもないか。この世界からしたらどちらも異世界人だ。
だが俺は親父の首を落とした後、真実を告白する。
ずっと黙っていればいい。
確かに園田さんを異世界に行かせなければばれる心配などない。
だがそれは卑怯だ。
園田さんを騙しておけない。
自分は復讐をするくせに騙す様な事をしたくない。
だから園田さんは正しく俺を恨むべきだ。
だがそれは今じゃない、正直言って園田さんに今説得されたら厄介なんだ。
この人は独裁者の側近のくせに真っ直ぐすぎる。
俺みたいな奴の心を折る術を知っている。
俺の復讐の最大の壁はこの目の前の何も知らない善人だ、だから今は何も知らずに混乱してもらう。
「素敵だなぁ礼司、まさに魔王らしい振る舞いだぁ❤︎」
くそ、さっきから微妙に悪っぽい顔で笑いやがって! 悪ぶるならその真っ赤な顔冷ましてからにしろ!
また勝手に人の心を覗きやがって!! それでも女勇者か!!! 陽菜ちゃんとゆりゆりしろ! 俺はまだ百合展開を諦めてないからな!!
「確かに四つ子の生まれた日から、あのお方は変わられた。特に次女の玲奈様に対する見方が、その下品なものの見方になっていた。まるで別人の様に!!」
かつてのオヤジは少なくとも分別のある大人だったのだろう。
「貴方は何も間違っていない、間違っているのは私たちです。ですがその間違いを正す気などありません。貴方はここで全てを見ていてください。貴方だけは間違いたくない」
そしてこの人は人の機微をも見抜く才能がある、やっぱり中身が違うことに気がついていた。
まぁだからといって転生云々本当の事を言っても頭がおかしくなったとしか思われない。
前世、か。
俺の前世の記憶を思い出したタイミング…………。
それは俺自身が竜子のことが好きだと自覚した瞬間。
そして前世の俺は竜子を女にした事を後悔していた。
記憶を思い出すタイミングは何か法則性があるのかもしれない、オヤジは玲奈の生まれたタイミング、そして俺の作品を前世の俺が死んだ後の事も知っている。
玲奈がオヤジの推しキャラだったとか?
でも玲奈は特に描写してなかった人物のはずだ、それにクロックスなんて略し方も俺は知らない。
いや、そもそも原作者のあの男が死んだのにアニメ化したのもおかしいだろ?
だって著作権とか、死んだ後でそんな事、あるわけ、ないか?
もしあのサイトの運営者にあのガキが居れば可能かもしれない。
原作者を殺して勝手にメディア展開、乗っ取り、そしてこの世界を作った。
玲奈はアニメのオリキャラ? もしくはクロックs………クロスロードの別媒体のキャラとか?
確かゲーム内転生の悪役令嬢モノとかでも主人公の死後に続編が発表されて知らないストーリーが始まるってやつがあったな? 読んだことはないみたいだけど。
あのガキに聞けばなんでもホイホイ教えてくれそうだが。
いややめておこう、そんなの知っても逆に意識しすぎて邪魔な情報だし、アイツは無視すると決めている。
「お、お兄様」
ずっと黙って怖がってた妹が、俺の世界一可愛い妹がやっと声をかけてくれた。
「どうした? お兄ちゃんに相談か?」
「はい、あのじじぃ、火星愚王に反旗を翻しお兄様が、その、この魔王城の主魔王になって国と喧嘩するってことですよね?」
うーん、血の繋がった妹の言葉だとちょっと凹むなぁ。
「ああ、言っておくがお前を逃がさないぞ? 俺は酷いお兄ちゃんだからな?」
いざとなれば妹達は玲奈の〈支配〉の異能で逃げられる、ここは優しくしないで印象を悪くして即断で逃げられる様に心にわだかまりを残させない。
「望むところデェスッ!!!」
「え?」
妹は食い気味にそう言った。
「あ、失礼。ゴホン、えーっとですね? 私は思うんですが一応これは三人と捕虜だけの4人の魔王領vs100億の火星勢との戦争になります」
「あ、嗚呼そうだな! 圧倒的大差だなぁ! 心が躍るっ!!」
無謀な魔王、その印象でいい。
「ハイ!! でも現実的に兵役できる数は多く見積もっても一千万、士気の高い兵となると一万にも満たない数になると思います! なにせ愚王は異能者ではありません、今の10代の異能者が本当に心酔している人は聖女であり聖母であるお母様です!!」
「うむ!」
一万人よりは流石に多いと思うけど。
「故に妹達全員がお兄様側につけばそれだけであちら側の指揮系統は無茶苦茶になります!!!!」
「うむ! え?」
話の流れが、アレ?
「あそこでお兄様が愚王をぶん殴ったのは英断でした!! きっとあのジジィは感情的になって今頃お兄様を魔王扱い! 私を攫ったとかなんとか言って自ら墓穴を掘ってお母様の信奉者であり異能の軍を敵に回すでしょう!! さすがです!!」
「え? い、いやそうはならんやろ? だって俺は愚息だって、愚かな王子のはず」
「お兄様が1人愚王に立ち向かったあの出来事は異能者側には『愚王に立ち向かった女王の子』としてしか見られていませんよ??」
え? あ、そうか。
今の時代新生児はみんな異能者。
そんな彼らにとって母様は『王妃』ではなく『異能の女王』
どんな思惑があるにせよ母様を殺したオヤジに異能者達が従って戦う理由がないんだ。
だって命令を下す側の上司の殆どは異能を持っていないのだから。
異能という銃を持たない上官など恐るるに足らない。
「…………そうだったとしても、玲奈、この世界では科学兵器は有効だ。それに恐怖して力の弱い異能者が兵になって俺と対立してしまうこともあるだろう。だが俺はそれを知っても殺す事に躊躇いはない」
これは偽りではない事実だ。
俺はもう礼司、竜子がいなければ何も成し遂げられない卑劣な魔王だ。
「お兄様…………そんなゴミ畜生のために心を傷つけるなんて、てぇてぇ!!」
〈てぇてぇ〉=とおとい、尊いの同意造語。
「ふぁ??! 玲奈さんっ!!?」
「お兄様!! 恐怖には恐怖です!! この魔王城を更に強化しましょう!! そして弱者共にも分からせるのです! 芦崎礼司魔王陛下に逆らうその愚を!!」
どおやって???
[部下より申請、魔王城の強化をしますか?][選択肢 Y/N]
〈強化の条件〉
・部下の〈隷属化〉を魔王の意思で実行する。
〈隷属〉
・指揮系統の上下関係を魔法によって明確にする異能。
・本来のポテンシャルを超えた力と速度を部下に与える、また伝令係などが要らない、通信手段としても優秀な異能。
〈隷属化の条件〉
・指揮をする上の立場の血液を部下に摂取させる。(注意、部下の攻撃での出血でないと不可)
・二者間の同意が不可欠であるので強制的な隷属化はできないものとする。
[妹、玲奈の持つ複数の異能のうちのひとつで、妹自身の〈支配〉の異能により貴方にも使えます]
え? 玲奈のふたつめの異能??!
「隷属? お前、母さんと同じで複数異能を持ってるのか?? 異能の、女王じゃないか!!」
「ええ、でも私は王には相応しくありません。先程のお兄様のジジィに対するキレ方で確信できました。王には能力だけでは計れない凄みが必要なのです、ですから私は女王ではなくお兄様の奴隷です❤︎」
なんで嬉しそうなのだろう? この妹。
「だが俺の血を飲ませるだけで魔王城の強化に繋がるなら安いもの! 竜子!!」
「おう、私のつるぎを使うのか? 別に構わんぞ?」
「ダメですお兄様!!」
え?
「傷をつけるモノは奴隷側の所有物限定です! あの女の剣でつけた傷では無効になるのです!」
※再掲
〈隷属化の条件〉
・指揮をする上の立場の血液を部下に摂取させる。(注意、部下の攻撃での出血でないと不可)
・二者間の同意が不可欠であるので強制的な隷属化はできないものとする。
「部下の攻撃だから別にお前が竜子の剣で怪我をさせればいいんじゃね?」
「…………その女の剣には別の人間の血がこびりついてます。万が一にもそっちの奴隷になるは嫌です!」
血は化学的には鉄分。包丁だって切ってきた食材の血が分子レベルでは染み込む。
竜子の剣の究極スキル、エクスカリバーにカムイの血液情報がないとも限らない。うーん。
「あー、うん確かに怖いな。でもどうするんだよ?」
「か、か、簡単な方法がありましゅ! こひぇで、かみぇばいいんでしゅ❤︎」
ぬちょぉ
口を開け歯を指さす、ってか唾液多い。下品だ。
えっちだとか思ってないぞ! 実の妹なんだからな!
[いいから早く選択して下さい]
※再掲
[部下より申請、魔王城の強化をしますか?][選択肢 Y/N]
取り敢えずずっと出っ放しのツクローッパ御用達ステータスウィンドウ。
その選択肢に俺はYESを指さした。
素敵な冒険を始める前のレベリング。
ただしエロい事をされます。
第24話 「白い布と真紅の瞳」
☆こんばんわオニキです。
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