第21話 「プレイヤーvs盤上の駒」
「お前のいう事をそのまま信じるわけないだろ、自分を犠牲にした王への憎しみ逸らしかもしれない、まぁたとえお前を殺してもあの男は殺すけどな、邪魔をするな」
「あー、うんそうか。ちょっと失敗しちゃったか〜」
俺を嘲り、ふざけながらそいつは笑っていた。
無理矢理笑っているのではなく、全てがどうでもよくて笑ってる様な、目の前の相手を見ないでここにいない誰かに語る様な笑い。
気持ち悪い。
コイツは何を考えているんだ?
多分だけど誰かの犠牲になるとかそういう狂信的な奴じゃない、表情からしか察せないがコイツは100%自分の為じゃないと行動できない子供みたいな子供だ。
俺が子供の時から子供な奴だ。
コイツの実年齢がわからない。
なんでこんな気持ち悪い奴が今まで知られずにいた?
不老不死?
そんな異能が?
いや、もうこの世界は俺の小説の世界から逸脱した世界だ、小説の範囲内で考えるべきではない。
しかしコイツの異能は〈とっかえひっかえの自由〉だ。
異能は母様以外は一人に一つ、なんでそんな設定にしたのか?
ただ異世界の人間とこの世界の人間の力の差をはっきりさせたかったからだ。
だが、もし異世界人が、というより転生した人間が俺より前にこの世界に居たら?
俺より俺の知らない俺の作品を知っていたら?
それはもう俺の知っている範疇を超えた設定になる、異能だろうがなんだろうが二つ以上使える可能性がある。
そもそもこいつはなんだ? 何者だ?
瞬間、俺の中の憎しみの感情が蘇る。あの最悪の敵への殺意が蘇る。
俺は全ての疑念の全てがどうでも良かった。
火星の王を殺す。
父親の体を乗っ取ったあの男を殺す。
母様の仇であるあの男を殺す。
感情的に殺す。
俺の手で、俺の意思で殺す。
「復讐の邪魔をするならお前を殺す」
そう凄んだ、妹の姿で、背後で動けなくなっているであろう俺の姿の妹は無視して。
目の前の邪魔者を脅した。
「それじゃあダメだ。君が僕に憎しみをもって殺してくれないと、そうじゃなきゃ意味がない、憎しみの連鎖を途絶えさせるわけにはいかない、君にも僕と同じ目にあってもらわないとさぁ?」
ぶん!!
一瞬眼前のガキが消えたと思ったら俺が現れた。
恐怖に引きつった表情、それは、俺の妹だ。
異能を発動して俺の背後に回ったか? 玲奈と自分の位置を取り替えたのか。
しかし便利な能力だ。
さまざまなチートを考える中で最も強いチートは発動条件の軽さだ。
拡大解釈も捨てがたい、例えば農業スキルとか言いつつお金を植物と見做すとか頭悪い奴だ。
だが拡大解釈ってのは要は発動条件の軽さの延長の利便性だ、どれだけ拡大解釈されてもそのチートが発動しなければなんの意味もない。
好き勝手に力を行使できるかがチートの強さを決める、だってズルなのだから。
それを考慮した上でこのガキの異能は素晴らしいチートだ。
俺の作品では『四人の護衛』の5文字でしかない存在の一人だが。
…………四人?
確かに前世の記憶じゃ王の護衛は四人だ。
なぜ今まで忘れていた? いや、細かな違いなんて今まで気にしていなかったからだ、だってもうこの世界は作者の手を離れた世界。
多少の違いなど気にもとめていなかった。
振り返るとやはりソイツはいた。
俺と同じ特異点。
ストーリー通りでない存在。
何者だかはわからないがおそらく全ての元凶はコイツにある。
「俺の記憶だと、王の護衛は四人だった筈だ」
「あーそうだよ、護衛四天王。君の設定だ」
笑いはたやさないが目が、目つきが鋭い。
設定…………成る程。
「お前みたいな奴はいなかった」
「当たり前さ、この世界を本当の意味で変革できるのは君と僕だけ。他の奴らは盤上の駒に過ぎない。もういい加減悟りなよ、これはゲームなんだ。僕と君がプレイヤーの殺し合いのゲーム、君が僕を殺せば君の勝ち、僕が君に殺されれば僕の勝ちWIN-WINのゲーム」
どっちもお前が死んでんじゃねぇか。
「お前の様な子供を殺せるか、どう考えても何か変な罠があるだろ」
「死にたいだけ、信じてもらえないと思うけどね、僕を殺せばあの男をここに連れてくるよ」
死んだ人間がどうやって連れてくるんだよ?
「この嘘つきが、お前が死んだら何かあるってことだろうが。女神少年」
「あーあバレちゃったか? でもいいじゃない? 君元々この世界好きじゃなかったじゃあないか前世も今も、だったら何があったってなくたっていいんじゃない? きっとセーブ&ロードで最初からやり直せるよー、そう言うツクローッパ作品もあるじゃない?」
前世、ツクローッパ、確定だ。
なんでか知らんが本当の黒幕が俺の前に現れた。
だが。
「そんな話どうでもいい、お前と話す時間など要らない。俺はあの男を殺す、もう決めた。お前は四天王か? それとも黒幕か?」
「黒幕だね ホラ僕は君に殺されなきゃ…………」
「そうか、黒幕なら恨みはない。あの男を守る理由もないな、だがお前はあの男の場所を言う気はない。ならば撤退だ」
また顔が変わる、だめだコイツ黒幕の器じゃない。
なんでか知らんが俺に殺されるために回りくどい事をしてたみたいだがその詰めが甘い。
人の気持ちを知識として知っていても真摯に理解できていない。
「な! 何を言っている!! ぼ、僕は君の前世を殺したんだぞ??! ホラ! 僕は君の仇だろ!!!」
嗚呼、やっぱり。
あんな唐突に死ぬなんておかしいと思った、前世の俺は…………いや前世のあの男はやっぱ殺されてたのか。
「だからなんだ? 今の俺には関係ない、お前を殺すなら俺じゃなくて前世のアイツだ」
「君はこのゲームのプレイヤーなんだよ!!!??」
やっと、こいつの感情を見れた気がする。
そんなつもりはなかったが、俺の正直な気持ちはコイツを苛立たせるらしい。知った事じゃないが。
「俺は、芦崎礼司。母を父に見殺され今ある幸せすら失いかけてる弱き魔王だ」
「な、何? まさか自ら盤上の駒に成り下がるつもりなのか?」
目を見開き、驚愕している。
「成り下がるじゃねぇ、成るんだ。お前はいつまで神を気取るつもりだ? 俺はもう決めた、この世界で生きる」
「…………ジンか? あの男に! あの〈ジョーカー〉に誑かされてそんなことを!! くそ! くそっ!! ふざけるな!! 駒の分際で僕達のゲームをっ! 僕の復讐を世界に対する復讐を汚すなんてぇええ!!!」
「駒だのジョーカーだの酷い言いぶりだな、クソガキ」
世界。そんなわかりにくいものを憎むなんて面倒なヤローだ。
だが今はそんなことを言ってやる気はない。
勝手に苦しんでやがれ。
ああ、ちがうな。
あの男なら、転生の直前まで反骨精神を忘れなかった前世のあの男ならきっとこう言う。
「前世のアイツを殺した罰だ。ざまぁみやがれ」
「!!!????」
あの男の様に中指を立てて笑わずただそれ以上の感情も湧かず、大切な妹の方へ足を進めた。
「玲奈! 園田さんごと俺らを瞬間移動だ」
「え?嗚呼、はい!」
「え?私も!!?」
この人を俺の復讐の犠牲にしたくない。
園田さんは誘拐して全てが終わるまで魔王城で軟禁させてもらう。
「「どこに?!?!」」
「魔王城だ」
「待て、芦崎礼司!!」
女神少年は本性をあらわにした鋭い表情で、手のひらを向けて俺を………………芦崎礼司を見ている。
「今!! 僕を殺さなければ君の大切なものを殺す。なんとしても君の復讐の対象になってやる、だから今殺せ、僕はもう…………生きていたくない!! 僕を殺せばこの世界は君のものだ」
なんだコイツ、そんなの…………
「断る! この世界は竜子と半分こするんだお前なんか入る余地などない!!」
ぶんっ!!!
そして俺はその場から撤退した。
だからそのあとそこで女神少年が何を言ったか知らない。
「あしざき、芦崎礼司ぃいいっ!! …………君は絶対許さない! 君の前世を、朔者を返してもらうっ!!! 消えろ、このジョーカー共めぇええっ!!!」
そんな言葉は聞いていない。
忘れてはいけない、この物語は誰かが唐突に死んで。
いや、殺されて始められた物語なのだ。
テンプレだからと思考を自動化してはいけない。
第22話 「告白と黒」
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