第20話 「魔王の目覚め」 2/2
「その反応は、やはり転生したのか? いつ記憶を思い出した? 今日か!? それとももっと前か? 前世は男か? 女の子だったらパパは嬉しいな」
お前はいつからだ、と言いたい。
だがその質問に意味はない、問題なのは中身ではなく外身、でもなく立場だ。
目の前にいるこの男は母様の仇でもなく、俺の父親でもなく、肉体を奪った外敵だ。
しかも火星の人間の半分の命を握っている、俺と同じ立場にいる愚か者だ。
何をするかわからない、だったら殺しておかねばならない。
「実はパパはね結構前から記憶が戻ってたんだ。あの男に何か言われたか? まだならパパが色々教えてあげよう、知ってるとは思うがこの世界は[クロックス]の世界だ」
クロックス? 何だそのサンダルみたいな名前は?
俺の小説の名前は『CROSS×ROAD』クロスロード。
え? そんな略し方ある? まじでやめて欲しいんですけど?認めないよ?
作者として。
やばい、名前が気になってオヤジの言葉が耳に入らねぇ!
ってか転生。
「お父様は、一体いつから記憶が蘇ったのですか?」
「ああ、やはりそうか。そういう質問ができるという事はやはり…………質問に答えよう。それは君が生まれた時だ、それまでは悪役レージ魔王の父親としていたけど記憶が蘇った? というよりは入れ替わり? いきなりこの世界に放り込まれた、意味わかんなかったよ。そして変なガキに強制されてこの世界をストーリー通りに導いてきた、激務すぎて死にそうだよ!」
知能レベルが一気にデバフされた様だ。
今まで何も言えなかった分が濁流の様に流れ出たのかしらんが、変なガキに、というのは多分俺を転生させたアイツか?
いや、自分の目で見るまでは確定させるのは危険だ、不要な争いを生んでしまう。
俺の妹が14歳、つまり記憶が戻ったのが14年前………つまり。
コイツは未来を知っていて何も変えようとしなかった。
「つまりお前が母様を見捨てたことになんら変わりはないと言うことか」
言われた事をただ行動し、目の前のものをただの人形としか思わず。
ただただ保身を重ねただけだ。
その結果、この茶番。
「へ?」
もうやめだ。
こんな茶番はもうやめだ。変身も解かなくていい、この姿のまま俺は問う。
「何故母様を見捨てた盾一」
「あ、あ、あの、今の俺は、いや僕の名前は!」
「今のお前は盾一だ! 前世の事など知った事じゃない! 何度でも問う! 何故母様を見捨てた!! この世界のためじゃなかったのか! 何も知らないガキにこの世の理不尽を教えるためでもあったんじゃあないのか?!」
そう思って俺はこれまで生きてきた。
消えない傷だ、消す気もない。
だがその行為に意味がなかったとしたら…………多分、俺は…………。
「え? だってそれがクロックスのストーリーラインだし、あのガキの言う通りにしただけなんだけど? 玲奈ちゃんもそうでしょ? ね?」
多分、俺は狂い出す。
「あしざきぃいい、じゅんいちぃいい!!!」
「ひぃぃいっ!!!」
俺は父を殺すと決めた。
瞬間、多分自分でも制御できてない顔で激情で、怒りを表していたんだと思う。
だから側近の園田さんも、妹も、だれもが俺を止めようともせず、俺を悪魔でも見る様な顔で怖がっていた。
ドッペルゲンガーはコピーした人間の身体能力しかない、だから妹の力しかないはずだが、しかしそこは玲奈の『支配』の異能で俺自身の力がこのドッペルに上乗せされていた。
だから疲れ切った王の体など簡単に片手で持ち上げられたのだ。
首元を締め上げ息ができない様で面白い顔になっている。そのまま死ね!
その無様は逆に殺意が湧く。そのまま死ね!!
「お前は! お前だけは! 絶対に許せない! 何の為に母様は蹴られ! 虐げられて! あまつさえ殺された! お前だけが助けられたのに思考停止して見捨てた、だと!! ならばここで死ね! 今死ね!! 死ね、死ね、死ね、死ね!!」
「おぶ、ぶは、げっひゅ!」
ガン、ベキン、ギュギョ!!
何度も上体をもちあげて何度も何度も机にぶっ叩いて生かさず、殺さず、苦しめる。
いや、コイツは殺す。
コイツは敵だ、思考を停止して他者に危害を加えることをなんとも思わない、何もしなければ何も悪くないと思い込んだ偽善に劣る悪。
悪意を悪意と認識せず制御しない最悪の敵。
きっとコイツは正義のつもりで、悪になる可能性の高い俺を痛めつけたのだろう。
あの作品を知ってるならそうだ。
逆の立場だったら俺もそうしようとしたかもしれない。
だがそれをすると言うことは。
思考を自動に任せると言うことは俺を悪に導くことに同意したということだ。
きっとコイツは反省しない、己のした悪行を理解してもすぐに正当化しようとする。
母様を見殺しにしたことを、正当化しようとする。
それも許せない、何もかもが許せない。
こんな奴の為に、こんなふざけた奴のせいで母様が!
「れ、玲奈?!そんな、そんなバカな」
「まだ気がつかないのか? バカめ、お前はここで俺に殺される、それで終わりだ愚か者」
「ひゅふ??!」
愚王の体をさらに高く持ち上げる、全力で机の角に頭を叩きつけ殺そうとした。
俺の殺意が伝わったのか、それとも単にガキなのか、俺に蹴りやなんやらをして抵抗してきた。
Sランクの兵の俺に通用するわけがない。
言葉なく、俺は殺す力で愚王の頭を振り下ろす。
だが。
「ダメだよ? まだ殺させない」
ドゴ!!!
手から汚いジジィの頭の感触が消える。
勢い余って机にそのまま攻撃、結果破壊する。
きっとそのままだったら愚王の頭もこの机の様に脳漿をぶち撒けながら破壊されただろう。
何故、それが起こらなかった?
「お前は!」
ガキ、金髪の少年。
俺がガキだった頃からガキだったガキ。
コイツは確か護衛五傑の五人の一人、王を護衛することに長けた異能を持つ者のひとり。
俺と同じくらいの年齢のはずだけど。
名前は不明、通称ハミィ。
俺をあの時吹っ飛ばした五人の中のひとり。
そいつが俺から少し離れた距離に浮いて笑顔でこっちを見ている。
この小憎らしい表情、顔の造形は違うがあの少年に似ている様な気がする。
「残念だけど王様は安全なところにワープさせたよ?僕の異能「とっかえひっかえの自由」でね?」
〈異能〉とっかえひっかえの自由
• 通常の移動の能力と違い二つの居場所を入れ替える異能。
• 居場所の交換なので移動先の安全が通常より確保されている。
• 能力の条件などは特にない、とされている。
結構有名な異能だ。
本人が隠す気が全くないのだから当然と言えば当然だが。
単純だからこそ対策が取りづらい異能とも言える。
コイツの体が顔が全く老けないのは気持ち悪さを感じる、俺の復讐対象の1人だったが…………。
それより今の俺にはするべきことがある。
「あいつをどこにやった! あいつは殺す! 居場所を教えろ!!」
「そう言うわけにはいかないから僕がここにいる。どこにでも居てどこにも居ない僕はそんな猫みたいなやつさ? にゃおう♫」
招き猫の真似。
完全に俺を煽っている。
だがそんなものに構ってる暇なんてない。
わかりきった挑発にキレている時間はない。
「…………お前は、何者だ」
今の俺はこのガキの異様さ、不自然さを感じている。
「ふふふ、君が礼司だと言うことは知ってるよ? お初にお目にかかる魔王様、仮初の力で怒り狂い、僕のストーリーのまま操られている気分はどうだい?」
やはり煽っている。
だがコイツに対する感情は今のところない、それよりもあの愚王を殺さねば、多重尊敬語なんて気にしていない。
「仮初というなら俺の人生全てが仮初だ、俺の命なんてただそこにある灯火の様なものだ、だがそれでも俺は敵を見つけた、あれを滅っさねばならない。俺の邪魔をするならお前も殺さねばならない! だから教えろ!! あの男はどこだ!!」
「教えないったら、ここで君をどうにかしても本体はここにないから無意味だってことは知ってる。だから詰みだ、何もしない、ここでできるのは君と僕との会話だけだ」
?
「何を言っている、ここには妹も王の側近もいるぞ?」
「彼らには無理だよ、現状君しかこの状況を理解できない、僕たちが何を言ってるのか分からない。だって彼らは転生者じゃなくて純粋にこの世界の人間だから」
嗚呼そうかコイツも転生者か何かなんだな?
「そんなことはどうでもいい!」
「酷いなぁ。この時のために僕はこの世界をず〜っと操ってきたのにさぁ」
は?
「お? いい顔になったね礼司くん。そうさ僕が真犯人さ、君のお父さんにアドバイスして君のお母さんの死を招いた元凶さ」
「お前何言ってるんだ?」
「この上なく簡潔にわかりやすく言ったじゃないか? 僕が黒幕で僕が本当の仇で君が殺すべき本当の魔王が僕だ」
顔の表情が変わる、笑ってはいるがどこか影をはらみなんというか怪しい魅力を持っている。
だが、役者を演じている様な感じもある。
「お前は何を言っているんだ?」
「まだ分からない? 僕は君を転生させた張本人、この世界を小説の通りに動かしてきた真のラスボス、悪そのものだよ?」
馬鹿らしい、そんな事を懇切丁寧に自分から教えてくる裏ボスが居てたまるか。
コイツは嘘をついている、嘘くさい顔だ。
「もう一度質問する、お前は何を言っているんだ!!?」
「え? あれ? 君察し悪すぎない?」
「察しが悪いのはお前だ。たとえお前が本当にあの愚王を操っていたとしてもお前が俺の仇になる事は絶対にあり得ない、何故なら母さんを見殺す判断をしたのはあの男だ。お前じゃない、あの男に僅かでも事の正悪を判断する気があれば母様は死ななかった。お前に憎しみなど湧くわけがない、それだったら地球の猿どもの方が憎い」
「は?」
逆に俺が煽ってしまった様だ、少年の仮面を被ったそれの本質がその怒りの表情に現れる。
多分コイツは何かの理由があって俺の殺意を向けさせようとしている、だがそんな見えすいた作戦に俺が引っかかるわけがない。
「つけ加えるならアレは王という立場にありながらそれを全うしなかった。その事に変わりはない、あの男を殺す事は決定事項だ。俺の魔王として、この世に生まれた一個の生命として俺の命を脅かしかねないアレを殺す」
「僕を、殺さない? 嘘だ。嘘だ!!」
驚愕した様な顔で俺とそいつは対峙する。
嗚呼、何故だろうか? とても目が覚めた気分だ。
やっと俺は1人になれた、やっとこのゲームの盤上に立つ事が来たんだ。
やっとこの世界の1人になれた。
「俺の復讐は俺のものだ。お前の好き勝手にされてなるか」
少年は世界を歩む。
神を名乗る少年はまだ駒遊び。
割り込み小話 「どこかの世界の誰かが始めた登場人物の世界」
☆こんにちはオニキです。
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