第09話 「それでも俺は百合が好き」 ❤︎
「んーーーーーーー」
竜子は俺の話を聞いてすっごく悩んでいた。
おそらくは自分で作ったであろう粗末なベッドの上で腕を組んで唸っている。
包み隠さずただ本当の事を言ったんだ、余計なことは言わずにな。
まずは未完の作品だからこの後の展開次第では未来を変えられるという想像をさせる。
実際にかなりの強制力がある筈だ。
だってこんな小説をトレースしたかの様な世界だ、何かしらの強大な強制力があるはずなんだ、あるよな?
…………カムイが言っていた『特異点』つまり『作者のご都合展開』の事だろう。
だからこれから俺が何もしなければ『魔王の俺』は『勇者の竜子』に殺されるのだろう。
なんとなくそう思うんだが、それをそのまま信じていいものか?
信じない、が今の俺の希望する憶測になる。
多分、大まかな流れが変えられないルール、なのだろう。
話の流れ、プロットと言い換えてもいい。まぁ俺自身プロットなんて作った事ないけど。
でも俺は竜子にはあの小説通りに大量虐殺なんてしてほしくない。
だから特異点の俺がその大まかな流れをぶった斬らなきゃならない。
だから竜子は異世界に行かせない。
ゆりゆりカップル成立と同じくらいコレは重要な目標だ。
行けば竜子は罪のない魔族も殺さなきゃならない。
描写は端折ったけど『幾百の魔族をぶち殺した、罪のない魔族も含めてだ』というセリフを竜子に言わせている。
作者の俺だったらそれでいい、だけど今の俺はざまぁ要因の礼司だ、そうでなくてもこんな子にそんな事はさせてはいけない。
今となっては大事な幼馴染だ。
「なんかまた貴方悪いこと考えてない?」
「え?」
唐突に顔を近づけてきた。
幼馴染、前世ではいなかった存在だ。
だがなんというか。実際の幼馴染みって奴は友達よりも兄弟に近い。
だから性的対象にはなり得ない。
めっちゃ可愛いけど。
「俺、そんな顔してたか?」
「ああ、お前の考えてることはなんでもわかる。ずっと観察してきたからなぁ」
ああ、そうかこれも勇者の蛇眼の力か。
蛇眼は『能力のコピー』だけでなく解析による『読心能力』もある、余程注意深く見た時だけだけど、しかも有効時間もある筈。
本来は勝てるかどうかの瀬戸際の時に一瞬だけ使うような能力だ。持続的に、使えるものじゃあな、い。
ん? 俺を見つめる竜子の目が病み始める。
病みながら口端が裂けそうになるくらい歪み笑う。
「お前の想像通りだ。実は私は心が読める」
え? 読め、心が、俺の心が今まで?
ゾワ、
「アハ❤︎ 今、お前怖がっただろう礼司」
「あの、すんません竜子、さん? ちなみにその俺の心を読むって…………い、今まで毎日使ってた訳じゃないっすよね? その力一瞬だけでもめっちゃ疲れますもん、ね?」
敬語、もし俺の予想が正しければ竜子は、俺の予想を超えた化け物になっている。
「毎日ではないな、お前が私の前に現れた時限定だから週に5日ほど、机に座ってるお前を合計3時間ほど」
目の光が濁っている。笑顔なのにすんごく怖い。
こういうヤンデレ的な表情が存在するのは二次元だけだと思ってたよ。
「あ、あが!!」
言葉が出ない、というより声が出ない。
蛇に睨まれた哀れな蛙の様に全身が緊張してしまっている。
特異点。
前世の俺が作者だから起きた事だ、多分。
あの時の俺は『ただでさえチート主人公なのに心まで読めたらつまらねーよ』と思って制作段階で読心スキルには制限をかけたのにそれが全然反映されていない。
俺の幼馴染は原作の女勇者を超えてきやがった。
「お前が私を助けてくれた時に。お前に憧れて、興味を持って、お前の心を知りたいと思ったのがキッカケだった」
ベッドのシーツをわざとこすれさせて距離を詰めていることをアピールする、瞳は金色に輝いているのに瞳孔が開いている、まるで、まるでネズミを狩る直前の猫だ。
「なぁ、れぃじぃい❤︎」
ビク!!
「ああ、お前の予想通りだが気にするなお前のことは変わらずに好きだ。最初は事実に頭を悩ませた、信じたくなかったよ、お前が私を裏切っていたなんてなぁ?」
既に俺がクズ野郎だって事は最初からバレてたってことになる。
「ゴメン、なさい!」
「ホラ❤︎ やっぱり礼司は優しい、悪い事をしたら謝れる。あーでもこれでお前の罪悪感は消えてしまうのか〜お前のこれまでの良心の呵責は素晴らしい響きだったのになぁ♡ もう聞けなくなるのかぁ♡」
嘘だ、だって竜子は今までだって別に何も変わらずに接してくれた。
物語通りに。可憐で。美しく。清らかに。
「アハ♡ そうそう、最初はちょっとお前の心を読むだけで疲労感でぶっ倒れそうになってなぁ? でも気が付いたんだ、だんだん有効時間が長くなっているってな? そこでお前だけでなく他の人の心も見た、だけどお前の時のようにうまくいかなかった、嗚呼その時思った、これはきっと生まれついての相性なんだ。私とお前はきっと相性がいい♡」
違う、俺が特異点だからだ。
「違う、リューコ、それはきっと気のせいだ」
俺は非童貞の童帝で竜子は処女だ経験値は俺の方が高い。
だがそんなものは目の前の凶悪な暴力によって簡単に穴埋めされてしまう。
竜子のホモ発言が冗談だったにしろ、俺は魔王で竜子は勇者、俺はどう転んでも狩られる側なのだ。
「アハハハハハハハ、恋とは勘違いからも発生するものだ。何度でも言う…………私はお前が好きだ、今のお前も好きだ。中身が変わってないことも確認済みだ、お前は嘘が下手だからなぁ、うひひひ」
ビリリッ!!
言いながら俺のシャツを指で襟元からなぞり、なぞった軌跡に斬れ込みが入る、コレは勇者の斬撃スキルだ。
嗚呼、竜子の目が、やばい。
「俺は嘘をついていない、それは間違いないんだ!さっき言ったことも本当だ、中身が変わらないのも当然だ、俺は俺のまま思い出しただけだ」
「そう来たか。だがな、だったらおかしいだろ?なぜお前は魔王になった?聞いた話だとざまあサレ要員?とかいう奴なんだろう?お前の言う魔王になってしまったらそれになってしまうではないか?」
「それは、その、アイツは俺のせいで。正確に言うと前世の俺のせいで魔王という運命に取り憑かれたからだ」
本当は言うべきではないが、クソ……心を読まれるとはこう言うことか、絶対勝てる訳ないや。
「成る程、作者としての責任感から魔王を引き継いだ、計算ではなく、その場のノリでもなく、自責の念か……ふふふやはりお前は優しいよ」
「近い」
息がかかる、体温が伝わる、そしてメスの顔の女勇者。
「お前が他の女と交わってる時、私の事をいつも考えていただろう? そういうのもわかってしまうのだ。なぁ、私の事を他の女のようにリードしてくれないか?私は他の女と違って本当にヨガって見せれるぞ?」
ぐはか!! 童帝の作者にはキッツイ! ってか普通に好意がバレてる! ちくしょう!!
だけど今の俺にとっては、なんていうか、全然感動がない。
「…………処女のくせに生意気だ」
好きな人に告白されてこんな事…………絶対に前世の俺には言えなかっただろう。
「ああ、そうだ私は処女だがソレがどうした?お前は今や勇者に囚われたお姫様だ。お前の作った物語で言うなら女勇者はお前を助けに行かなきゃならんのだろう?」
「原因と解決方法が間違ってる、この第三次異世界大戦は俺が解決しなきゃいけない事だ、特異点がいなければこんなことにはならなかった。俺は本当はお前にざまぁされて殺されなきゃならないんだ」
そう、そしてヒロインである陽菜ちゃんとのゆりゆりエンドを迎えさせなきゃいけない。
白く透き通る様な肌、まだ女を知らないヒロインは女勇者の口付けによりメスになるのだ。
「…………おい礼司!今魔女の顔を妄想していただろ?」
「え?」
拘束された俺はその表情を間近で見てしまった、金色に輝く蛇眼という魔眼。
青色の髪、成熟までに少し至らない女性の肌と嫉妬にまみれたリューコの顔。
「違うんです、リューコさん。この妄想はあなたを視点にしてゆりゆりキッスをば!!」
「嗚呼、またそうやって私を騙す気か? お前の嘘は聞き飽きた、お前が私とキスをしたいのはお見通しだ!! 相思相愛!!」
「それは違うぞリューコ!作者ってのは登場人物になったつもりで物語を作るアーティストなんだ!だからお前の感じたそれは間違ってないが認識が違う!」
がっ!
首元を手で掴まれ押し倒される。
「もう黙れ、お前は魔王で私は勇者、それだけで十分だ、お前がどんなにあの魔女のことを好いていても魔王は勇者に攻略される運命にある低俗な魔女など入る余地はないっっ」
ダメだ! 話が通用しねぇ!
「じゅるるっ、ヒッヒッヒ❤︎」
舌で自分の唇を潤して「お前も潤してやる!」という目つきになった。女の子の顔じゃない!!
違うこんなの望んでない、童帝と非童貞が混じった俺は拗らせ百合好き男子!
そして何より作者として本来の形にならない主人公とヒロインなんて嫌だ!
他の何がどうなってもいい! だけどお前ら二人はダメなんだよ! 受け入れられないっ!
「やめっ……」
「今の私はホモだ、だから受け入れられないお前の意見など聞きはしない、ノンケを食うのはホモの嗜みだからなぁ♡」
何を言ってるのか分からない、分かりたくない。
「それでも俺は百合カップルが好きだ!!」
「流石魔王、勇者の言うことなど聞く耳持たんか? ならばお前の自己犠牲の精神もろともこの口付けでぐちゃぐちゃにして百合幻想を脳ごと破壊してやろう♡ 好きだ、礼司❤︎愛してる」
幼馴染が下品に口を開けると唾液がこぼれ落ちてきて、鼻先に被る、わざと時間をかけて屈服させる気なのだろう。
「耐えてやる、何をされても俺は…………!!!」
「うるさい、堕ちろ❤︎」
息が届く、リューコと俺の息が熱く、互いに届く、貪られるその時。
ばん!!!!
「ちょおおおっと待ったぁああ!!!!」
唇が重なり合う直前、作者の初キッスがホモと化した女勇者に奪われる寸前、どことも分からないこの場所に乱入してきたのは。
中等部、Sランク異能、芦崎玲奈。
俺の妹にして芦崎家次女、最も出来た妹にしてお淑やかでまともな黒髪美少女だ。
「お兄様の処女は貴様の様なビッチには渡さんっっっ!!!」
ん?今なんて言った?
百合好き男子の脳を破壊したい。
男子を。うひひひ。
次回、第10話 「魔王の妹」
☆こんにちはオニキです。
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※普段は16:00以降の投稿になります。




