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第55話『ゆずれないもの』1/8

 異世界、魔王城。


 魔王の部屋に3人。

 魔軍司令ジン。その側近のカイ。そして特攻してきた守礼。


 彼らは火星での出来事を見ていた。


 竜子の真なるエクスカリバーの覚醒。

 サクラの戦い方。


 礼司の土下座。


 その全てを見た。



「なんだこれは、こんなの何の意味がある」


「意味なんてないわよ、3人の男女が喧嘩して仲直りした。それだけよ」


「お前は、こんな展開を全て予想していたのか?? お前はどこまでが計算づくなんだ!!」


 ジンは声を荒げる。

 それを見ている守礼は動揺するでもなくただ真顔のまま答える。


「そんな訳ないじゃない、でも殺し合いにはならないと信じていたわ。だって皆いい子だもの、殺し合う理由なんてないし」


「夢? などそんなものはまやかしだ。現実を見て、未来の脅威を殺して、そうしないと奴ら人間は調子に乗る、アイツらは自己の利益だけでモノを語り他者に咎を背負わせ、最後に殺す。そうなってもその死後をも利用して、歴史という歪んだ物語に刻まれて新たな被害さを作るっ!! だったら最初から大切な人間だけ助けるしかない! こんなのはただの問題の先延ばしだ!!」



「ジン様…………」

 美少年カイはジンを心配そうに見ている。


 だが何も言えない。

 言えるはずがない、その話は彼にとって残酷すぎる物語だ。

 彼自身の入る余地が全くないのだから。


「先延ばしにしてるのは貴方よジン。ただ人間に絶望するだけなら誰にでもできるの、礼司のあの古代魔術の事なら私だって知ってるけど、何もあの子に近づく人間全てが悪用する奴らばかりだなんてわからないでしょう、それに人間が愚かだっていうならそうじゃない人間を集めて世界を変えればいいじゃない。貴方の力ならそれくらい出来たわ」



「…………そんなのは理想論だ、それに思想の矯正は暴力に等しい。それでは…………それでは礼司に群がる馬鹿と同じになる、お前の狙いが何だか知らんが私は礼司の周りに利用しようとする悪が群がるなら、礼司が何を言おうがぶっ殺す。(⚫︎)は竜子の様に優しくはない」


 怒気を胸に留める。

 古代魔術を見た時の様に暴走するほどの激情ではない。


(それが私の狙いだけどね〜♡ 着実に弟に魅了されてるわ〜ん♡ ちょ〜っとヤンデレ気味だけど私のホモ祭り計画は順調に進捗状況超良好よっ!!)


 悪魔、というより女狐はゲスの笑顔を浮かべている。

 こういう所が周りから女狐と言われる所以だ。


「ま、まぁ私の弟をそこまで愛してくれるなら私に言える事はないわ」


「愛?! ジン様! やはりこの女危険です。殺しましょう!!」


「カイ、大丈夫だ、アレはただの戯言だ。私はもう誰も愛しはしない」


 確かに戯言、ホモ祭りなど許されない。

 それと同時に、カイはジンとの心の距離を感じていた。


(多分これは私が女であっても変わらない。誰とでも距離を取られる。前代の魔王リナリリの存在がジン様の中では圧倒的な心の割合を占めていらっしゃる)


 羨ましいとも思った。

 多分自分が死んでもジン様はここまで苦しまない。


 その心の傷に自分もなりたいと思っている。


「あったま固いわねー、そういうのは読み物のキャラが言えば萌えるけど現実の男が言っても女々しいだけよ?!!」


 守礼のいちゃもん、何故か感情的になっている。

 それはきっとカイの気持ちを考えてしまったからだ。


 そう、今守礼は母性を覚醒している。


 お母ちゃんモードだ。


「ふん、お前に何を言われようがこれが大人になる事を決めた人間って奴なんだ。今更生き方は変えられない。夢を見るには遅すぎたんだよ」


(そりゃ本当なら私だって弟にホモ的好意を持ってくれるのは喜ばしい事なんだけど、でもカイちゃんが、自分で作った子がこんな辛そうな顔してたら何も言わずにはいられない!)


「ジン、大人ってね子供でいられなくなった弱虫がなる言い訳なのよ? 私はそんな風に意固地になって何かに縛られてる姿より奔放にみっともなくても足掻いてる方が好きよ?」


「好き嫌いの問題ではないな、事実人は愚かだ、古代魔術の本質的穴を知りつつ幾千年もその改善を何故人間がしてこなかったか分かるか? それは『他人事』だったからだ、優秀で、献身的で、思いやりのある美しく強い人間が先に死んで、醜く弱いその他大勢が生き残る。そんな現実が嫌だった、強いて言うならそれが俺の夢だな」


 優生思想のそれに近い。

 1000年生きて人間という生き物を理解し、予想し、自分の好きな者の味方になろうとすると必然的にそうなってしまうのかもしれない。


「そう、だったら見ていなさいな。貴方の手を借りるまでもなくあの子たちは手を取り合って生きていける。そして目の前の愛に気がつかない愚か者だったことに気がつきなさい、()()()()()()()()()()、お前の思い通りになると思ったら大間違いだ」


ドヤ顔とキメ顔で言い切った。

その表情は礼司のドヤ顔とそっくりであり『やはり姉なのだな』とジンは心の中で笑う。


「そうか、だったら見ていようか。私の予想ではこの後もう一回竜子とあのピンク色の少女は戦うぞ?」


少し意地の悪そうな笑顔だ。

どうやら隠された素の性格が少しだけ出たようだ。


「なんですって!!?」




そのジンの予想は、的中する。




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